レクイエム*誓いの剣と返礼祭-08 りっちゃんが『王さま』の時にちょっと憂いの表情を見せた。何に憂うのか思考を回す余裕はダンスのせいでない。何で今回に限ってりっちゃんが俺に一番難しいパート振ってくるのかな!!いいけど!!その分これが仕事だって思っちゃうもんね!!視界にりっちゃんを入れてると、一瞬ちらりとレオを見た。りっちゃんの憂いは何かはわからない、指示も出てこないので俺はただ言われたとおりにやってるけれども、手は出せない。 「おい、リッツ!」 視界の端のレオがりっちゃんを呼んだ。どうも指示が解らないからと教えを乞いた様子だった。色々漏れて聞こえるが、音として認識すれども意味まで聞こえない。笑うレオはそのままりっちゃんの口を手でふさいで何か言っているので、そちらを見ながら動くが、正味解らないけれどレオは勝手に動き出して、俺とセナを巻き込んで歌いだそうとする。…お前、俺が嫌いだって言ったのに。なんで?解らず直視するのも恐れて視線を下げてると、声をかけられた。 「ほら、歌おう!卒業生トリオで会場を盛り上げようっ!文哉も!セナもっ!」 「鬱陶しい!飛びついてこないでよねぇっ!?文哉も何か言ってやりなよ」 「そうだね。レオの言う通りに歌おっか。」 安い俺は、名前を呼ばれるだけで嬉しくなるのだからもうこれはあれだよ。パブロフの犬状態。レオは嬉しそうに笑うので、俺はこれでいいと思ってしまう。 「わはは!なんかずっとセナはキレてる感じだなおまえは!あれだろ、気を抜いたら泣いちゃいそうだから表情筋に力をこめてるんだろ!そんなのは駄目!泣きたいなら泣け!アイドルなら笑え!中途半端が一番よくない!ほらほらっ!言う事を聞かない悪い子はくすぐっちゃうぞ〜文哉も手伝え!」 ほら文哉も!と言われたが、俺はうろたえる。セナから離せ!レオからくすぐれ!と相反するのがきたのもそうだけれど、なんで俺に笑ってるの?俺は困惑して二人を見る。セナもレオも会話をしてるので、俺は黙って見てたら、セナがアイドル続けるし、俺も続ける。って言い切った。え?ちょっとまって、色々問題発生してない?得点を見てないけれど、観客のノリ的にはたぶんナルくんが最多得点取ってると思うんだけど。そしたら俺は騎士の先端を守る番犬の俺、保村文哉は『Knights』にはいられないんだよ?俺は二人を交互に見てると、アンタもいいな。とつつかれた。 「俺も続けていきたいと思ってるよ。皆の側に。」 皆のそばには居ないかも。なんて言ったら俺の口もふさがれた。お前もセナと一緒の反応!飼い主だから似てるのか?というけれど、お前もだよ。レオ。何も言えなくなってレオを見つめてたら、りっちゃんから指示が出たので、俺たちはまた散って指示通りに動く。りっちゃんの後ろを通ろうとしたら気にしなくていい。と言われたけれど、なんだろう。と思考する。答えはいまいちよくわかんない。って思ってたらレオがりっちゃんに説教してた。まって、まって。ステージお前が壊そうとするな。って思ったけど、叱咤したようだ。俺に今の何?って問い合わせされたけれど、俺もよく最近解らないの。まじで。 「前は仲良しだったじゃん。いつも二人で。誰よりも互いの事を理解しあってる親友に見えたよ。俺とま〜くんみたいに。」 「隙あらばのろけるよねぇ。昔はそうだったかもしれないけど、今はご存じの通りの有様だから。俺よりも文哉のほうがわかってるだろうし、俺はよく解らない。」 「俺もあんまりわかんないんだけど…最近。不調。」 「ふ〜ちゃん王さま不足なんじゃない?」 「…だろうね。でも、嫌われてるんじゃ寄っても苦しいだけだよ。」 「またそうやって考えて…」 俺に解らないことが、くまくんにわかるわけないよねぇ。いいから集中してよ。最年長の癖にクソガキどもに負けたくないでしょ?しっかりしなよ。『お兄ちゃん』なんだから、あんたたち。 俺も含まれてるの?と問えば、当たり前でしょ。って睨まれた。ので俺はとっとと、離れることにする。多分ここでごねてたら怒られると判断したし、そうして進めて前半が終わってしまった。俺たちは何とも言えない空気を背負ってスタジオへと戻るのだった。 前半が終わってスタジオに戻ると天祥院たちが来たけれど、俺はこれから午後の事を考える。下手したら俺の夢ノ咲の青春が終わる瞬間のライブなので、と最後はどうしようか。と思っていたら、来客ばかりが来たので俺はそっとスタジオを抜け出した。転校生が何か言いたげにこっちを見てたけれど。無視してスタジオ脇の階段に腰を下ろす。さっきセナがアイドルを続けるなんて言った以上、俺も身の振り方を改めるべきだろう。むっちゃんに連絡を入れるために、携帯をポケットから引き出して、むっちゃんにかけたけれど留守電だったので。また終わったら連絡入れますとだけメッセージを入れて、俺は通話を切った。終わった。多分。そう思うと泣きそうになった。多分俺はレオの心を勝手に作って思考してた。それが本人にとって苦しい事だったのならば、俺は甘んじて身を引くべきだ。『Knights』が続くとしても、それがどうであれ。俺はここにいるべきではない。前みたいにひっそりとアイドルを続けていつか笑い話になったらいいけれど、そんな奇跡は起こらない。芸能界ってそういう所って俺が知ってるから。これからどうやって生きていこうかな。アイドルを続けると宣言しちゃった以上俺はソロ確定だ。さて、と思考をひねくっていたら。電話がかかってきた。ナルくんだ。とりあえず俺はまたあとでかけ直すから、ちょっと一人にさせて。とだけ告げて電話を切った。 多分。ここじゃ人目が付くだろうからと思って俺は場所を変えることにした。見つかったらまた何か言われそうだし。何も考えたくないけれど、考えなければいけないのだから仕方ない。適当な空き教室を見つけて、俺はそこの隅っこを陣取ってから、学院のシステムに則って部屋を抑える。一杯ライブをおこなったのに、俺のやりたかったアカペラの皆の声が耳から離れない。ずっと離れないでいてほしいとも思う。揺らいでしまった以上、もうもとの綺麗な形には戻らない。俺はもう崩れた後だったから、ちょっと立て直してはまた少し崩れかけてまた戻して。をやってた。砂の城なんて戻らないし、ガラスの器なんて砕けたらもとに戻すには熱で溶かして零から。だ。そうなってしまったら別物だし、同じものでもない。 「……できたことなら、もっと早くにやっぱりあっておきたかったよ。みんなと。」 ぽろりとこぼれた涙は、一つ落ちたと思ったらとどまることを知らない。きっとこうしていなくなってる俺にも気付かずに、みんな話し込んでいるんじゃないのかな?って思うと、またもっとみじめな気持になった。どことなくあの消耗されていた時期に似ている。俺を利用するだけ利用して、最後に切り捨てたあの顔たちなんておぼえてないけれど。あの感覚に似てる。保村文哉という仮面だけをつけて苦しいと沈むあの頃に。 どこまでも沈んでいくような感覚を覚えながら、深いため息を吐くと控えめのノックが聞こえた。はい?と返事をしてみれば、ナルくんが立ってた。 「どうしたの?家出?」 「ちょっと、センチメンタルになってるね。」 「嘘仰い。こういうときの文哉ちゃんは、もっと黙ってたし、最後は倒れちゃってたわ」 はい、嘘つきました。何て素直に伝えれば、素直でよろしいと言って俺の頭を撫でる。しっかり骨ばった手が俺の頭を撫でるんだけど、その割に手つきが優しい。 「で、家出した理由は?」 「ちょっと、自分の身の振り方がわかんないの。『Knights』は続いても、俺の席はたぶんないだろうし、セナはアイドル続ける。って俺の分も言ったし。どうしようかななんて 。」 「また性懲りもなくちっちゃな事で悩んじゃって。」 「ちっちゃくなんかないよ。俺にとっては。」 「大丈夫よ。そこは泉ちゃんが秘策を教えてくれたから。安心なさい。問題ないわよ」 セナが?そう問いかけると、ナルくんは呆れてた。文哉ちゃんも泉ちゃんもなんでこう自分のことになると頭まわんないのかしら。なんて言われた。…俺そんなことしてる?って問いかけると、頷かれたのでショックを受けたのは言うまでもない。し、俺に捜索網がかけられてたのは知らなかった。 ←/back/→ ×
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