反逆 王の騎行と俺。-2

そのままスタジオまで連れてかれて開いてる窓から飛び込んでいく。それにつられて俺も飛び込む結果になってる。体勢を取れてなかった俺は悲鳴を上げながらスタジオの床を転がる。ちょっと!文哉ちゃん!?とナルくんが驚いた驚いた声を上げて、俺を起こそうとする。わはははは話は全て聞かせてもらったぞ!と笑っている。いやゴメン嘘ついたっ、最後のちょっとしか聞いてなかった!でも安心しろっ、お前らがしゃべっていた内容のすべては妄想で埋めるから!
んー!とうなりながら眉間に手を当てて考えている。俺は、ナルくんの手を借りて立ち上がり近くの椅子に座る。泣いてたの?と言われてちょっとドキリとする。ゆるゆる首を振ってなんでもないと告げる。部屋の中にセナの声だけが響く。

「ちょっ、今どこから出現したわけ?窓の外から飛び込んできたよねぇっ、何なのその無意味なアクションは!?文哉も怪我してない?」
「な、何?何事?」
「にぎやかで、おこしたね。ごめんね。」

ゆるゆる寝床から起き上ってりっちゃんがあたりを見回すと、あ〜『王さま』だぁ、相変わらず元気だねぇ…俺ちょっとお昼寝ちゅうだから、あんまり騒がないでくれる?と言うと、レオはそれでも騒がしく夢は脳内で完結するけど現実はー。だとか言っている。レオが笑って、セナが怒ってる日常だな、なんて昔の光景が思い浮かんだ、…楽しかったなぁ?あの過去から今もこうして続いてるのにどうして俺の中で完結してるのだろうかと思う。

「ちょっとぉ、『王さま』急に出てきたと思ったら何なわけ、チョ〜煩い!もうライブも終わったんだし、今さら顔出されても困るんだけどねぇ?」
「おぉ、セナ相変わらず小姑のように口うるさいな!なのに最後まで『Knights』にとどまって守り抜いたんだよなっ、偉い!ツンデレだな!」

あぁ安易な用語を使ってしまった〜!?と頭を抱えだして、唸っている。思考も止まっていたのが、だんだん戻っていく感じを覚えながら、ちょっと目が回ってる感じがする。泣いたからかな頭酸欠かな、なんかどっか嫌な予感がして身震い一つ。

「ここを追い出されたらまた行き場がなくなって、困るんだけど?いつまでも、流浪の民というのも面倒だしねぇ?」
「そうそう、そんな感じで!もっとセンシティブな言い回しを!」
「流浪の民っ、いいねいいね!あぁ、やっぱりセナの美意識は最高だ!」

わはは!と笑っているレオにすーちゃんがレオに詰め寄る。そのまま訴えるが、レオはまだすーちゃんの名前を憶えてないようで、そんなやりとりが聞こえる。

「Leader、あなたは『Knights』のことをどうお考えなのですか?近頃、我らのScheduleを圧迫していた連日のLiveには、どういう意図があったのですか?」

きちんと納得できる答えをお聞きするまで、ふん縛ってでもこの場から帰しませんからね!若輩者が失礼な物言いをしても恐縮ですが!恐縮と言いつつ全然そんな風に思ってる顔じゃないよね、とりっちゃんが言うのを聞き逃さなかった。詰め寄られたままのレオはわはははと笑って、口を開いた。
うん、そろそろ不満が出るころだろうと思ってた。っていうか、あんずからそういう報告を受けてたんだよな!文哉以外の『Knights』のみんなが不満たらたらだってさ。わははは、おっあんずがいる!どこにでもいるなお前っ、神様か!偏在してるのか!?興味深いけど、今はどうでもいいやっ!文哉、おれにお茶ちょうだ〜い!なんて言われて、俺ははいはい。と返事しながら、鞄から飲み慣れたお茶のペットボトルを取り出すとそれを渡す。

「こ、この!慮外者っ、保村先輩を召使のように!何様ですかほんとうに!?」
「落ち着けってば、そんなに取り乱したら綺麗な顔が台無しだぞ〜、新入り!」

また『新入り』などと!いいかげん私の名前を憶えてくださいよ〜!?と地団駄を踏む。っても、俺お前の事よく知らないもん。とレオはあっけらかんと言ってのける。そして、おまえのってか今の『Knights』の力量を見定めるために、毎日のようにライブをしてもらったわけだけど。お前、新入りやる気あんの?とくに今日はひどかったなぁ。見てらんなかったぞ正直?おまえ、自分がほかのみんなの足を引っ張ってる自覚ある?おれに文句をつける前に、よぉく考えてみろよ、誰が一番『Knights』の看板に泥を塗ってるかってさ?ああ?おれの『Knights』の看板にさ。

じとーっとした目で、レオがすーちゃんを見つめている。お互い似たような表情をしている。険悪な空気に俺がちょっと小さくため息を一つ。声色がひどく固い。あえて言おう。と俺の耳に届いて、顔を上げる。難しい顔したレオが口を開いた。

「しばらく夢ノ咲学院をはなれてるうちにこの体たらくだもんなぁ。ちょっと帰ってきたことを公開しそうになったよ。文哉」
「……っ……」
「お前ら、おれがいないとなんもできない訳?」

ぐっと唇をかみしめれば血の味がする。上げたばかりの視線をまた顔ごと下ろす。すーちゃんが「誰のせいで、私が集中を乱されたと思っているのですか?」と言うが、そこはきっと俺の教えも足りてないところがあったのかもしれないと考えが行く。集中してパフォーマンスしてたら、観客一人ひとり探す余裕なんてないはずなのにな。

「なぁ、新入り、偉そうな口叩くけどさ。後から、どんだけ言い訳しても意味ないんだよ。ほんと、俺が言うことでもないけどさ。」

現場で、ステージで最大限のパフォーマンスを発揮できなきゃあ。後からどんな大言壮語を吐いても、うそ寒いだけだよ。へそで茶が湧くわ!わははは。落ち着きなってば、かさくんも文哉も、こいつに文句を言っても徒労だよ。ほんと。

「ううん、おれがたぶん。まちがってるのかもね。おれがきちんとすーちゃんをおしえてないから……」
「文哉ちゃん。」
「おしえてなかったから、きちんとできなかったんだよね……」
「でも、瀬名先輩っ、私すごく悔しいです!言い返せないのが歯がゆい!」

保村先輩が咎められるのも!私は『Knights』のお荷物なのでしょうか?
そんなことないよ。すーちゃんは立派だよ。前に向かって進めたいとおもってるんだもん。俺は後ばっかり見て、後ろしか見てなくて前、なんて見たくなくて。後ろばかり。どうしても、頭の中でレオの事が気になってんだもん。レオがいて、セナがいて俺がいて『Knights』があって、それが俺の日常だった。

「甘やかすなよ〜。ナル。すっかり腑抜けちまってるなぁ、『Knights』も。」

馴れ合いは成長を、進化を阻害する!堕落だっ、徹底した個人技を刃のように研ぎ澄ませろよ!うん!でも現状に文句を言っても仕方がないから、未来のことを考えよう!そのほうが建設的だっ、ここに再びおれの王国を築きあげようっ。
ハッと俺は顔を上げると屈託なく笑う。その笑顔に俺は首を横に振る。それでもレオは口を開き続ける。疑問符をつけたすーちゃんが問いかけるが、レオは理解する努力をしろよ、新入り!と声を上げる。

「んっとな、まだ本決まりじゃないんだけど、来週あたりに【デュエル】をするから、あんずに頼んで準備してもらってるところ。」
「でゅ【デュエル】ですか?また勝手に決めてっ、私たちは連日のLiveでへとへとなのですよっ?どうかしてます!」
「そこは踏ん張れよ、若いんだからさぁ?」

戦場で、敵さんに『今は疲れてるから休戦しましょう』って言えんのか?飛んでくる銃弾にさぁ、『ちょっと待ってください』ってさぁ……どんな笑い話だよ。と呆れてレオが言う。そのまま笑いながら面白いその発想で一曲書ける。と騒ぎ出しているのだが、俺の頭はぐちゃぐちゃだ。王国を築くとか言ってるあたりで俺は察してしまう。

「『王さま』〜?話の途中で作曲をはじめないでよ、悪い癖だわァ。」
「ん、んん〜。ともあれまぁ、もう【デュエル】の準備は始まっちゃってるから。今更『やっぱナシで』ともいえないんだわ、ごめんな。文哉」

レオが俺の名前を呼んで、六つの視線がこっちを見る。今にも泣きそうで唇を噛んでいる俺はそのままレオを見る。わははと笑いながら謝られても困る。レオの翡翠の色の瞳が楽しそうにしている。そのままセナの方を見ると、澄んだ青が俺を見てた。謝られても、なんて言えばいいのかわからなくて、そのまま下に下がる。
『ごめん』とか言われてもねぇ……別にいいけどさぁ、【デュエル】は俺達『Knights』のお家芸だし、それで、どこの『ユニット』に宣戦布告するの?とセナが聞く。

「レオ。やめよう。俺、レオと戦いたくない。」
「わはは、文哉は察しがいいなぁ。今回はちょっと特殊な【デュエル】を考えてる」

ほら、おれが現役だったころも何度かあっただろ?内部粛清のための【デュエル】……【ジャッジメント】を開催する。げっ、あれをやるの?いやだなぁ。【ジャッジメント】って遺恨を引きずってゴタゴタするんだよねぇ……。俺の聴覚は音を拾っているけれど、それでもまともに処理をしていかない。

「俺は夢ノ咲学院の拘束に従い『臨時ユニット』っていう制度を適当に利用して適当に『ユニット』を結成する。その『ユニット』と、『Knights』で勝負するんだよ、まだ誰にも声をかけたりはしてないいんだけど。最悪おれ個人で出場するから、単独でも敵を全員うち滅ぼせば俺の勝ちってことになるなぁ、まぁ。文哉、俺と戦いたくないなら俺のところに入るか?」

手を差し伸べられて、俺は目線を下げる。どうすればいいんだろう、俺はこの面子と誰とも戦いたくない。戦うなんてことはしたくない。ちょっと、文哉をとるのはやめてとセナが俺とレオの間に立つ。セナの背中に守られているのが、ちょっと情けない。俺が立たなきゃいけないのはきっと今ここだ。

「…おれ、レオもセナもナルくんもりっちゃんもすーちゃんともたたかいたくない。誰とも戦いたくない。」

そんなことをするぐらいなら俺は『Knights』を辞めて学校を辞めてやる。と言うと、ちょっと文哉ちゃん!とナルくんが声を出す。ぐらぐらな俺がどうすることもできないのなら。俺は首括ってやる。と言い切る。

「ちょっと文哉も思いつめすぎだし、『王さま』調子こきすぎじゃない?ブランク長いんでしょ『王さま』ひとりで俺達全員を倒せると思ってるの?五人も?」
「セナ!」
「いや、さすがに誰か仲間を集めるけどさ。適当に、クラスメイトとかを。最悪人数が足りなかったらこっちに来いよ文哉。」
「ごめん……行かない、誰の手もとりたくない。」

終わったら俺の首を切ったって構わない。それでいい、俺はセナとレオが居ない世界に意味はないから。と告げると、文哉は考えすぎだと言われる。でも、俺はこの一年ほど俺の周りには『Knights』しかいないのだ。俺は言う。難しい顔したすーちゃんは、仲間同士で争うのですか、なにの意味があるのですかとレオに問いかけるが、レオは『Knights』のために内部静粛だよ。血みどろになって戦って膿を出し切る、そういう儀式だよ、【ジャッジメント】ってのは。とやれやれと言わんばかりに言う。

「お前らが勝てれば、俺は何でも言うことを聞くよ。」

ちゃんとリーダーらしい振る舞いをしてやる、どうしても気に食わないんなら、おれを『Knights』から脱退させてくれてもいい。だけど、もし、おれが勝ったら、即席の『臨時ユニット』にすら勝てない脆弱な集団に『Knights』が成り下がってるなら、ここで解散させる。俺の青春そのものだった『Knights』が見るに堪えない情けない集団に成り果ててるなら、そんな無価値な代物は、あとくされなくゴミ箱にポイしてやるよ。気に食わないことがあるならステージで…。
たきつけられてるんだろうな、と思う。俺は戦いたくない、それでも彼らにかかわられる方法としてならば、と俺は口を開く。

「俺戦わないけど、爪は砥がす。それが俺の今回の配役だよ。」
「気に食わないことがあるなら、ステージで言えよ。文哉」
「ない、戦いたくないから俺はこっちでレッスンを見る、レオなら集めても3年がメインだろ。それぐらいやらなきゃ、バランスは取れないよ。即戦力バッチリの三年ばかりのユニットに、立ち向かうならば俺はどっちかっていうとこっちにいるべきだとは思うよ。感情論を全部抜いたらね。」
「んー文哉がそういうなら仕方ないなぁ。そういうのは文哉強かだもんな。」

【デュエル】という名の大義で、剣で、紳士的に裁定する。決闘することで敵を内倒し、内部の毒を浄化する。連戦を重ねて強くなり、誰にも負けない戦士になる、どんな凶悪な暴君も魔物にうち滅ぼせる、勇者になるんだ。『Knights』は元来、そういう集団だったよなぁ?文哉。
俺は呼ばれてぎくりと肩を震わせる、暗にお前も戦えと言われてるようで、いやいやと首を振る。変わらずに待っていようと思ってたら、どうもレオは俺を軽く飛び越えてこっちを見ているようだ。なんだかなぁ、と思いつつ息を吐き出す。

「それが『Knights』の流儀だ、お前も知ってんだろ?新入り?」
「あ、あなたが今更!後から出てきたクセにっ、あなたが『Knights』を語るのですか?」
「おれの『Knights』だ、今はまだ」
「そうだね。レオの『Knights』だ。今はまだ。」
「文句があるならかかってこいよ、お坊ちゃん。決闘しよう。どっちが正しいかは神さまが決めてくれるよ。」
「違うね、神さまが決めるんじゃないよ。【ジャッジメント】で、おれたち『Knights』の未来が決まるんだ。勝者こそが歴史を証明できるんだ。」

レオの曲は使わない、レオのかかわっていたパフォーマンスは使わない。とレオが『Knights』側にそう宣言する。新しい曲で新しい踊りで来いと彼は言うので、俺は解ったと返事をする。セナが何か言いたそうに声を上げたが、とりあえずそれ以外の取り決めは転校生を通して、日時は決まったら教えて。と言い切る。俺は俺の全力を持って、レオを止めて見せるから……。これが俺の戦いだ。俺は小さく握り拳を作って、息を吐き出した。


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