春風 アイコニックなブックフェアと俺-2

時間ぎりぎりに入って、さっと練習着に着替える。セナが何か言いたそうにしてたけれど俺は部屋の隅で本を読んでいた。俺のストレスに合わせて読書量は反比例していくので、読み解くスピードは滅茶苦茶早いのだけれど。速読まではいかない、がそれなりに早い。そんなときは昔から放っておいてくれるのが『Knights 』のいいところだ。
集まってください。という青葉の声が聞こえて資料が配られる。そのまま俺は資料を受け取り部屋の中を見回す。転校生と青葉が壁際に立って俺たちを見回してる。一通り見てから受け取った資料に目を通す。繁華街で記載されるブックフェアというものに『Knights』が盛り上げ役として動くというらしい。それに俺が一時本を出したりコラムの仕事をしてるのが依頼の半分ほどを占めているらしい。講演テーマなんてまだ決まってもなさそうで、好きにしてください。とかいてあった。ぽつりと講演。なんて言えば音を拾った青葉が、「えぇ。保村 くんには30分ほどの講演をお願いしたいのです。最近またコラムのお仕事が増えて来たらしいですし。宣伝もかねてどうでしょう?テーマも好きにしてくださってかまいません。」なんていう青葉に全部振りなおす。お仕事なら、テーマもそっちで決めてくれていいよ。何でもできるから。何でも喋ってやると伝えると解りました。じゃあこちらである程度考えさせてもらいますねー。というので、当日までにテーマだけは教えてと言って、青葉は「じゃあテーマは後日お知らせしますね〜」と返事をもらって視線を俺は横に反らした。
こうして『Knights』の面々を見るのは久しぶりだ。どうということはないけれど、ひーふーみーと数えて一人足りないことに気が付いた。朔間の弟君が居ないなぁ。と思いつつ資料に目を落とす。ブックフェアがどういうものなのかという資料が展開されていた。写真を見ると、珍しい図書というのも展示していると書いてあった。ふぅんと流し見をする。今回のフェアをやる店の写真もあった。俺もよく資料を買ったりする店だ。買えば自動的に領収書を事務所名義で切ってくれるぐらいにご愛用のお店で、漫画にエッセイ、小説ラノベとジャンル不問で本を買ってるぐらいに、良くしてくれているしパートのおばさんとはよく会話をしたりする。まぁ、一方的に話してくれるのに相槌を打っているだけだが。
そういえば、こんどまたドラマのオーディションあったな。と思い出して、本を一度買うか。と考える。どんなことをやってやろうかと考えながら青葉の話を聞き流す。楽曲はどんなだろうか、と思いつつ世間に混ざったレオの歌だといいな。とか頭の端っこで思った。たぶんそんなこともないのだろう、そっとポケットの中の携帯のふちをなぞる。携帯カバーについた懐かしいストラップがそこにあることに安堵を覚えるのだった。

「文哉ちゃん聞いてる?」
「うん?なに?」
「もう、しっかりしてよね。リーダー代理補佐。」
「……そう、だね。」

【DDD】が終わってから変よォ。出会った頃はナルくん。って呼んでくれてたのに。なんて言われてるが、それも自覚している。セナは気づいているかもしれないけれど。俺が全部逃げてるので【DDD】が終わってからじっくりと腰を据えるように会うのは久しぶりだ。ふっと息を吐ききってから、俺はごめんちょっと空気吸ってくる。と一言詫びて部屋から飛び出した。後ろで鳴上くんが制止の声を聴いたが、それも聞かないふりをしてドアを閉めた。もしかすると逃げ出したとも言ってもいいかもしれない。そのまま軽い音を立てて俺はそこから離れた。
俺は依存している、レオにもセナにも。俺を『元天才子役』というのフィルターをかけてくれなかった奴があの頃にはいなかったから。なんていうのが一番幅を占めていて、そして俺というものが確立したものだ。二人がいなかったら、『チェス』や『バックギャモン』じゃなかったら俺はあれ以上に壊れてたのだろうな。ため息をつきながら、いつのまにかガーデンテラスにまで来ていた。
頭を冷やすためにも、どうにもならないので俺はそのまま自動販売機でお茶を買って近くのベンチに腰を掛ける。冷たい缶のお茶を両手で握って膝の上に肘ついて抱え込むような姿勢を取る。ふっと息をついて、どうして俺はレオを助けれなかったのだろう。どうして俺は壊れかけているんだろう。レオとセナがいて俺がいる。二人が揃っていないなら俺は俺じゃない。ただの壊れた人の姿をした機械に似た何かだ。息をして二酸化炭素を生み出すだけの有害の塊だ。たぶんこのままここにいると『Knights』にはいれなくなるだろう。思い切って離れて事務所に身を寄せてもいいかもしれない。夢ノ咲のユニット規定上限は5人で、今はレオが居ないからと俺がごりっと話を進めたが、レオが戻ってきたら6人になる。一人多いのだ。ならば、俺が抜けたほうがいいんじゃないかな。とも思考がそうはじき出そうになった頃。椅子にとすっと軽い音がした。視線を横に向けると、セナがはぁ。と呆れたようにこっちを見ていた。

「探したんだけどォ。」
「……セナ……?」
「なに?なるくんが心配してたよォ?」

んー。だろうね。と自分の気持ちなのにまるで他人事のように伝えると、じとっとした目がこちらを見ていた。視界に入れたセナを視界から外して地面を見つめる。冷たかった缶のお茶は汗をかきだしている。にじんでくる汗を指で拭いながら、妙な沈黙に身動ぎする。もしかしてれおくんと会わなくて淋しくなってるから様子が変とかいわないよね?と言われて俺の体がぎくりと固まる。

「……レオとセナが居ないと俺が成り立たない。」
「昔からそれ言うよね。」

尻尾振って飼い主を待ってるんですー。と軽口をたたく。驚くほどの忠犬だねぇ。と呆れられたが、いいの俺はずっと尻尾振って待ってるから。と俺は言いつつ缶を開ける。心が壊れてるのに、いつか帰ってくる。という不確かな希望だけが今なんとか保てている理由なのかもしれない。

「最近痩せてない?ご飯食べてる?」
「食欲ない。食べる気力がない。」

今日終わったらご飯行くよ。と言われて、うーん。と俺は返事を濁す、開けた缶を片手に持って、片手を頬杖をついて、食欲がないし、正直最後にいつ食べたかも怪しい。朝は、ゼリーだった。言うとセナにも鳴上くんにも怒られるので黙っておこう。と考える。

「文哉、がみがみ言われるのが嫌で俺から逃げてない?」
「……ないよ。」
「何。今の間は?」

ぎゅっと耳をつままれてセナの方を向かされて両頬を固定される、はーい俺の目を見て答える。と言われてアイスブルーが俺を見つめる。まっすぐの青に少しの心配がうかがい見える。心配されるのは解るが、言いにくいので視線を逸らせたら、逸らさない!俺の目を見て答える!と再度言われて、なんて返事しようと口を開くと、どこかからパシャ。と携帯のカメラ音が聞こえて、セナと二人で音の方を見ると、転校生がこっちにスマホを向けてカメラを撮っていた。

「あ、御気になさらず。」
「いや、気になるから。っていうか勝手に撮らないでくれる?」

俺の頬の拘束を解除して転校生のカメラを奪ってデータを消していた。そしてそこにゆうくんのデータがあるからって自分の携帯に転送してるのを俺は見ながら、ため息を吐く。『王さま』があんなのだから、うちは…と俺は呆れながらもそれを見て、転校生に助けてください。とか俺に寄ってくる。いや、俺なんもしないよ。だって、『Knights』の番犬だしね。セナもちょっと楽しそうだしいいよね放っておいても。


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