レクイエム*誓いの剣と返礼祭-09

後半は一度だけ。コレがホントに終わりなんだな。って思いながら俺はステージに踏み込むために歩いてると、りっちゃんとナルくんから背中を叩かれて、すーちゃんから心配された。…心配されるほどなの?!って俺が逆にびっくりした。そこまで見られてたの?って問いかけたら頷かれた。ごめんね。でも、これで終わりだから許してよ。こんな辛気臭い顔も見たくないでしょ。色々思ってたら、すーちゃんがため息をついて俺の手を引いて舞台に上がった。ちっちゃい子に言われるとちょっと堪えた。遊んでないで早く所定の位置につけ。とセナに怒られたので、俺はさっさと位置について照明がつくのを待った。
楽曲と同時にスポットライトが当たって、踊りが始まる。一曲が終わると2曲目の予定なんだけど、音が来ない。おかしいな?って思ったら、レオが喋り出した。あれ?と思ってたら、周りも聞く体制なので、どうも俺に情報が回ってきてないらしい。というか、周りも様子見の感じだね。

「最初の歌も終わったところで、まだまだ元気なうちに義務を果たして置こうと思います!」

俺としても延々といつまでも歌って居たいんだけど!仏頂面をしてる瀬名が『どうしても』って頼むから仕方なく!そんなに時間はかかんないようにするから、どうかおつきあいください!とかいいつつ、セナに進行を任せて、執筆を始めるから!とレオはステージの端で、五枚の楽譜を書きだしたのを見て。俺はそれで。自分が居ないことを悟る。最後まで希望をもたしてくれない所に、堂々としすぎててちょっとすでに泣きそうだ。
まわりも状況がわかってないのか、不安そうにセナに問いかけに言ってる。が、りっちゃんは例の儀式やるの?とか言い出したので、俺はそんなの聞いてないので首を傾げる。よくわからないから、ただただ俺はみんなを見ていた。
ちょっと思うところがあって、言っとかないとって思ったから。とセナが言い出すので、俺はステージの最前列の隅っこの方で近くのファンと一緒に見守ることにした。黄色い歓声があがりかけたので、俺は人差し指たてて、しーって促すと、真っ赤になった子が頷いてくれた。おっけーとポーズだけしてセナの方を見ると、感謝の意を告げてた。変なもの食べたの?とか気が狂った?とか好き勝手言われてるのを見ながら、これが本来の姿だったのかな。なんてぼんやり思ってしまう。

「保村先輩!そんなところで見てないで、Doctorを呼んでください!」
「いや、ステージ上にそんなもん呼べないし、好きにさせたらいいじゃん。」
「文哉まで!お前ら前も同じような反応したことなかった?俺はどれだけ薄情なやつだと思われてるのかなぁ?チョ〜うざぁい!」
「……っていいながら俺のほっぺつねって引っ張り出さないでよ。」

ぷりぷり怒りながら、俺をステージ中央に引き戻す。ファンの子に手を振って別れて、中央に戻れば、セナはあれこれ喋り出した。青春ぽいことをするのがかっこ悪いって思ってた。とか、へそ曲がりだから最後になっちゃう可能性だってあるから最後に言わせて。とか言い出すから、俺が動揺する。やっぱり最後じゃんね。俺。って思ってしまう。

「俺も真面目に本心を話すから、冗談でもなんでもないから、聞いて。」

真剣そうなまなざしに、俺は視線を落とす。返礼祭の流れならば、俺には言われないだろうけれど、たぶん。除名が決まっている以上俺も言われるだろう。心臓が痛い。目を閉じて、俺は心臓を抑え込むように握って、耳を澄ませる。来るなと何度叫んでも、聴覚だけはしっかり働いてて音をつかんでる。
セナはすーちゃんの名前を呼んで、短めに感謝を告げている。すーちゃんの才能や強さを懇々と言っている。一文字ずつ俺の時間が消えていくのはもったいなくてそっと、目を開ければ二人で頷いてたり最後には頭をぐしゃぐしゃにしてた。俺は穏やかそうな顔をして、ただただその光景を眺めていると、りっちゃんが横に立った。

「ねえ、ふ〜ちゃん大丈夫?」
「だいじょうぶ、だよ?」
「すっごく泣きそうな顔してるよ」
「そりゃあ…そうだよね。俺の首かかってるもん。これが最後だから、よけいにだよ。」

マイクにのらないようにぼそぼそ喋ってると、セナはナルくんへの感謝を伝えてだしていた。ステージから見えてるケミカルライトも、ひとつひとつ消えていくのが見えた。まぁ、曲中じゃないからっていうのはわかるんだけど、俺のともしびにも見えた。『Knights』のアイドルじゃない俺にはきっとたぶん。そういうの振る理由はないんだろう。知ってるよ。俺は、だんだん堪えるのもしんどくなってきた。涙をこらえる演技をしたことはあるけど、あれはだいたい最後には泣く用のものだけれど、本当に耐えるっていうの、初めてじゃないかな。そっと俺は手袋で涙をぬぐいながらも、息を殺す。平常を装っていると、りっちゃんが呼ばれた。泣きそうなのを堪えてるので、あんまり聞いてないんだけど。

「ついでに、保村文哉くん。」
「うひっ」
「なんて声出してるのさ。」
「俺も?ってなったからさ。」
「そう、あんたも。」

まじ?って聞くと、まじって返された。うーん。何が来るのかわからないからビビってると、セナが俺を抱きしめた。俺の思考もいったん停止するし観客も悲鳴を上げてる。俺も処理落ちしてる。今までありがとう、とか、無理しては知らなくてもいいんだよ。とか。あんたは言葉じゃ伝わんないからねぇ。と言いつつ俺の頭撫でながらささやいてくるの怖いんですけど!!処理落ちしてる俺の耳にセッちゃん怖とか聞こえてるから処理は落ちてない。すまん嘘ついた。でも、なんかほんとにおれの首飛ぶみたいで怖いじゃんね!今まで確かに聞きたかったことなんだけど、逆にこのタイミングだからこそ怖い。俺恐怖で泣きそう。って言うか泣いたら、現実になりそうだし。もうやだ。って思って耐えてたら、セナからありがとう、愛してる。とまで。言われたら俺の涙腺壊れた。もうやっぱり確定じゃんね、セナはほぼ関係ないから結果知ってるんでしょ?俺がぐずぐずなってたら、最後に「大丈夫。安心しな。」って耳打ちして俺から離れた。俺は状況が解らなくて涙も引っ込んだ。何言われたの?ってナルくんに言われて、俺は笑ってごまかして、マイクにちょっとだけ後向かせてね!って言ってから、ごしごし服の袖で涙を拭い取った。最後は笑ってサヨナラしよう。って今思ったからだ。この流れならたぶん、俺の免職通知もこの場所だろうし、笑っておこう。俺を愛してくれた人たちがいるから。
俺への話も終わりみたいなので、セナは観客に声をかけている。

「あとなんか湿っぽい感じにしちゃったのも申し訳ないけど、ここから先は楽しい事しかないから許してね!」

ってセナが言ってると、恨めしげな眼をしてレオがセナを見ていた。一言くれ!ってレオがねだってた。そしてセナはその依頼を蹴飛ばしてた。それでもレオは笑ってセナに飛びついている。

「いいかげん、黙ってるのも限界だから盤面を進めちゃおう。」

ニッコリ笑ったレオが手を打って、重大発表があります!っていうから、俺はついにきてしまったかと背筋が伸びる。もうちょっとだけ付き合って!といってから、レオは今回のいきさつを話し出した。が、結論戴冠式を行うであった。新たな王の誕生。俺ではないと言う事だ。まぁ、俺は一発目だし、だいたいそういうのは試金石になるのが通例だ。それが一番になるとするならば、全員がついてこれない、もしくは一発目が一番よかった。つまり、他が目劣りするということだ。

「要するに、【返礼祭】で在校生の三人と、卒業生一人がひとつの舞台ごとに『王さま』になってすべてを支配したうえで得票数を競ってた!みんな今日の『Knights』はいつもと違う、どんどん新しい事やってるな?みたいに思っただろ〜?」

実はこういうことでした!サプライズ!と笑いながらいっているのだけれど、本当にこれで俺は終わりだからそんな顔してるのかな、って俺は思って唇をかみしめながらレオの話を聞いていた。大丈夫だよ、と言わんばかりにセナが俺の手を握ってくれるが。どれもこれもがどうしようもなく、レオの音がすごく耳に痛い。

「誰が勝っても喜んで王冠を授与する!途中で脱落することなく、みんな力の限り戦い抜いて偉いなぁ!褒めてつかわす、みなのもの近う寄れい!ただし文哉は駄目だ。お前は卒業する立場で王と共にいなくなるのに『王さま』を殺めようとしてるんだからな!お前にだけは自分の首をかけて戦ってもらった。」

その時点で、会場がざわついた。レオの笑顔と、さっきの楽譜。それだけを見て俺の答えは出ている。優勝はないと。まぁ、他の子の構成をみてると自分がまだまだだと思い知らされるのだから、そういうことだよね。そう思ってレオを見ると、レオの顔は表情は崩れない。

「最後の栄華を楽しみなよ、あんたには王冠は重荷でしかなかったのかもしれないけれど。」
「そう思う?おれが自分の要らない重たいもんを、かわいい子どもたちに押し付ける酷いやつだって、本気で思ってるのか?」

え?違うの?といいつつセナはレオに問い詰めた。俺の手が離れた。痛みも、熱もない。俺はつないでた手をぎゅっと握って、二人を見る。たかだか数歩の距離なのにかなりの距離があるように感じる。音も近くで聞こえてるのに、水の中に入ったかのようにくぐもってわからない。

「ってことで!さっさと結果発表しま〜す!セナがわがままを言ったせいで時間が足りなくなってるからここから先は駆け足で!」

俺の視界にふと不安そうなファンの顔が見えた。ごめんな、そんな顔させるつもりもないんだけれど。俺にはもう覆せない。俺は自分のライブが終わった時点でほぼギロチン台の上だったんだから。

「そういえば、さっきも言ったけど念のためもう一回!『王さま』になったやつは、他の騎士たちに一つだけ絶対に逆らえない命令を出せる!その命令の内容によっては、誰も望んでない結果になるかもしれないけれど、その場合はごめん!おれが責任をとるから、断頭台にでもどこにでも送って!罵れ!石を投げろ!自分で招いた結果だ、おれは文句を言わないから!でも。先に行っておくぞ、ここで1位をとらなかったら、文哉は『Knights』を即辞めてもらうからな!」

また音がざわついた、それでも気にせずレオは結果発表をしよう!そういう声と同時に俺たちの頭上のディスプレイに映像が変わった。俺の名前は二位。…一位じゃない。ほら、想定と一緒だ。

「そっか。終わっちゃったな。俺の青春も。」

ぽつりとつぶやいた音はマイクに乗ってたらしい。ファンの子が辞めないで!とか言ってるけれど、誓約書もそうだし、レオから嫌われてたんだ。俺の世界が半分ないのと一緒だ。それならば、俺は『Knights』のために勇んで首を落とそう。

「今回、どんな『王さま』が居たかざっと振り返ってみよう!」

あくまでもおれの主観だけど!聞いといて。ナルは『今までと方向性は同じで、より激しく美しい』感じだった。基本はこれまでの『Knights』らしさを踏襲しつつ、競い合い高めあって更なる進化をさせてた!文哉は、『新しいこともしつつ古いこともやってた。温故知新ってやつだな!』楽曲ありきのアイドルで、アカペラを持ってくるのは驚いた!でも、文哉の演出も好きだぞ!俺たちの個性をよくみてるからこそ、のものだと思う。それぞれの得意を伸ばして、苦手なものをお前が全部抱え込んだだろ?
そういわれたが、俺にそこまでピンとこない。得意なことをひたすらお願いするスタイルだったのは間違いではないけれど。俺の言葉を聞かずに、そのままレオは話を続けた。いつものレオだなぁ。って思うけれど、俺の心には大きな穴が開いてしまった。
スオ〜は、『今までとぜんぜん異なる方向性』を示した!前提や伝統なんてほぼ無視!新曲やら新衣装やら、みたことないものを大量に投入しちゃった!おれたちが歌って踊ってるからまだ『Knights』だなぁ。って雰囲気は保たれてたけど!未知のものばかり並べたてられて、古参のファンの方々はかなり戸惑ったと思う!
あれやこれやと並べだしたので、俺はしっかり泣くのを堪えて背筋を伸ばす。微笑みながら俺の団扇を持ってる子に手を振る。気丈に最後までふるまわねば、騎士として…もうないけど、名が廃る。

「【レクイエム】の優勝者は鳴上嵐でした!そして、優勝できなかった保村文哉は、この現時点で『Knights』から脱退した!お疲れさん!あんまりよくわからないお前。」

満足そうに納得して頷いてるレオが絶賛に褒めている。そんなのを聞きながら、周りの光景を見回した。いろいろ考えてそうなセナと、三位のすーちゃんがちょっと落ち込んでるし、最下位になったりっちゃんは俺と同じように周りも見回していた。
レオは自分の口で効果音を言いながらどこからともなく王冠を取り出してナルくんに寄っていく。ナルくんはちょっと考えてか呆けてかしている。不思議に思ったのかりっちゃんが声をかけて我を取り戻してるので、どうも呆けてたようだった。これなら五人でやって行けるだろう。俺はそう判断してそっと後ろに下がる。俺はもうこの結果が出た時点で言外に『Knights』じゃないと言われたのだ。そうだろう?保村文哉。ここに残っていても、苦しいだけじゃないか。そっとゆっくりばれない様にステージ裏に引き下がろう。そう判断して、俺はそっとステージに立つみんなが気づかない様にそっと後ろに下がっていく。ちょうど。りっちゃんが客席に挨拶してるので、視線が移動してちょうどいい。そっと闇に、俺は地下に消えてくのがちょうどいい。獣なんてそういうものだろう?死期を悟って消える。それが俺。
引き際も大事だって身をもって知ってるから。そのままレオがあれやこれやとナルくんとやりあってるのをみてると、ナルくんの手に王冠が渡った。

「はぁい、お待たせ!いま王冠を受け取りました!『Knights』の新しい『王さま』、鳴上嵐でェす。傅きなさい。女王様とおよび!」

まぁ、なんと台詞が似合うことで。高笑いしてる姿は、本当に王者だ。ひとしきり笑ってから、ちゃんと頭に王冠を乗せて、マイクに声を乗せる。『Knights』は五人で安泰になるだろうし、社会で番組で、過去を振り返ったらきっと五人の写真ばかりがあふれるのだろう。俺のいない未来はそこまで変わらないだろう。なんておもってて、そう思いながら、あと数メートルまでさがったところでナルくんが俺が立ってた位置をちらりと向いた。

「な〜んて、ね。そうよアタシは『女王様』であって、『王さま』じゃないの!でもね。これだけは先にやっておかないと。まずは。保村文哉!」
「うへっ!?」

そういって俺を指差した。なんだよ、死体でも蹴ろうとしてるの?赤い王冠を頭に乗せたナルくんがニッコリ笑う。

「最初で最後の『女王さま』から一般市民 への命令よ。『Knights』に戻りなさい。今『Knights』に所属してないから、他の騎士たちに一つだけ命令聞かせられるわけじゃないけれど。あなたがいてアタシは1位になれたんだから。あなたも、みんなに愛されてるんだから。帰ってきてよ。」
「…え?…」

ちらりとセナが見れば満足そうに頷いているので、この間いってたセナの秘策はこれかと察知した。俺は、恭しくナルくんの前に言って膝をついて、一礼をすると、ファンが湧いた。俺がここに戻って嬉しいという悲鳴に聞こえた。ごめんな、またいろいろハラハラさせちゃったよね。と思うんだけど、ここはどっかでサービスしておこう。と俺は脳裏に決めて、また壁奥に下がろうとしたら。あんたの位置はここ。とセナに釘指された。レオとセナの間。ちょっとこのしばらくの経緯があるので居心地が悪い。

「さ、最低限のことは終わらせて、話を戻すけど、アタシは『女王さま』であって、『王さま』じゃないの!みんな、『Knights』のファンならご存知よねぇ?だから、この王冠は。『王さま』の座は欲しい人にあげちゃう!」

そうナルくんは言うと、レオは【レクイエム】の結果に従え!と声を上げた。王剣はころころ譲っていいものじゃないからな!っていうのは、正論だけれども、ルールを衝きすぎているぞ。つつきすぎて穴空いてない?結果発表と同時に、そういうんだからあの策士やばい。「文哉ちゃんは私がお願いしたの。だから、権利にカウントされない!だから、今からアタシ、その権利を行使するわ!みんなも証人になってねェ。」というあたり、りっちゃんの策の匂いがする。そっとりっちゃんをみると、何の事やらって顔してるけど。お前そういうところだぞ。
そして。ナルくんは一人ずつに命令を出す。セナには早く名前売って帰ってこい。りっちゃんに一緒に進んで。そして俺に、『Knights』の番犬としてでなく、一緒に肩を並べる『騎士』をしてほしい。と。形式的に俺の立ち位置をかえてしまえというものだった。っていうか俺はいるの?って問い合わせたら、ナルくんに「さっきの『Knights』にはいって、は文哉ちゃんは『Knights』に入ってないからよ。入っちゃったからには命令は聞いてね。」…だそうで。
俺は再度女王陛下に頭を垂れた。俺はみんなに消費されてもいいって思ってるからね。って垂れた後に言ったら、怒られた。なんで?マイクにのらない声量で俺は小言を言われた。
そこから、すーちゃんにお願いするのかな?って思ったら、すーちゃんが命令の変更を願いだした。が、そこはナルくんがいろいろと説き伏せた。色々会話してる中で、セナは俺に耳打ちする。
おかえり。今度は守ってあげれた。と。そう聞いて、俺の涙腺がちょっと壊れかけた。もう、なんなの『Knights』みんなで泣かそうとしてるの?ぎゅっと目頭を強くおしてると、すーちゃんは王冠を手に取って、聴衆に問いかけた。

「ひとつ。せっかくなので最後にやっておきたいことがあります。【Requiem】の延長戦です。いいえ、真の決選です。何となく済し崩し的に穏便に片付こうとしていますが、そんなのは認めません。我らを振り回し、大事な仲間保村先輩をぼろぼろにして、傷つけた罪を償っていただきます。Leader、我らが仕えた愛し王よ。玉座から降りて剣を抜きなさい。あなたを、我らが王の首をきっちり落として差し上げます。犬だった保村先輩の分も。」

…俺死んでません。

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