反逆 王の騎行と俺。-1

ライブ終了後スタジオに帰りながら、俺は本を読んでいる…歩き読み。ながらスマホは危ないっていうけど、ながら本っていうのは世の中にないし、前にナルくんが歩いてるから全然気にせず歩いていく。ついたわよぉ。と言う声に反応して顔を上げると、スタジオだった。

「ただいまぁ。おやすみ……」
「あっ、こら。くまく〜ん、いつもいつもスタジオに帰りつくと同時に寝ないでよねぇ?その前にミーティングでしょ、起きて?」
「むにゃむにゃ、なんぴとたりとも、俺の安眠を妨害することはできない……」
「あ痛っ!?こいつ起こそうとしても揺さぶったら俺の指を噛んだんだけどっ、ケダモノかっ?チョ〜うざぁい!」
「ふたりとも、じゃま。」

二人を押しのけて、そのまま俺はスタジオに入る。後ろがつっかえるので入り口でたむろしてるのが悪い。そのまま、入り口奥の椅子を陣取って本の続きに目を走らせる。ライブ直後でくたくたと言う声も耳には入ってるが反応せず、ページをめくる。

「なごんでないで、なるくんも文哉もくまくんを起こすの手伝って!あんずもぼうっと見てないでさぁ。気が利かないなぁ、どいつもこいつも!」

セナの声に呆れながら、ため息をついて今よんだところを指で押さえつつ、一度本から目を離してりっちゃんに向けて口を開く。「りっちゃん、起きなきゃ水責め。」と言うと、叫ぶようにセナが声を上げる。が俺は再び本に目を落とす。あと3ページで次の章いくから待って。

「文哉、片付けも考えて!俺の指を食べないでよねぇっ、赤ちゃんか!?」
「もうむり。しんどい。」
「なるく〜ん!ちょっ、助けて!今度は布団の中に引きずり込まれそうっ、くまくん寝相が最悪すぎる。」

面倒だし、そのままミーティングしよっか。と声をかけると、やれやれと言わんばかりのナルくんが呆れた声色で言う。そのままセナがぎゃんぎゃん吠えてるのも聞き流しておきながら、適当に返事をする。
まぁ一時期に比べたら『まし』になったんじゃない、昔はホント生ける屍みたいだったからねェ……凛月ちゃんは。文哉ちゃんは変わってないけど、泉ちゃんは近頃やる気満々って感じ?
ナルくんの声を聴いて、俺は小さく俺は変われないよ。とこぼすと、もう。とナルくんが首を振っている。みんなが変わっていくのは身を以て実感してるけど、変わってたら取り残されるし、俺ぐらい尻尾振って待っておかないとねぇ。
それとも、最近ようやく復帰してくれた『王さま』のおかげなのかしらねェ。ナルくんの声が俺の耳に響いて、目の動きも止まる。耳によく響くアルトの高い声は俺の耳には届かない、それに呆れているあの日々は帰ってこないのだ。彼がここにいないのだから。

「やっぱり、勝負は勝てなくちゃ面白くない。」

そんな言葉を聞いて、俺は本の角を撫でる。内容が頭に入ってこない。これ以上読んでもだめだな、と思って俺はしおりを四ページほど戻して閉じる。周りの声を聴きながら、俺は本の背表紙を撫でて視線を自分の衣装に目を向ける。肘まであるグローブによって。肌というものを露出させずにいる。ライブのせいで多少汗ばんでいるが、しばらくしたら汗も蒸発していくだろう。とか思いつつそのまま視線を上げる。

「『王さま』は偉大だわァ、アタシはよくあのひとのこと知らないんだけど、実際どういう人なの?」

アタシが『Knights』に入ったすぐ後にあのひとは行方不明になっちゃったからねェ。どういうひとなのかちょっと掴みかねてるのよォ。明るくて人当たりもいいし、悪い人じゃなさそうだけどねェ。まぁ、なるくんは気に入られてるからねぇ。あいつ変人が大好きだから。ふつうは名前も覚えないよ。かさくんだっていまだに『新入り』とか呼ばれてるじゃん?
上げた視線をまた落とす。ここに彼は居ない。この間会えたがいろんな仕事ばかりして、そんなに会えてない。俺がこんだけメンタルがぐにゃぐにゃになってるのもそういうのが原因なんだろうな。と思いつつ、ため息ひとつ。んでそっと隠してるするめを咀嚼。今度の書きものの仕事どうしようかな、とか思いつつするめを口に追加で掘り込む。ぼんやりといろいろ考えていると、するめの足をかさくんに持ってかれた。

「納得できないのは!我らばかりに戦わせて、Leaderが、我らの王がまるで現場に顔を出さないことです!保村先輩だって、仕事をしながらライブをしてるのに!」
「すおうくん、それいじょういうとおこるよ。」
「文哉にまったくの感情が入ってないから怖いし、全部ひらがな!」

もうちょっと感情こめて!とナルくんが言うが、最近の俺こんなかんじだけどな。と思いつつため息ひとつ。俺の気が短くなってるなと自覚して、俺って駄目だと改めて思う。本を横に置いて頭を抱える。連日のライブのおかげか、最近俺もちょっと荒れ気味になりつつあるので、するめの消費も激しい。いや、これ自棄をおこしてるだけか。あきらめて、グローブを脱いで、ブーツの紐をほどいていく。沈黙が降ったので、顔を上げる。険しい顔をしたセナがすーちゃんをぎろりと睨んでいるので、俺は二人を見つめる。

「かさくんが認めなくてもねぇ、あいつが『Knights』のリーダーなのは公式の書類にも明記された事実だしぃ?気に食わないなら、『Knights』を脱退すれば?そうやって止めてった連中、あいつがリーダーになってから星の数ほどいたよ。」

かさくんたちが入ってくれるまで、『Knights』がどんな状況だったかおぼえてないの?ぎろりとセナがすーちゃんを見る。俺は椅子に深く座り直しをして、ため息を吐いて、腕を組んで片手を顎につける。そういえばブーツ脱いでる最中だったと思い出して、靴を履きかえるために紐をほどいていく。

「あのひとが姿を見せなくたって、何も変わらないわ?」

それだけが耳に入って、頭の中が真っ白になった。反射的にガタッと立ち上がる。いなくたって変わらない。違う、そんなことない。六人居ての俺達だと思っているし、おれはずっとそのつもりだ。レオもいて、セナがいて、俺がいて、ナルくんがいてりっちゃんがいて、すーちゃんがいて『Knights』だ。レオが帰ってきて、六人でもいい。とレオが言ったから俺がいるのに。なにをいっているんだ?と喉から出かけて、俺はごめん、と言うとそのままスタジオから飛び出した。後ろから名前を呼ばれたけど、知らない。俺は返事もせずに逃げるように駆けた。
ガーデンテラスまで駆けだして、乱した息を整えるために深呼吸をする。はぁ、と一息ついて近くのベンチに腰をかけるために歩き出す。俺が変わってないのか、まわりが変わったのか俺は確かめるすべはない。時代は残酷だ、世界は簡単に切り刻まれる。俺というのがすぐに砂のように消えていくような感じがする。大人げない、あとであの部屋に帰るのも鬱だな、と思いつつ肩を落とし、ベンチに腰かけた。

「あ、文哉!」

後から声をかけられて、はっとして振り返るとそこにレオが立ってた。久しぶりに見たその姿に俺は、言葉を無くした。どうした?元気か?と言われて、言葉を出そうとしているが、喉がなくなったかのように声が出ない。ぱくぱくと口を開けども、音は紡がれないまま、息の音だけが出た。

「元気だったか!今でも本の仕事してるのか!」
「……レ……オ……?」
「どーした?」

目頭が熱くなった、息が詰まって、ぐすっと鼻が鳴った。大きく口を開けてがははと笑う姿はしばらく見てなったが、俺の脳はどうして処理をしていたか忘れているかのように止まっている。泣いてないで笑えよ文哉、今日のライブみたいにさ!と言われて、え?と俺が今度こそ固まった。

「見てたの?」
「見てた!あんまりうまく笑えてないんだな!文哉」
「……おれ、だめだよ。レオとセナがいないとちゃんと……」

俺の涙を救い上げて、じゃあ行こうぜ!とレオは笑って俺の手を掴んで走り出す。まって、早い。早いってば!!!!俺は悲鳴を上げてレオに引きずられるまま校内を移動する羽目になった。俺頭が全然追いついてないんだけど、まって!レオ!王さま!


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