春風 アイコニックなブックフェアと俺-1

【DDD】が終わってからというもの、感覚的に俺がだんだんすり減ってきた気がする。感覚が壊れていく、まるで昔のような俺に戻っていく。あの頃と違って好きなことを奪われる事はなくなったが、それでも何かが足りてないと本能が言っていた。それでも見て見ぬふりをして俺は、仮面を着けて息をする。保村 文哉なんて言う世を賑わせた元天才子役の仮面をかぶって息をしていく。学生の保村 文哉はそのまま大人になっていくのだろう。そうして霞みたいに淡く空気が動いただけで消えていくのだろう。
新学期になって『王さま』は帰ってこなくて、俺は学校にはくるけれど授業が終わればそそくさと逃げるように帰宅する生活に切り替えていた。隣クラスからたまにセナが顔を見せるが俺はそれすらも逃げる。顔を合わせると微妙に気にする。おそらくお互いに。
たぶん昔の頃のように俺はレッスンもメンバーからもなにもかも逃げるようにして息をしてる。仁兎がなにかを言いかけてたが忙しいから。と切り上げて教室を逃げるように出る。下駄箱前で、セナが張ってるのは最近のトレンドらしいので俺は鞄の中に隠していた下足で別のところから出る。警備室をどうやって切り抜けようかと考えて諦めて背の高い一年に隠れてセナの包囲網を抜ける。そろそろ本の仕事もしなきゃなぁ、なんて思いながら、校門を抜けて駅に足を進めていく。歩く中で何を書けばいいのだろうかと思考を巡らせる。今の気持ちを書くといいのだろうか?と書き出しをどうするかと頭の中を巡らせる。

「文哉ちゃん!」

ぼんやりと歩いていて強い衝撃を肩に受ける。肩にかけていた鞄が引っ張られたみたいだ。そちらにゆるゆると視線を向けると今にも走って来た。といわんばかりの鳴上くんが俺の鞄を掴んでいた。どうしたのよ、文哉ちゃん。まだ横断歩道は赤よ。と言われて、鳴上くんが信号を指でさししめした。鳴上くんの指に視線を向けると眼前にはクラクションを鳴らした車が走り去った。学校の校門出て直ぐの交差点だった。そのまま視線を鳴上くんに戻して「考え事してた。ありがとう。鳴上くん。」というと、少し口を開きかけたが俺から目線を逸らしてからため息一つついて俺を見た。
きっと呆れてるか心配か、俺には分からないことなのでそのままほおっておく。レオの居ない世界なんてそんなに俺は意味がない。

「最近レッスンにも顔出さないで。どうしたのよ。」
「【DDD】も終わったし、本の仕事がたまってるから。仕事の一週間前からは顔を出すから。」

それまではそっとしておいてくれない?と伝えれば、鳴上くんが一瞬だけ顔をしかめて「もう、文哉ちゃんは。言ったことは守ってくれるからそこは信用してるわよ。」と笑って言う。頃に朱桜くんが追い付いた。保村先輩、お久しぶりです。と真面目にお辞儀をされたのでお辞儀をかえす。

「今からLessonが始まりますよ?」
「今日は予定があって……。」

終わったらまた顔を出すよ。嘘吐く。鳴上くんが、ちょっと眉根を寄せたけれど、朱桜くんは目を輝かせてこちらを見ている。レオが来る前はこんな顔してたな俺。とか思っていると、やっぱり俺はすれてきていると自覚した。壊れたんだ。あの頃の救いは本だった。今の救いはレオとセナが揃っているあの場所なのに、そんな場所も今はないので、俺の壊れ具合も加速していってるのだろう。なんて俺は自分を判断する。

「またご指導お願いします」
「仕事が決まったら顔出すから。」

じゃあ。と片手をあげて俺はさっさと帰ることにするために重心を動かす。これ以上壊れたくないし、何も考えたくないのだ。半身ほど動かしたら、鳴上くんに「明日仕事の打ち合わせだから、スタジオに集合ね。」と言われたのは、最悪のタイミングかもしれないと俺は思った。謹慎中じゃなかったか?と思っていると、ライブの仕事じゃないわよ。詳細は連絡に入れておくから見ておいてね。と言われた。そう、と返事をして俺は改めて帰るからじゃあね。と朱桜くんと鳴上くんから逃げるように俺は二人と別れた。俺はどこか一人になりたいとふらふらするのだった。


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