スカウト!リテラリーアーツ-1

返礼祭『レクイエム』の事前打ち合わせのために適当な空き教室を借りて、下級生と俺とで打ち合わせを兼ねて話をしていた。基本的に、下級生が主体となるのである程度まとまったものをもって上がるための打ち合わせなのだが。全員で違うフォーマット提出すると俺たちも混乱するから。という理由の元、俺のフォーマットをベースとするための説明会として、空き教室に集まってあれやこれやと繰り広げていた。そうしていたら、いつのまにか脱線して部活の追い出しが。と言い出したのがきっかけだった。

「文哉ちゃん、文芸部よね?追い出しとかって。」
「部員一人だから、追い出しもへったくれもないよ。」
「でも、そういうの残念じゃない。」
「そう?」
「弓道部もやりましたし、瀬名先輩の所属するテニス部もやられたと聞いてますし」
「どうせ、『Knights』以外に思い入れはほぼないに近いからいいよ。いらない。」

知らない誰かに見せたくもない腸を見せるなら、いっそ自分の首をねじきって死んでいった方がいいよ。はい、話はおしまい。元に戻すよ。俺の『王さま』たち、従順な従僕に考えをつまびらかにして教えてよ。俺には、そんな部活に割いてる時間なんてないんだよ。だから、いいの。そんな話なんて、俺よりも先を超えるようになってくれるのが一番の理想。俺のことより自分のことしてくださーい。
適当にあしらいながら、話を切り替えるように俺は三人分の書類を振ってアピールした。三人は一瞬顔を見合わせてから、りっちゃんが気だるそうな声を出して俺に全部振ってくるので、全部突き返しておいた。お前が王なの、俺は俺の王だからちがうんだよ。わかって。頼む。
そういう攻防戦を開始していると、ナルくんもすーちゃんも話を聞いちゃいけないから出ていくわね。と出ていった。俺と、りっちゃんで押し問答していたけれども、そのままはや1時間。このまま応戦をしていたが、猫のように気まぐれりっちゃんがもういいや。しょうがないねぇ。って言って折れた。怪しい。不審すぎる。ふらふらして俺の手から書類を奪って頭を掻いて机に向かう。

「ねぇ、ふみやちゃん、これやらなきゃだめ?」
「それ、タイムシフト表だからないと困るよ。」
「えーやっぱりだめぇ」
「次までの宿題にする?ここでまだ一時間しか進んでないのが恐怖なんだけど。」
「ふみやちゃんがやってくれるのが一番早いんだよ?」
「うん、そうじゃない。俺だって卒業するし、そのままじゃあいられないよ」
「えーでも、ふ〜ちゃんならしてくれるでしょ?」
「今回はしません」
「次はするの?」
「揚げ足とりめ。」

呆れていると、そのまま今日中に出すね。なんて残してりっちゃんは書類をもって出かけて行った。…一人残された俺は、ぼんやりと自分のやりたいことを考えて自分の書類に手を付けようとかと思っていたら、すーちゃんがやってきた。少し緊張した面持ちで、凛月先輩から私と鳴上先輩に連絡が来たので、私がやってきました。と情報をくれた。

「りっちゃんがあんまり進まなかったんだよね。」
「そうだったんですか。保村先輩、私の話を聞いていただけますか。」
「いいよ。俺に全部聞かせておくれ。」

促して俺の前にすわれと腰を下ろさせる。すーちゃんの書いた企画書を開きながら、あれやこれやと話をする。新しいことも古いこともどちらも踏襲してる案は、確かにすごいと思うよ。とってもらしいと思うから俺もこれで納得してしまう。

「そういうことがやりたいんだねぇ。なら、こういうのはどう?」
「確かに、それはすごいですね。……保村先輩はこの案を出して問題はないのですか?」
「俺のやりたいことは決まってるからね。」
「それは?」
「大丈夫、誰とも被らないところを走るから安心してよ。ルールも破ってはないし。」

保村先輩って、瀬名先輩と似たような思考をするときありますよね?なんてじとりとした目で見られたけど、俺は似てるんじゃなくて寄せてるの。前にも言ったよね。結構熱にうなされながら無茶苦茶な過去を、何も知らない彼に言った気がする。

「真似するのが人間の成長の始まりだよ。だから俺はセナとレオの真似を始めた。それだけだよ。」
「先輩は、立派に歩き始めていますよ。誰の真似もすることなく。少なくとも、私にはそう見えます。」
「そう?そう見えてるならいいや。」

自分の成長なんて自分で見えないものだしね。カラカラ笑っていると、そういえば。と思い出したようにすーちゃんは口を開いた。保村先輩の写真を見たことがないような気がします。そういうのってとられてないのですか?と問いかけられた。

「俺の写真?」
「えぇ、学院資料を少し探していたのですが、添付資料の写真が全て切られていたり塗りつぶされていたりしてたので。なにかあったのかと。」
「あぁ、それね。俺がやった。」

俺が『Knights』に入るときに、生徒会にして全部処分してもらった。かなりの代金を支払ったけれどもね。学院に入学してからの俺が参加した画像と映像を全部廃棄してもらったんだ。だから、学院には俺の資料はないよ。

「どうしてでしょう?」
「俺がみたくなかったから。かな。」
「この学院に、過去の保村先輩の写真すらのこってない。ということで間違いないんですね。」
「…うん?そうだよ?」

呆れてため息をつかれた。ひでぇ。保村先輩にお伺いしたのが愚かでした。私が話をそらしましたが、戻しましょう。と強引に戻された。…いや、切り出したのも戻すのもきみなんだから面白いなぁ。

「まぁいいか。すーちゃん。続きをやろうか」
「そうですね。あの、ここなんですけど。」
「うんうん、どれどれ。……あぁ。これはね。」

過去事例を出しながら打ち合わせを進めると、ある程度納得したのか、ある程度仕上げて今日中に相談しに来ます。とすーちゃんは自分で決めて自分で行ってきた。従僕の俺は、そっか。と返事をするだけである。広げられた書類を全部自分の腕に抱えて部屋から出ていくのを角を曲がって消えていくのを見送って、俺は息をつく。

「余計なこと考えてるんだろうね。そんなことしなくていいのに。ねぇ。」

俺なんて、ほぼ最後に入ったやつなのにさ。そんなにしなくていいんだよ。日程もないし、返礼祭もすぐそこ。そこで『Knights』の次の王が決まって続いていくのがそれが一番俺にとっての幸せなんだけどな。ぼんやりしていたからか、隣の気配に気づかなかった。

「なに、ぼんやりしてるの文哉ちゃん?」
「……ナルくん?いつからいたの?」
「打ち合わせ終わるので、どうぞ。って連絡が来たから。今来たの。」
「そっか。打ち合わせしていっこっか。」

中に招き入れて、話を進める。俺はそんな話を相槌打ちながらノートに書き込んでいく。楽曲とフォーメーションやらいろいろと詰めて、ナルくんが申請書類に手を付け始めた。俺は、今日聞いた話達を全部まとめて俺の分と被りはないかと確認作業を行っていると、ナルくんのスマホが鳴りだした。相手を確認してからかつぶやくように言葉を落とした。

「あらぁ、準備が早いわねぇ。」
「……どうしたの?」
「内緒よ。知りたい?」
「ううん。そんな気にならない。」

つれないわねぇ。とぷんぷんされたけれど、俺に必要なのは今それじゃないかなぁ。そんなことを言っていると、ナルくんは興味をなくしてか、携帯を触ってからまた書類仕事に戻った。集中力を取り戻して、俺は自分の思考に戻る。アカペラの構想を考えながら、思いをはせていると俺の携帯も鳴った。一番最新のユニットソングになってるので、恐らくセナかな。とあたりを付けて電話に出ると怒鳴られた。

『文哉。そこにクソオカマいるでしょ!スタジオまで連れてきて!』
「…はい?」
『いいから、連れてきて!』
「いや、ちょっと。セナ?」

理由を聞く前に電話は切られた。結構な怒鳴り声だったので、ナルくんにも聞こえてたようで、首をかしげている。いや、ナルくん。なにしたの?問いかけても、さぁ?と首をかしげていた。呼ばれてしまったものは仕方がないので、俺たちはセナの言うとおりに、スタジオに向かう。そんな道中、先ほど文芸部について言及された。

「そういえば、文芸部ってあんまり活動してたと聞いてないんだけど、どうだったの?」
「一人だから、楽だったよ。舞台のシナリオ書いたりだとか、色々してたから廃部しないように取引したりしてた。」
「働きすぎよ」
「さぁ、休むこと。ってよくわからないから。そんなものでいいんだよ。回遊魚みたいにずっと動いてなきゃ。」

休むのも仕事よぉ。たまには自分を甘やかすのも必要よ。なんて言われるけど、ずっと働いてる身分として、睡眠があるし。ねぇ。と思ってしまうのだから完全にワーカーホリックなんだろうか。そういう言葉を飲み込んで、適当に相槌打ってるとこれだから泉ちゃんに説教してもらわないと聞いてもらえなさそうねぇ。なんて呆れられた。いいんですぅ。マグロで。
そうこうしてるとスタジオが見えてきた。結局何だったのだろう。のんびりとセナの怒る理由を考えながら、俺はあくびを一つこぼした。

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