反逆 王の騎行ともしもの道を通る俺。-3e

【ジャッジメント】当日。いろいろと手を打ったけれども、まだ足りない気がしてはいる。舞台袖に衣装を着て立っている間も最終チェックに力を入れていると、舞台でレオがしゃべりだした。与太話をしつつにぎやかに騒いでるので、隣の鳴上くんがテンションが高いと呆れているし、舞台上で騒いでるのはとセナが文句をたれている。

「とりあえず、始まりそうだから俺は出てくるよ。」
「大丈夫だって、俺もセッちゃんもふ〜ちゃんの初戦は問題なく勝てると思ってるんだってば。」
「…なになの、その自信は…」

呆れながら前に出て見るとレオがお前が出るのか。と笑っていたので、そうだよ。と返事をすると、ほかの連中はどうした?しっぽをまいて逃げたのか?と言われて、俺たちは出番を決めてるからね。問題ないよ。この間の【デュエル】もそうだったからね。人物さえわかれば、俺も対処がかなり行えるから。

「レオが一発目から出るの…?」

王だよね?と疑問に思っていると、目じりを吊り上げた蓮巳がレオを連れて下がっていった。やっぱりレオは王の様子で、間違いなさそうだ。

「全く度し難い。王が先に動くとは…。」
「あぁ、やっぱり蓮巳か。」
「やっぱりとは何だ。やっぱりとは。」
「べっつにー。諸々のことを考えて登場してくる予報が当たったな。っていうだけ。」

朔間くんも、セナも俺が一発目に出たら絶対に勝てるっていうから、俺が出てる。それだけだよ。淡々とそう伝えれば、蓮巳は眉根を寄せて、どうしてそう言い切れるのか度し難いと眼鏡を押し上げていっていた。俺はそんなのを視界の端に入れて、舞台から客席に向かって手を振る。歓声が聞こえているので、そちらに微笑んでから瀬名たちを見るとまじめな顔をしてこちらを見ている。けれども、どこか余裕を感じているのは一戦目が絶対に勝つと予測しているからだろう。その理由が理解できてないけれども。すでに俺たちの色のサイリウムが振られてる。それをみているからなのだろうか。反対側の舞台袖を見ると値踏みをするような目線がちらほらと感じる。

「俺を誰だと思っているのか。」
「何か言ったか?保村」
「耳目を集めるのは俺の得意分野だってね。」

二っと笑えば、音が鳴り始める。踊り始めてから気が付いたことがある。俺がソロで歌う機会が全くないからって、歌うたびに歓声が聞こえてサイリウムが振られてるのがよくわかった。…朔間くんもセナもそういう意図で言っていたのかと俺が気が付いた。畜生。俺の実力なんてなんもない、ただの『Knights』箱推しとかっていうのが喜ぶだけじゃねぇかよ。さっきまでのしたり顔を返してほしい。セナと朔間くんがニヤニヤしてるのがちょっとむかっ腹を立ててしまった。大人げないけど、そういうこと。
歌って踊ってアイドルをして一曲が終われば、採点に移る。無難に俺と蓮巳のトークを超えて、出た結果も俺の勝ち。…なんだか、ちょっといろんな意味でショックなんだけども、俺は平然を装っていると、蓮巳は一言だけ述べて舞台袖に戻る。なんだかその背が語っているのは無だったような気がする。そんな背中を見送っていると、入れ替わりでやってきたのは鬼龍と仁兎の二人だった。

「えげつな。一人に対して二人だなんて、ねぇ?」
「それだけ危険視してるんだよ。希少価値にな。」
「へぇ、それはどうも。一度は天下を取った愛らしさだから?」
「いつにもまして機嫌がいいな…ライブだからか?」
「さぁね。俺もただの男の子っていうだけさ。」

戦力差、体力差、人数差がついての状況。燃え上がらないほうがどうかしてるよ。レオもセナも関係ない。この一瞬だけが俺を見ろと全力で振る舞う。蓮巳との対戦である程度体力が削られているけれども、俺が頑張れば頑張るほど後でほかのみんなが楽になるのを知っているので、気合を入れて歌い踊る。多少難しい振りだって調整を行って自分のものにして来た。幼少期についた奇跡の天才子役は、昔からひっそりと頑張ってきて、一瞬穿つために己の才覚を研ぎ澄ませてきたんだ。
そのための地慣らし、これだけで戦えるなら万々歳であろうけど、レオたちのところには学院のトップを争うユニットメンバーや、過去トップを走っていたユニットがわんさかいるのだから俺もただじゃあ降りてはやらない。

「さぁ、戦おう。俺とお前たちで、どこまでやっていけるかをな。」
「お前今自分の顔確認してきた方がいいぞ。その顔どっちが悪役なんだか」
「別に、そんな顔してるふうに読めるのって、あんたたちもそういう顔してるからっていうことだよ。」

心理学の問題。相手が見えてることは自分もそうなってるとかいうお話だから。会話を強制的に切って大ぶりのアクションを行う。相手が鬼龍だから見劣りはするだろうけど、俺はここである程度二人分の体力まで削れば俺の目標値越えはしているので問題ない。二人出てくるのも推測済み。蓮巳の思考トレースはうまくいったみたいである。
曲が終わって軍配は鬼龍と仁兎に上がる。まぁ、一対二の時点で点数が取れないのは明白だろうと思っている節はあるのでショックはない。むしろ、仁兎や鬼龍の体力がそれなりにそがれているのならそれで十二分だ。客席にしっかりファンサをしてそのまま舞台袖に戻ると、セナと鳴上くんが入れ替わりで舞台袖から現れる。お疲れと、頑張れのバトンタッチを行って舞台袖、客席に見えないところまで戻ってから、近くの椅子に身を投げ出すように座り込んだ。

「保村先輩!?」
「あぁ、ちょっと疲れた。」
「えらいえらい。」
「仕事はした。期待以上のところまで持ってったから。」
「わかってるよ。やりやすくなってる。問題ないよ。」
「だろう?」

スポットライトを浴びて踊るセナと鳴上くんを見ながら、一番の功労者のために俺たちも頑張んなきゃねぇ。ス〜ちゃん。そうやって話を投げているが、俺には理解ができない。疲れて集中も切れたのか、俺の意識は一瞬だけ眠りに落ちた。

「文哉。起きな。こんなところで寝たら風邪ひくよ」
「あれ。セナ?…」

意識がふっと上がって、俺の前には鳴上くんとセナがいる。今寝てた?そう問いかけたら、汗だくで寝こけてるから起こした。と言われて、それだけ消耗するほど抑えててくれたから戦いやすかったわ。と鳴上くんが教えてくれた。

「俺は、役に立った?」
「それはもちろん。今は凛月ちゃんが頑張ってるわ。」

そう指さした先を見ると、皇帝天祥院と戦う凛月くんが見える。これで四人目が立った様子。楽曲も始まったばかり、セナたちのを見逃したわけだが、俺も体力が多少回復したのか、先ほどよりもまだ体が動かしやすい。ぼんやりとステージを見てたら、凛月くんは引き分けに持って行けたらしい。凛月くんがそっと舞台袖まで歩いてくる。それと変わるように朱桜くんが立ち上がり、緊張した面持ちで歩き出した。

「行ってまいります。」

鳴上くんやセナに一言を残して歩き出す。俺の前に立って、言ってくるというから俺も、いつも通りで大丈夫だと伝えると、彼は少し頷いて歩き出した。入れ替わる際に、凛月くんが肩を叩いて戻ってきた。おかえり、と返事を言えば疲れた。癒してと俺に飛びついてくる。俺も体力が完全に回復しきっておらず受け止めるのに失敗して二人で地面に落ちる。その際俺は打ちどころ悪く意識を飛ばして保健室送りになったことは別の話である。


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