噪音◆渦巻くホラーナイトハロウィンと俺-4e

ファンサービスを終わらせて、俺たち『Knights』もステージに入ると、レオがすたこらさっさと歩き出したので、俺はそちらについていく。何かあったときにすぐに対応できるからだ。

「お〜い、お前『Trickstar』だろ?うっちゅ〜」
「レオ。ちょっと。」
「今日ぐらいはちゃんとこういうべきか、Trick or Treat。わはは、お前ら猫ちゃんの仮装をしてるんだな?かわいい!うちの文哉のがかわいいぞ!」
「レオ!」

俺はどっちに怒っていいんだろうかと困惑しつつ、レオの首根っこを捕まえて、明星に飛びかからんとするのを止める。ほら、明星も困惑してるだろ。

「『誰?』って酷いな!まぁ、いつも同じようなことばっかり言ってるおれにだけは文句を言う筋合いがないけどな!なあ文哉。」
「そうとは思うよ。」
「何か今回は同じようなことばっかり言ってる気がするよ。昔の夢ノ咲学院っぽい出来事だったもんなぁ。見えない巨大なものに踏んづけられて傷つけられてさ。でも、今なら、発端は同じでも結果は変わる。くぁる様になったんだよ。お前らが変えたんだ。」

おれは嬉しいし感動してる!偉いえらい!と頭を撫でている。明星は給仕中だからと、断っている。迷惑かけないの〜。と柔らかい声を出して、俺はレオの手を奪っていると、遊木がやってきた。

「何か酔っぱらい?の人に絡まれちゃって…」
「明星ごめんな。レオほら、みんなのところに帰るよ。」
「って、月永先輩!このひとが会いたがってた『Knights』のリーダーだよ!」

遊木が明星を揺すってレオを指差す。そ〜なの?と言って俺とレオを見ている。指さされてレオは、『ゆうくん』以外には挨拶してなかったな。と俺から離れて、自己紹介をしている。

「おれのことはどうでもいいから衣装を見て!死を告げる首なし騎士から着想して、命を刈り取る死神に」
「でも、俺だけ名乗っても、仕方ないから仲間を呼んでくるね!ちょっと待ってて!おいぬ先輩!」
「犬って言うな!!名前で言え。」

レオと明星の会話がうまい事かみ合ってない。譲るように、どうぞどうぞと明星がレオに話す様に促すが、ここの二人はかみ合わせるだけ無駄じゃないのか?と思っていれば、レオが大人の度量を見せるべきだよな?と俺に言うから、そういうならもっと周りと離れないの。と俺はレオの軌道修正に走る。

「痛いことがるなら何でも言っとけ、言えるうちに。人生は長いけど人類は多い、次にいつどこで会えるかわかんないしさ。文哉もな。」
「え?」
「悩んでるだろ?」
「とりあえず、その話はライブが終わってからな。」
「『Knights』のリーダーの人に会えたらいろいろ話したいこともあった気がするけど。たぶんライブで全部伝わるよね。」

明星が首を傾げているのを、レオがさあね!と笑い飛ばした。たぶん、レオのあの選択がそうさせてるのかもしれない。問う想うと、俺はあの選択で正解だったと俺は思う。

「気持はどれだけ言葉を尽くしても三分の一も伝わらない!一生懸命、心を籠めて歌えばみんな納得してくれる。なんて思ってるならご愁傷様!それがおまえらの『作戦』なら、おまえらはおれたちに勝てないよ。そうだろ文哉。」

って、なんかあのボンクラみたいな言い分だよな。やだやだ、恨み過ぎて同化してきてる。愛と憎しみは紙一重。
歌うように発言するレオの言葉からボンクラが天祥院だとすぐに理解した。とりあえず、どこかに移動しようと声をかけた瞬間、俺の背中を誰かが叩いた。

「おいっす、『王さま』、ふ〜ちゃん。賑やかだねぇ。」
「おぉ、リッツ!無事化?元気か?ライブ前に復帰してくれてよかったよかった。おれたちもファンもお前に会いたかったよ!」

レオが俺から離れてりっちゃんの背中をばしばし叩いていく。痛いと言いながら、こうだったんだ。とレオに言う。

「ある程度復活できたし、本格的に皆と合流するよ。ふ〜ちゃんセッちゃんたちはどこ?な〜んか、無性にみんなに会いたいんだよねぇ。」
「あぁ、こっちこっち!案内する!手ぇ繋いで歩こう!ほら、文哉も。」

レオがりっちゃんと手をつないで、空いた方を俺に向ける。ほら!大好きな俺だぞ?と言わんばかりの手を俺は一瞬詰まる。ただの気まぐれで言われてるのではないか、と勘繰る。この間まで何も考えずにつかめた手が今になってつかめない。

「こんな麗しい衣装を着たまま、合わない様な言葉を言わないの。んじゃあね『Trickstar』次は舞台で会おう。俺たちも負けてあげるつもりはないから、せいぜい知恵を絞ってみなよ。」
「『応援してる』っていうのは本当!でも、おれたちは少年漫画に登場するような、主人公を成長させるために配置された安易なライバルじゃないから」
「甘えて油断してたら、その命を刈り取っちゃうよ?」

意味深な笑みを浮かべて、俺はそこでようやくレオの手をとり、行こうと声をかける。やっぱりお前様子が変だな?と言われたが、気のせいじゃない?とごまかして歩みを進めてたらレオが不意に足を止めた。先に進んでいた俺の手がレオと離れて俺は振り変えると翠の目が俺を見ていた。どうしたの?なんて問えば、すこしもごもごしてから口を開く。

「なあ、文哉。お前俺たちに何か隠してるだろ?」
「隠す?俺が?」
「ずっと様子が可笑しい。何かあったのか?俺たちはお前がいないと動かない。動けるけれど、どこかぎこちないんだ。傍から見てても思ってた。」

俺たちにも言えない内容か?暗にそういわれているような気がした。きっと言わなきゃいけないんだろうな。そう感じて仕方なさ気に口を割る。
俺は、セナとレオが大事だから。学院に入って初めて『ともだち』って言える人だから、二人の場所を守ってやりたいって思ってる。だけど、俺はセナにとってもレオにとっても大切だと言える存在じゃないな。って最近よく思うんだ。そして俺は『Knights』には要らない。って言われる日が来るんじゃないかな。って思っておびえてる。勝手に宙が落ちてくるような心配をしてるだけだから、気にしないでよ。そう伝えると、レオがまっすぐ俺を見た。

「…俺たちお前にずっと甘えてたんだよな。不安にさせてたのならごめん。俺たちにはお前が必要だ。誰が捨てるか。」
「ずっと捨てないでよ。」
「誰にも拾わせないし、俺もセナも捨てるつもりなんてない。俺たちの番犬だろ?お前が先に走っててくれないと俺たちも前に走れないんだよ。文哉。」

まっすぐに向けられた瞳がちょっと恥ずかしくなって俺はレオから目線を反らして、わんと一鳴き。近くの時計を確認すると、あともう少しでライブの集合時間だ。急ごう、と俺が急かせばレオが満足そうに笑ってる。これで釣られてるのだから俺もチョロいよな。とか思ってしまう。

「ふ〜ちゃん嬉しそうだね、」
「そうだね。嬉しいよ。」

単純だからね。飼い主の言葉がうれしいの。と鼻歌が付きそうなぐらいだ。単純な犬だね。とりっちゃんが俺の頭を撫でる。まって!帽子が外れる!!
セナの元に合流したら、つれてきてくれてありがとう。なんて言われた。からとりあえず返事を流していればセナは首を傾げて俺に何かあったの?なんて聞く。

「まあね。いろいろ。」
「あんたね。そういうことはちゃんと言いなって。あんたは俺たちの優秀な番犬なんだから。犬の具合を見るのも飼い主の仕事なんだからさ」
「俺を捨てないって約束だけしてよ。」
「はぁ?」
「俺、先にステージ上るからね。」

困惑するセナを置いて、俺はステージに上る。レオが『ゆうくん』とやりあうように会話をしている横に向かう。

「『必死に流行らせようとしてるところ申し訳ないけど、おれたちは真っ当にこう叫ぶぞ!』」
「レオ!」
「一緒に言うか!」

二人で『Trick or Treat!』だとか叫んで二人で笑う。さっき言われた言葉が胸に刺さった返しを溶かしていく気がして、ちょっとくすぐったい。

「『でもまぁ、おれたちはもうお姫様からたっぷりの愛情をもらったから!悪戯なんかしないよ、優雅に華麗にエスコートしよう。おれたちの舞踏会へようこそ!興奮しすぎて死んじゃわない様に気を付けてくれっ、』」
「『まぁ、万が一そうなってもさ、俺たち死神が手を引いてあげるから。それで余るほどの幸せで満たした後、愛すべき地上へ戻してあげようじゃんね?レオ』」
「そうだな!だから安心して身を委ねろっ、Let's【ハロウィンパーティ】」

レオの言葉と同時に音が鳴り始める。俺はそれに合わせて、小道具の鎌を振り、踊り始める。頭からそうしてみんながやってきて『Knights』が集合する。ちょっとレオがへたりだしてる気がして、そのサポートに入りつつ何食わぬ顔で曲を進めていると、レオはセナのほうに寄っていった。ちょっと不思議な顔してるので、おそらく下がらせて。とかそういう意味かもしれない。そっちの方を見ていると、ナルくんが俺のほうに寄ってきた。

「文哉ちゃんも体調はバッチリ?」
「そうだね。大丈夫。とんでもなく構ってもらえたからね。」

犬は構ってもらえなくて淋しかったんですー。なんて軽口をたたいてたらりっちゃんにまた頭を撫でられた。ちょっと撫で繰り回されすぎなので、はらいせのようにすーちゃんを構い倒してからステージを降りて、通路を駆け回ってファンサービスに繰り出す。しばらく俺のパートはないので、何かあればダッシュで戻るだけだ。うちわに書いてることを対応しながら、一瞬ステージを見ると、レオが俺の名前を呼んだのでここで終了。またあとでね、と声をかけながら舞台に戻れば。セナが目を三角にして俺を怒ってた。

「『王さま』から聞いたけど、無駄に抱えるなっての!」
「大丈夫だよ。セナとレオが俺の名前を呼んでくれる限り、尻尾振ってお腹を見せてあげる。飼い主が困ってたらそれさえもすべて散らして慣らしてあるいたげる。もう、平気だよ。」

いつかそんな日が来ても俺は一人で歩いていけるよ。そう伝えると、セナから拳骨が落ちた。いてぇ!!

「強がるな。あんたは俺たちを守るための優秀な番犬でしょ?たまには甘えろ。それが犬の仕事なんだからさ。」
「ほう……?」

セナのそういうところ、好きだよ。とつたれば、は?という顔されたけれど、俺は満足なんですよ。大丈夫、俺の『Knights』の存在理由はあんたたちが笑ってるだけで俺が成り立つんだからさ。

「今度は俺が、文哉が、あんたの願いをかなえてあげるから。みんなと楽しく歌いたかったんでしょ、『王さま』?」
「あぁ、そうだったよな相棒。俺の方が、もう昔描いたそんな夢を忘れてたのに。おまえが、おまえたちが覚えていてくれたから、今でもそれは俺の夢だし、文哉の夢だ。」

わはは!じゃあ、ここで逃げるなんて馬鹿のすることだな!おれを恨んでるやつや嫌いなやつもいるだろうけど、待ってて……愛して守ってくれた人たちもいる!今日、それをたっぷり思い知った!ファンの皆と交流して。触れあって、愛し合って!だからもう、おれは何も怖くない!文哉がおれを『Knights』を守ってくれる!歌うよ、おれの全部をささげて!大好きなおまえらと、大好きなやつらのために、大好きな歌を!

「文哉、歌おう!」
「セナもね!」
「仕方ないねぇ」

そう言えど、セナの顔は嬉しそうだ。吐きそうになるほど悩んでた俺が馬鹿らしくなる。たった数日だけど、その数日は地獄にも似ていた気がする。あの一年前に似ていた環境でさえも、全て蹴散らしてしまうんだから、ほんとセナもレオも偉大だ。俺は喉が枯れるまで…むろん、枯れたら怒られるんだけどさ。この幸せなスポットライトの熱を堪能して吠えるように喉を震わせる。みんなだいすきだよ!!そう叫んだらナルくんにこのこの。と背中をつつかれた。ちょっと恥ずかしくなったが、それを一瞬で隠してつつがなくライブを進める。途中ですーちゃんが俺の元にやってきて、レオがなんでいままで来なかったか。だとか聞かれたけれど、俺は『Knights』の加入がすーちゃんと同じぐらいだと伝えると逆に驚かれた。俺たちにもいろいろ理由があるの。とたしなめてライブを進めていく。曲も終盤が過ぎて、あとははけるだけ。なんて時に問題は起きた。
皆それぞれ一言づつ残していくから、俺も何かを言おうと思ったけれど何を言っていいか解らなくなって無難なひと言。

「次の舞台で会おうね。みんな待ってるから。不幸せだなんて思うなら、俺たちの名前を読んでね。とんでっちゃう。…でもま、それ相応のものはいただくよ?死神だからね」

にやりと笑って小道具の鎌を肩に担いで俺は先頭を歩く。ステージからはけてふと後ろを振り返ると、ゆっくりと照明が消えゆく舞台で遊木が立っているのが見えた。

「セナ。あれ。」
「ちょっと、何?」
「ん?あいつ、大丈夫か?」

いぶかしげな表情をしてる瀬名が驚いてる声が聞こえて、俺はさっと時計を確認する。俺たちの持ち時間は残り3分ほど。余裕を持たして吐けてるので、次のユニットもいるがまだ俺たちの音楽が鳴っている。

「ど、どうしたんだろう?張り切りすぎて限界が来ちゃったのかなぁ?昔からゆうくんはそんな感じなんだよねぇ。」
「そういってる場合じゃないじゃんね。」

なにやってんだあいつら?と睨みを利かせたがステージ向こう側にいる『Trickstar』はうまく見えない。3分の間でよそのユニットと後退のはずなんだけれど、よそがまだ見えない。次のユニットたちは俺たち側からのスタートはないのかもしれないが、遊木がそこにいる以上次が入り込めないのかもしれない。

「かるく一瞬だけ失神してるだけっぽいけど、舞台に残しといたら騒ぎになるだろうし、迎えに行ってやれよ。」
「んだね。…まぁ、時間稼ぎはしてやるよ。安心してよ。ご主人様。レオ、照明俺にピンスポあてるように頼んできて。」

ほら、セナ。行くよ。と声をかけて俺は舞台に飛び出す。遊木から目線を反らすためにステージの中央から降りて肩にかけていた鎌を振る。それと同時に話が通ったのかわからないけれど、俺にスポットライトが灯る。

「俺だけ出たのは、幻だよ。」

にっこり笑って鎌を振り上げる。そのまま横になぐようにして振り下ろす。それからターンを決めて、ぐるりと回る。そのついでに周囲の情報を得る。セナはまだゆうくんと何かをしているらしいので、しかたなく俺は柄の部分をバトンのようにくるりとまわして勢いをつけて、最後に上から下に振り落とした。そのタイミングに合わせて音も照明が切れた。これ以上時間を稼ぐこともできないので、俺は近い方からステージを降りて振り返るとちょうどセナが『ゆうくん』を回収してはけるところだった。

「さてと。俺も犬に戻ろうかね。」
「あれ?犬の先輩?どうしてこっちに?」
「…お前ら、もうちょっと周りも見てやれよ。一人足りてねえだろ。」

明星があれ?ほんとだ、うっき〜は?と言うから、セナが回収したから拾いに行って来い。と俺は明星の足を蹴ってセナから奪い返してこい。と促してやって俺は元の場所に戻る。…のだが、まぁここから後日談というか、数分ちょいあとの話なんだけど。俺の悩みが『Knights』の全員に共有されてたらしく、着替える前に俺はなぜかひたすらになんかいろいろ慰められたり必要だと言葉掛けられたり説教されたり、呆れられた。うっさい!!って吠えたら、もっと甘えろって言われた。甘えてます!!甘えてます!!だから、お前ら全員ハグさせて!!!

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