対決 華麗なる怪盗VS探偵団と俺-4 捕まって、お茶どうぞ。と温めのお茶を差し出される。 「まったくもう、無駄に疲れちゃったわ。あんまり汗はかきたくないのに」 「あはは、お疲れ様です、って言い方も変ですかね、お茶を入れましたのでどうぞ。」 「あら、ありがと。嬉しい〜。走ったら喉渇いちゃったから。文哉ちゃんもいただきましょう?」 んだね。と返事して、お茶を飲む。飲みやすい温度で、俺はそのまま一気に飲み干す。いいお茶の葉つかってるな、とか俺は解らないので、そのままナルくんに返事をしておく。水色の子がりっちゃんの作ったお菓子、と言い出したので、今度ドラマのオーディションがあるから、と適当に俺はご遠慮して、ナルくんもナルくんでご遠慮して、じゃあこっちで。と別のお菓子が出される。するめ以外そんなに食べる気もないので、俺はナルくんと水色の声を聴きながら、周りを観察する。健脚の一年がナルくんの膝の上に乗ったりして、それをとがめながらも、会話を繰り広げている。 「えへん!これなら動けないだろ〜!もう逃げないでほしいぜ?」 「逃げないから、密着したままじたばた動かないでちょうだい、せっかくのお茶がこぼれちゃうでしょ?」 「駄目だぜ、嵐ちゃん先輩、せっかく捕まえたのに『盗品』をくれないし、ちゃんと盗んだものを帰すまでこうやって拷問するんだぜ〜?」 「文哉ちゃんが何か持ってたじゃない?」 「あ!そうだった!保ちゃん先輩、ポケットに入ってたんだぜ!」 「ないよ。」 俺のポケットには家の鍵が入ってるぐらい。ポケットの中のものを出すと携帯と鍵だけが出た。むむむと考えて、俺の鍵を掴んでこれが『盗品』だ!なんて主張を始める。残念俺の家の鍵だから盗ってないって。そのまま奪い返して俺のポケットに入れる。拷問だー!友ちゃん、保ちゃん先輩の膝の上!なんて騒ぎ出すので。もうすいません、と言いつつしっかり俺の膝の上に座る。 無表情の俺がちょっとこわいのか、目の前の薄茶は俺と目を合わせてこない。知らないってすごいよね。 「拷問だったのこれ、ずいぶんかわいいわね。っていうか、走って追いかけて犯人を捕まえて、真相は拷問で聞きだすって……」 「探偵っていうより刑事だね。」 「そうね。どっちかっていうとそっちね。」 っていうか、『盗品』って呼ばれてるけど別にほんとに盗んだわけじゃないから。外聞が悪いし、あんまり大声で盗品盗品って言わないでくれる?文句がおおいぜ、嵐ちゃん先輩!悪いことをしたんだから、もっと『しおらしく』するべき! 胸を張って言うなと心の底で思いながら、俺はお茶のおかわりをもらう。そのまま同じカップにお茶が入れられて礼を言いつつ、ナルくんと茶色の子のやり取りを見る。すーちゃんとは違う感じの一年生。二人のやり取りを見ていると、めずらしいですか?と青色の子に聞かれた。 「あーえっとー……名前は?」 「紫之、紫之創で。こっちが真白友也くんです」 「そう、紫之に真白ね。」 台詞じゃないから、そんな覚えないけど。と足しながら、体幹トレーニングってなにするとよくなりますか?と聞かれて、俺は正中線のトレーニングなどについて口を開く。メリハリって、と真白から聞かれたのでぽつぽつと俺の考えを開示していく。二人は質問を投げかけてくるので、それに投げ返しをしていく。聞かれたら応えてくれるんですね保村先輩ってもっと怖い人だと思ってました。俺だって人間だよ。最低限のコミュニケーションはとるっての。 「妙に簡単に捕まったと思わなかった?ちゃぁんと、逃げてる途中で『盗品』は所定の場所に隠しちゃったの。ね、文哉ちゃん。」 「そうだね、隠してるのは俺も見たよ。」 「いつの間に?抜け目ないなぁ、嵐ちゃん先輩」 あんたたちが間抜けなのよ。と膝に乗せたこの眉間をつついて楽しんでいる。部活の後輩ってそんないいものかねぇ。俺は幽霊部員決め込んでるので、年に二度クラブイベントなんていうものの時にしか、参加しない。俺の文字には金がかかっているので俺はそういうときにしか顔出さないし、詳細だけ聞いたら原稿を出すだけにしている。 「ともあれ、まぁ。怪盗を無理やり捕まえるとかの強硬手段じゃなくて、ちゃんと【ミステリーステージ】の想定通りに、『盗品』を探して見つけなさい。」 「うん、まぁ。それが当然だよな。どこにも楽して進める道はないか。」 「まぁ、進ませてやらないのが俺の仕事だし。」 腕を組んで足を組んで背もたれに十二分に体重を預けて、真白を見る。今日から参加する、と言っているので、彼が体調不良で倒れたらしい。謎が難しすぎると言われる。ヒントは今日それなりに出すつもりではいるので、俺はだろうねぇ。とニヤニヤ笑っておく。俺らずっとバックダンサーになっちゃいますよ。と肩を落とす。ふーんと興味ない振りをして、爪を眺める。真白たちにナルくんが、自業自得じゃない。なんてナルくんが言い切る。あ、ささくれできてる。ケアしなきゃなぁ。どうでもいいことを思いながら、会話に耳を傾ける。 「なぁんて、アタシもちょっと、泉ちゃんと文哉ちゃんが作った『謎』が意地悪すぎるなぁ。って思ったし、謎解きなんかアイドルの資質と関係ないしね。」 「俺作ったけど採用したのセナだし、俺しらね。見てませーん。」 「ヒントぐらいあげちゃいましょ、おいしいお茶のお礼としてね!文哉ちゃんいいわよね。」 俺はみてませーん。とアピールしてみて見ぬふりを決める。真白がいいんですか?他の『Knights』の人に怒られちゃうんじゃ?俺見てないで-す。知りませーん。両の手で目を隠しつつ、聴覚だけを働かせる。ナルくんが呆れて、「無理やり追いかけて『盗品』奪おうとしたくせに。いいのよ、ほんとに。」ナルくんの声を聴きながらすーちゃんに今度こういうこと、してもらおうかとどうでもいいことを考える。 「おわったわよ、文哉ちゃん。」 「えっ、ヒントってどこにあった?きづかなかったぜっ、ふつうに『嵐ちゃん先輩は視野が広くてすごいぜ』って感心して聞いてた!」 「うん、そこも大事なところ。あんたたちまだ未熟だあら仕方ないけれど。」 パフォーマンスするのに『いっぱいいっぱい』になっちゃってるでしょ?でもね、アイドルってアイドルだけじゃ成立しないの。現場を支えるスタッフ、歌の作曲者やダンスの振付師もちろん『プロデューサー』などの大勢の人々によって、形作られている偶像なのよ。自分さえよければいいって、そういう人たちの努力やクロウに気づいてあげられないのはひどい話よね、ううん、傲慢だわ。 ナルくんの話を聞いていると、携帯がピロピロ鳴りだした。ポケットから取り出せば連絡アプリが一つ。セナから来てるみたいで適当に嘘つきながら、連絡を送る。ナルくんが説き伏せてくれてるので俺はそのままぼんやりと聞きながら二杯目お茶を飲みきる。お話も終わらせるために、セナから連絡来てるし早く戻らないと、セナが怒ってるよ。と伝えて、そうね、そろそろ戻らなきゃ、一緒に合同練習しましょうねぇ?と俺とナルくん。それと子兎たちと一緒にステージに向かうのであった。ちなみに戻ればセナにとんでもなく怒られたのだった。 ←/back/→ ×
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