反逆 王の騎行と俺。-6e

ふと、目が覚めると真っ暗な部屋だった。のっそり気だるい上体を起こして周りを見渡すと窓から月光が差し込んでいて、うす暗い部屋だった。 薬の匂いが鼻について保健室だと理解した。しかめっ面して視線を腕につけた時計を向けると21時手前。なんで俺は何していたんだと思考を思い浮かべると、ライブ。なんていう単語が頭の中に浮かんだ。ライブ?
あぁそうだ、【ジャッジメント】だ。結果はどうなったんだ?、疑問にいてもたってもいれなくなって、そのままベットから抜け出した。ぺたりと床を掴んですぐに保健室から俺は飛び出た。背後で何か聞こえたけれど、それでも振り返る気にもならず俺はステージにむけて走る。あ、裸足。とか思ったけれどそんな履きなおしに戻る気なんてない。夜の空気を胸に入れて全力で走り出す。
もしかして、ないとは思うけれどとまだ続いてるなら俺が出なければと思う。着替えも終わってないけれどそれでも俺が立つと、りっちゃんに言ったんだ。裸足のまま俺は最後の角を曲がると、足を止める。照明もない真っ暗なステージ。
数時間前までは人気はあったのだろうけれど。その熱気も全てどこかに消えたステージが俺の眼前に広がった。そのまま真っ暗なステージに足を踏み入れる。誰が勝ったんだろう。俺たちは負けたのか?
ぺたりぺたりと鳴らして俺はステージに寄る。しんとしたステージに俺の足音だけが響いている。そのまま脇からきちんとしたルートで、入ると誰も居ない暗い舞台だけがあった。数時間前まで熱気に包まれていたそこに、何もない。ただ、沈黙だけがあった。なにもないことだけが確認できたら、涙が出てきた。誰が勝ったかなんてわからない。でも起きた俺の隣にレオもセナも居ないという事は、と俺たちが負けたのだろう。負けたから、俺が戦わなかったことに呆れてセナは俺から離れて行った。戦う選択肢を取らないやつはいらないとレオも言った。だから、今こうしても俺の隣にいないのだろう。誰もいないという事は、結果はもう決まっているのだろう。
こんなことになるなら、意識をなんとかあのまま起こせていたならば、俺が体調不良を起こさなかったら、俺はなんとかレオたちに噛みついて戦場に二度引きずり込めていただろうに。そう思うと情けなくなってきた。
仁兎と鬼龍に天祥院、それからレオ。あれだけのリーダークラスの舞台慣れした三年生と戦ったのだ。すーちゃんをいくら仕込んでも、経験値というのはひどく離れているが、賭けるしかないのだ。俺もセナもナルくんもりっちゃんもレオに手の内は知られているのだ。知らない未知に俺は、賭けるしかなかったのだ。俺は戦わないと言ったから。
そのまま嗚咽が出てきて、慟哭が喉を引き裂いた。膝をついてそのまま俺は地面に手を付いた。床に爪を立てて、音のない声を上げて握り拳を地面に叩きつけた。一発、二発三発。鈍い音が鳴った。手は痛い。それでも俺は四発目に大きく床を叩いた。
情けない、なんて情けない。尻尾を巻いてあれだけ大口叩いていたのに、こんな結果になってしまったのだ。セナたちが悲しんでいるときに俺は意識を失ってただなんて仲間が悲しんでいるときに共に立ってないだなんて、なんということだろう。俺は言語にならない声を上げ、額を地面につけた。彼らに会ったら何から口を開けばいいのだろう。悲しみに暮れていると、俺の目の前に影が一つできて、俺の頭を撫でてる。
「文哉。」弾かれたように顔を上げると、屈託のない笑顔で俺を見下げる。久々にレオの顔を見たな。と思う。泣いてぐちゃぐちゃの俺の顔を見て、酷い顔してるなぁ。とレオが言う。誰がこんなことをやりだしたんだよ。思いつつも、俺はレオから顔を外す。ほら、こっち見ろよ!文哉。とレオは腰を下ろして俺の顎を掴む。

「何だよ…俺を笑いに来たのかよ。」
「何を考えてるのかよく解んないけど、なんで文哉が泣いてるんだ?」

俺たち負けたんだろ?と告げると、わははは。とレオが笑ってる。そんなことで泣いてるのか、文哉は。そんなことと一蹴されても俺はそれでひたすら悩んで戦ってたのに、そんなことって。そんなことって!!俺を掴んでいるレオの腕を取って、そんなことってなんだよ。と声を荒げる。大声で泣いたせいで、声はガラガラでかすかすの声で何を言ってるかも怪しい声色だけど、聞き取りに成功したレオが文哉はせっかちだよな。と笑う。

「早とちりは人生の損失だぞ!なぁ、セナ!そうだろ!」

レオの視線が俺の後ろを見ている。それにつられて俺の顔も後ろを見ると、入り口の照明に照らされてあまりよくは見れないけれど、走ってきたというような息遣いだけが聞こえる。一つとかじゃなくて、たくさんの音が聞こえて、一つが弾かれたように俺のところに駆け出してきて、俺の前で止まる。月光で表情は見えないけれど、月明りで見える銀色がセナだと分かった。二歩ほど歩いてから俺を抱きしめる。荒れた息に混ざったか細い声が俺の聴覚がとらえる。吐く息に混ざったその声は、弱く掠れている。それだけを聞いて、俺は安心して泣きだした。ここで聞いた言葉は一生の宝物になるだろう。なんてセンチメンタルな俺はそう思う。後にも先にもセナのこんな声を聴いたのは初めてかもしれない。嬉しくなって俺の涙が止まらない。セナに抱きついて俺は子供みたいにわんわんと泣きつく。
俺の頭に腕が伸びる。そのまま抱きつかれてるのもわかるから、俺もそのまま抱きつき返してすすり泣く、嗚咽が止まらないまま俺は喉を震わせる。
「セナ、レオ。ごめんね。」それだけ言うと、抱きつく力が強くなった。小さく声が聞こえて、俺は抱きしめ返して、うんと頷いて笑みをこぼすのだった。


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