反逆 王の騎行と俺。-3

その日に急いで帰宅して、書き物仕事を終わらせて俺は基本転校生の補佐と楽曲、振りを決めて学校に来る。持つべきものは小さな縁、そのままレオに会う顔もないので、俺は教室に行かずスタジオで説明用に踊って、事前確認を行う。ぐるりとターンを決めると、転校生が心配そうに立っていることに気付いた。俺は踊ることをやめる。朝から誰とも会いたくなかったのに会ってしまったのでちょっとテンションが下がる。いわゆるセナ二号とかの対応にはなっちゃうね。

「なに?」
「あ、いえ、楽曲とかお決めになられたんですか?」
「レオの曲はないから、心配してんの?俺のツテ舐めないでよ」
「決してそんなことは。」

何のために小さなころから芸能界で戦ってると思ってんの。欲しい名を欲しいままに手にしてきた天才子役だよ。持ってるコネは全部使ってやるよ。俺の武器だもし。今は普通のそれなりの俳優だけどさ、俺のコネと事務所とポケットマネーで楽曲ぐらいどうにでもなるの。そういってやると、困ったように眉を下げた。

「セナに多少は怒られるかもしんないけど。これが終わったら、忙しくなるけどな。」

事務所と引き換えにいろいろやってるんでね。と付け足せば、体を壊さないでくださいね。と言われるが、それは保障しかねる。俺のメンタルぐらぐらだし、レオと戦いたくないのでもしかすると最悪レオが勝った場合俺は『Knights』の首を切られるのかもしれないだろう。まぁ、付き合いは一年ほどだけれども、察知するのは案外簡単だ。予想はできないがね。苦笑い浮かべているとドアが開いた。転校生と二人で音を見るとすーちゃんが入り口に立っていた。

「保村先輩、おはようございます。」
「すーちゃんおはよう。」
「お早いですね、Lessonですか?」

悩まず一切合財任せなさい、と俺はすーちゃんの頭を撫でる。もうっ、と頬を膨らませる。
保村先輩、今回は大丈夫なのですか?曲などの著作権はLeaderが所有しておりますから。Leaderが使用を許諾してくれないことには、勝手に用いては法律違反ですらあります。困ったことに、現在の『Knights』の持ち歌などはすべてLeaderが作ったものだったようで、私は調べて驚きましたよ。Leaderの曲は、膨大な量と洗練された質を併せ持っていて、これまで『Knights』はずいぶんそれに助けられていたようです。我ら『Knights』のために最適化された、魂の籠った名曲の数々、それを『武器』と称し支給し、Leaderは我らの戦線を支えてくれていたのです。そもそも、これは調べて判明した事実なのですが、Leaderはむしろ、Idolとしてより、作曲家として、世間では評価されているようですね。
あ、すーちゃん知らなかったの?と聞けば、えぇ。わからないので調べましたと返事が来る。俺もあんまり教えたことなかったもんね。と思い返す。あの頃の俺もいろいろぶっ壊れてたので、正直記憶もあいまいだったりする。人間ってこういうとき便利だよね。

「専門的かつ高尚な楽曲から、街中でよく耳にする流行曲まで、Leaderの作り上げた音楽は、私の想像以上に膾灸しているようです。」

テレビをつけたらよく聞く音はレオの影がちらついていることはよくある。この間出たドラマはレオの違う名前があった気がする。俺は意識的に逃げてたけどな。うん。俺は黙ってすーちゃんの話を聞く。終わってからちょっとお話しような。

Leaderはなぜか『作曲魔人X』だのなんだのと、妙ちきりんな変名を多用しますので気づきませんでしたけど。本名でやればいいのに、誇らしくすらあるのに。それらの楽曲の著作権収入などだけで、一生食べていくのに困らないのではないでしょうか?まだ私とそう年齢も違わないのに、大したものです。見た目や言動は浮浪者、失敬、えぇっと、芸術家気質と申しましょうか、あまり頓着していないようですけど、名誉や金銭を、求めていないようで好感が持てます。それらは我が一族が重んじてきたものなので、それを軽んじられているようで、すこし腹が立ちますけどね。何も持ってない単なる変人に見えて、私にはないすべてを得ているようで……ほんとうに、不可解なひとです。
顎に指を当てて考えてるすーちゃんのほっぺたをぐりぐりつついてやる。ちょっと!なんて怒られるが、俺もそっち寄りの人なので、ちょっとね。うん。俺も変名を使って違う本を書いたりすることはある。別に名誉がほしい訳でもないし、これやると何割なんていうギャランティ的なのは発生するが、まぁ、いままでの子ども時代のお礼も兼ねてる部分はあるし、なぁ。

「私、Leaderのことがさっぱり理解できませんけど、理解したいと思います。まさに『Knights』はLeaderそのもので……私は『新入り』でしかないのだと、実感してしまいましたから」

けれど、私も『Knights』です。未熟でも足りなくても、私だって。だから必死に知る努力をしていますし、Judgement…えぇっと【ジャッジメント】でも勝利したいのです。『Knights』に不必要な海として、抽出されたくはありません。私は『Knights』にあこがれたからこそ、入団したのです。Leaderの作る楽曲が、それを思う存分に歌い上げる『Knights』が好きだったから。それを思い出した心地です。なぜか清々しい気分なのです。
すーちゃんの会話を話を聞いていた転校生が、クスクス笑いだした。

「どうしました、お姉さま。そんな風に笑って…私、おかしなことを言っているでしょうか?」
「ううん、男の子だな。って」
「そうですよ、私は生まれた時から朱桜一族の男です。両親などにはもっと雄々しく、男らしく振舞えと叱られてばかりですけど。」
「そういう話じゃないんだよ。」
「では。どういう意味なのでしょう?むむむ?」

くすくす笑ってるあんずにちょっと照れてるように唇をとがらせている。俺はそのまま床に座り込んで、二人を見る。わっかいねー。と思いつつ、クツクツ笑う。お姉さまの言うことは難しいですね、けれどなんだか褒められているようで面映ゆいです。とちょっと嬉しそうにすーちゃんが笑った。
言っておきますけれど。私は別にLeaderのことを見直しても、評価してもおりませんよ。作曲ばかり夢中になって、Idol活動をおろそかにしているようで腹が立ちます。けれど一面のみあの人のことを判断するのは早計というか、あまり賢明ではないなぁと思ったという話です。と言うすーちゃんの話を聞いて、俺はうんうん頷く。休憩おしまい、と声を出すと、休憩だったのですか?と言われるので、君らの武器を作ってたの。と言うとすーちゃんは指導ご鞭撻をお願いします、保村先輩。と言って、部屋の隅に荷物を置く。

「俺が教えるんだ、一等輝ける武器に仕立ててあげるよ。武器は鋭く使い方さえ誤らなければ、きっと勝てる。」
「はい、お願いします。」

こういうところが末っ子だよねー。と思いつつ、俺は重たい腰を上げてプレイヤーの音源を止めなおす。

「Leaderがどんな凶悪な兵器を持ち出してこようが、私たちには蓄えた技量があります。経験が、志があるのです。」
「そのリーダーが凶悪な武器を持ってるんだけどね。」
「我らが追うがふらふらとどこぞで流浪の民を気取っている間にも我らは連戦を重ね、絆を深め強くなっているのです。」

それを、あの高慢ちきに思い知らせてやります。負けてなるものですか、絶対に。
そう言い切る末っ子に俺は何とも言えない気持ちになりながら、そうかそうかと適当に返事しながら、転校生とキャッキャしてるので、とりあえずやるよー!と声をかける。やらないなら別にいいよ。御任せする。とりあえず俺は練習用に踊るからほっといて。と言って、踊る。戦いたくはないが最悪すーちゃんが仕上がらなかったら立つべきなんだろうかと算段に入れながら俺は踊り始めるのだった。


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