対決 華麗なる怪盗VS探偵団と俺-5

ライブが始まってしばらく、子ウサギがどっかに駆けてくのを見ながら俺は『Knights』のメンバーを見る。およそ半分を経過してそろそろセナが疲れてくるだろうかと視線を動かせばりっちゃんがつついている。俺はそっちを気にしながらパフォーマンスを続ける。ひっそり後でガンガンに俺に怒ってくるんだから、お前の子でもあるでしょ!とちょっと何とも不倫がばれた後の台詞みたいな感じになってるが、そこはちょっと黙ってて。
そっと前に出て最前列のお客さんにパフォーマンス。視線を動かす様に、ファンサービスを混ぜておく。

「文哉ちゃん、前出過ぎよ」
「あぁ、そう?」

ナルくんに引きずられるように後ろに下がると、休んでんじゃないの文哉。とセナに怒られる。休んではないよ、と反論せどもはい言い訳。とぶった切られたので。俺はむくれる。ほら、文哉ちゃんむくれないの。王さまがいないけどアタシたちじゃ不満?とかナルくんが俺の顔を覗き込む。んなわけないじゃん、飼い主さま。と笑ってやる。そうだよ、俺は『Knights』という狭い世界を守るための守り犬だよ。

「技量も経験も足りてないのですから、もうすこし手加減してもよろしかったのでは?」
「いいぞすーちゃん、セナにもっと言ってやれ。」
「文哉、どっちの味方なの?」

ぎろりと睨まれて俺はその視線を斜めに受け流す。見て見ぬふりをして、へらりと笑う。なるくんも文哉も俺に黙ってコソコソ動いてたでしょ。『Ra*bits』に助言でもしてあげたの?とセナがナルくんに問いかける。俺が見てませーん。て言って逃げてるのでセナはナルくんに問いかけたほうが早いと判断したのだろう。俺はセナとレオに嘘はつかないことにしてるので。むろん聞かれない限り応えるが基本黙ってしまうことが多い。そして怒られたり褒められたりはするけど。

「ううん、むしろ泉ちゃんを見習って意地悪をしちゃったの。『王さま』にも『ナルは甘やかしすぎ』ってよく叱られるから。」

意地悪するのって、ううん叱るのって、甘やかすのより大変なのよね。それで嫌われちゃうと、哀しいし。ほめてかわいがるよりよっぽどストレスだわァ?でも、それじゃあ成長できない、鍛えられない。筋肉は酷使した分だけ強くなる。骨は折れたところが強くなる。叩いて踏んづけるのも、愛さえあれば教育よねェ?
文哉ちゃん甘やかせて!とナルくんが俺の腕の中に飛び込んでくるのでよしよし。と言いつつナルくんの言うことに口を開く。
愛は薬だとも世間は言うけど与えすぎは毒だから、加減はしてあげてね。と念を押す。わかってるわよ。と返事が返ってきてそれでも文哉ちゃんも泉ちゃんもみんなの為を思って、憎まれ役を演じてるのよね?と問われてギョッとする。俺はそんなつもりはない、世界は『Knights』を存続するために動いてるだけでそう思われてるのなら違う。俺は守るために外には吠えてるだけなのだから、そういわれてもねぇ。って感じ。まぁ、憎まれてるのがセナ一人だと淋しいから俺も寄ってる部分あるけど。

「ま俺はいいとしてセナは大体ツンデレが服着て歩いてる感じだからねぇ。」

ねーとナルくんと喋っていたら、セナが俺とナルくんの頭に拳骨を一つ。ほんと顔に攻撃してこないのが憎らしい。しかも俺には絶対全力で殴ってきてるよね!?セナ!?
人を勝手に変なキャラにしないでくれる?俺は後輩いびりが趣味なの。それだけわかったらさっさとパフォーマンスに集中してって何度も言わせないでよねぇ?と呆れられたが、一年ほどの付き合いでセナの癖もそれなりにわかってるので、適当にはいはい。と返事して踊りに戻る。りっちゃんに嬉しそうだね。とか言われたけれど、ほっといてくれとぺしっと軽くいなす。後ろをちらりと見ると、セナがナルくんに軽く言ってるので俺は踏み込む余地はないだろう。と思案する。

「なに?やきもち?」
「いんや?お説教してるからねぇ」

民がけんかしてるならお腹見せて場を収めるのが俺の仕事だし、まぁ、面倒だから喧嘩両成敗に肩つけて処理しちゃうけど、そんな雰囲気もないし、いいんじゃない?触らぬセナにたたりなし。と言い切るとりっちゃんがクスクス笑う。まぁ、うちの『お犬様』が決めたならいいんじゃない?セッちゃんもふ〜ちゃんには強く出れないみたいだしぃ。嬉しそうに俺は過去を思う。俺の知ってることをセナはレオは知っている。レオが壊れる前に俺が壊れてたから。求めるままに与えてただけの俺は、俺という看板だけを欲しがっていた。俺からすべてがなくなって、気づけば俺は立ってるだけだった。心だけが壊れてずっと学校は仮面だけを付けて生きていく場所だと悟ったから。そんな場所を変えてくれたのはレオとセナだったから俺はここにいる。学校よりもドラマの仕事が楽しい時期もあったけれど、ね。

「まあセナの言う事は正しいと思うよ。芸能界はこれ以上に厳しい。セナの意地悪なんてかわいいよねって思うぐらいにね。」
「まぁ、こっちはいいから、セッちゃんのとこ行きなよ。俺にそんな話はいらないから。」
「へいへい。」

センチメンタルになりかけてる俺を察してかりっちゃんが後ろに下がれと言う。それに甘んじてセナ―甘えさせてー。とファンサもやっておく。何暑苦しいんだけどと剥がされて、俺はえへへと笑う。あぁもうとか言いながらも俺の好きにさせてくれるのでそのままセナの手を掴んで俺の指に絡ませる。

「それに耐えきれずに壊れてったやつ、何人も見てきたから。」
「Leaderのようにですか?」

ん〜。あのアホとかゆうくんは『壊れても、また輝きを取り戻せる』って教えてくれた感じかな?でもあいつらは強かったから復活できたんだろうし、そういうのってすっごい時間がかかるし、一度完全に壊れてから組み立てなおされたものは、もう別物だよ。
すーちゃんと話をしているセナの手が強く握られた。俺のことを言わないのってどうなの?とか思うけど俺も言う気にならないので、そのまま強く握られた手にちょっとうれしくなってセナの指を撫でる。

砕けたダイヤを接着剤でくっつけても、そんなのはもうお宝じゃない。俺はそんなものに、価値を見出したくない。同じように見えても劣悪な模倣品や同等の類似品に成り下がっちゃう。俺の愛したものは、大事なものはもう失われちゃってるんだ。なら、一度散ったとしても、再び最多ならば、それは同じ根っこを持つ花でしょう、また愛せるのではないのでしょうか?まだそこまで割り切れないなぁ、ともかく俺はきれいなモノ、かわいい者が壊されるのが我慢できない。もうそんなのは『たくさん』だからねぇ?
ねぇ。ということばと同じタイミングでアイスブルーの瞳が俺とかち合った。わりいな壊れた後で。そんな前に俺もお前らと早く出会いたかったよと後悔しても仕方ないので、俺は離せと俺から絡めた指を叩く。セナ成分は補給完了。と告げると勝手だねと怒られるがいいの。今修復中だから。俺の行動に怪しさを覚えたのか、すーちゃんが俺の名前を呼ぶ。

「保村先輩?」
「ま、人間感情で生きてるから、言うだけはタダだよね。そんな立場になった、また考えなよ。」

それでも同じ言葉を言えるなら、俺はすーちゃんの心臓を疑うけどな。とすーちゃんの鼻つらをつついてからカラカラ笑ってまたファンサービスという名前のさぼりに繰り出す。後ろでクソオカマとセナの呼吸音みたいな声が聞こえてステージを降りると入り口に影ができた。

「失礼します!まだ今日のライブは終わってませんよね?」
「あらあら、探偵さんのご到着よォ、アタシ達も一巻の終わりかしら。探し物は見つかったの?」

楽しそうなナルくんの声を聴いてファンと、ナルくん楽しそうだよね。と会話と握手と俺はさばく。今の間じゃないとたぶんこうしてファンサービスできないだろう。今日誰見に来たの?とサインをかいてた子に聞くと、俺と言ってくれるのでいえーやったね。と喜んでその子の頭を撫でておく。俺の横をすたすたと薄茶の子が歩いていく。その間に保村先輩!?と驚かれて、ちょっと文哉!とセナに気づかれたので俺もばいばい!と手を振ってステージに戻る。セナに今日怒られまくってるので後でレオにチクってやる。セナを叩きのめすソングを作ってもらおうとか思ったけれど、セナの苦手な音域ってどこだ?と考える。それでもセナは歌ができた翌日には平然と歌うんだからあの子まじ怖い。


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