初興行 祝宴のフォーチュンライブと俺-3

話が終わるぐらいにそっと俺はこっそりこたつから出て、熱かったし再度みかんで水分補給を行う。りっちゃんが口を開くので、そこにも筋をとったみかんを放り込んでおく。

「だいだいの事情は把握したわ。劇場の運営ねェ。学生らしかぬというか、かなりの無茶振りって感じがするわァ。でも富豪の御曹司って言うと、そういうこととも無縁ではいられないのかしら?」
「天祥院も何を考えてるんだかね。俺はあいつと同じクラスだからたまに喋るし、真意を探ってみようか?」
「あ、それは俺がやるよ。エッちゃんとは紅茶部で仲良くしてるし、普段は鉄壁だけど、部活の最中はわりとガードが緩むから。」

円卓で手を上げてりっちゃんが発言をする。みかんをもぐもぐしていると、ぐすりと鼻をすする音が聞こえて、俺はそうだったと思い出してセナの前で正座をするすーちゃんを見た。
あのう、それよりも私はいつまで正座していればいいのでしょうか?たいへん不本意です。これは虐待ですよ、たしかに先輩方に悩みを打ち明けずに独りで抱えてしまったのは水くさいかと思いますが。『Knights』とは元々、そういう『Unit』だったでしょう?無論、様々な経験から私たちも変化してきていますけど恥ずかしげもなく言わせてもらえれば、家族のような関係になれたと思いますけど。個人の事情に深入りしすぎず、程々の距離を保つ。それもまた『Knights』の鉄則でしょう?その心地よい距離感に救われている部分もあったと考えます。今回のこれは個人的なことです。先輩方の手を煩わせる事ではありません。
ゆるゆる首を降っているすーちゃんにレオが声をかけて肩を叩く。

「何ですかLeader顔が怖いですよ。」
「こう言うときに察しが悪いのが末っ子なんだからねぇ。だいたい俺も一緒だからレオ俺の代弁よろしく。」

なぁ、俺偉そうな事言えない立場だけど。個人的なことなんてないぞ、この世界に一つだって。もちろんお前が望むなら手出しはしないけど、聞いた感じ協力できるとこありそうじゃん。俺たちも頼ってくれない?個人的なって枕詞つけてるけど、『Knights』の朱桜司、っていう立場もお前の力の一つだろ。わかんないんだけど何でそれを効率的に用いようとしない?何を遠慮してる?お前が生まれ持った名前や家柄がお前の『ぜんぶ』なのか?ちがうだろ、おまえがこれまで生きてきて新たに得たものもあるはずだよ。血のにじむような努力をして激戦を繰り広げて……たくさんの経験値をキラキラ輝くお宝を得ているはずだろ?『Knights』もそのひとつだ。それを使うのに躊躇う必要はないとおもう、みんなそうやって生きてきてるんだぞ。決して、それは卑怯な手段なんかじゃない。そんなんだからお前はいつまでも、未熟な末っ子なんだよ。自分が手にしているものを把握していない、価値を理解していない。
そうやって説き伏せる姿は王さまそのものだな。とか思いつつ頬杖ついて末っ子の説き伏せを見ていると、セナもレオに同意している。

「かさくんの抱えてる問題に関わったら、俺たちになにか不利益があったりする?傷ついたりする?喩えそうだとしても気遣われて遠ざけられるなんて心外なんだけど。俺たちそんなに弱く見える?」

俺たち何だと思ってるの、かさくん。『Knights』だよ。そうやって言うセナの背中に半年ほど昔にみたあの時が重なって見えた。俺が弱くてへこたれてて、王さまと駒が揃ってないとやだとだだをこねてたような自分が。独りで、あーだめだな。とか思いつつ涙腺が働いてくるのを感じる。やべえとおもいつつ手の甲で涙を強制的にこすりあわせる。

「そうそう、ス〜ちゃんが踏ん張って守ってくれた『Knights』だよねぇ。セッちゃん。『王さま』あんまりネチネチ言わないで上げて、俺たちに相談してくれなかったのは、いつも『暴走するな!』って俺たちが怒ってるせいだろうしさ。なにやっても怒られるなら、ちっちゃい子は萎縮しちゃうよ。でもス〜ちゃん、今まで俺たちは文句を言いながらもだいたい付き合ってあげたじゃん?全否定してるわけじゃないんだよ。変な思いつきして突っ走るス〜ちゃんを心のどっかで好ましく感じてたし、屍体みたいだった俺たちはその刺激で賦活してたんだ。遠慮なんかせずに、やりたいことやりなよ。たぶん次の『王さま』はス〜ちゃんだし、全力で個人的なことでも何でもやってみなよ。俺たちが付き従ってあげる。だいたいさぁ、ス〜ちゃんそんなにいい子だっけ?何をお利口さんぶってるの?猫被ってるつもりならご愁傷さま、とっくの昔に本性はばればれだから。変に取り繕わずにお兄ちゃんたちに頼りなよクソガキ。お利口さんぶってこういうことしてたら、『忠実な番犬』がクンクン泣いてまた円卓に潜り込むよ?」
「なっ!!!りっちゃん、しーっ!!」

俺泣いた後すぐ解られるんだからやめてよ!と声を出す前に視線を五つ感じて、もう!っと声を荒げる恥ずかしさで顔を多いながらも、ちょっとー!!!と俺は悲鳴をあげる。また擦ったの!?とセナに怒られつつ、顔見せろと怒られる。泣き跡を擦ったのもあったので、すぐに俺の目は真っ赤になる。擦んじゃない!皺になる!と怒られたがいいの!俺モデル志望じゃないから!!俺とセナがギャンギャンしつつもナルくんがすーちゃんのフォローに入ってるのを見て、俺はセナに目薬さすから上向いて。と言われて渋々それに付き合う。
ギリギリを俺が抵抗しても意味がないのはセナが俺の目に無理やり目薬をさすからだ。ぐるぐる唸ってもむだ、と鼻っ面を叩かれて、げひゅ。とワケわかんない叫び声を上げるのだった。痛いって!セナ!

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