噪音◆渦巻くホラーナイトハロウィンと俺-3

そのまま俺は何事もない顔をしているが、内心ずっとそうやって考えていた。きっと、レオの学院での一番はセナだろうし、セナの一番はレオや件の『ゆうくん』であるのだろう。俺の一番は?なんていわれるとレオとセナ、って答えるんだけど。いやはや、それでいいのか今ずっと頭を抱えてる。

「文哉ちゃん、あの泉ちゃん止めてよぉ」
「……ん?……」
「あら、やだ。文哉ちゃんまで心ここに非ずって感じね?」
「ううん。仕事のことちょっと考えてたんだ。大丈夫だよ。で、なんだって?ナルくん。」
「あの泉ちゃん止めてくれないかしら?」
「セナを…?」

ナルくんが指差すから、その先をたどればうふふ。といわんばかりのセナが嬉しそうにカボチャをえぐりぬいている。配る用のお菓子のためなんだろうか。

「生首のようにも見える『かぼちゃ』をSpoonでかき混ぜていてすごく怖いんです」
「そっか…。」
「文哉ちゃん?なにかあった?」
「ううん?何かあった?」

問われたから問い直したら、なんだかいつもと違とか言われて一瞬ぎくりと体が固まったがすぐになにもないように取り繕う。問い詰められるとこれは吐き出すしかないんだけど、問われない様にしなければいけない。

「セナー。ライブもあるから、ある程度発散したら帰ってきたらいいよ?」
「うるさいっ!あんたたちも口じゃなくて手を動かしてよねぇっ、ただでさえ人手が足りてないんだから!はやく文哉もカボチャくりぬくの手伝って」

がみがみ言うので適当に返事しつつ、手近なカボチャに包丁を差しこんで、蓋の部分を作成して、すぐにくりぬく為にスプーンをオレンジ色したそこに捩じりこんで抉り取る。

「凛月先輩は体調不良のため、保健室で休まれているのですよね。先輩は芸風はともかくお菓子作りの達人なので、不在なのは痛いですね。」
「こうやってみると文哉ちゃんって何でもできるのよねぇ。小さいころにお料理番組出てたわよね。」
「うん、まぁね。番組で鍛えられたかな。」

子どもの生活の知恵番組みたいな節あったけれど、ね。そこから、家でも簡単な家事はやることにしている。布団の上げ下ろしやらお米研ぎやら風呂の清掃。姉が「んなもんできない!」っていうから俺がやるしかないよなぁ。

「かさくんは、そのうち合流するでしょ。こないだお菓子作りに呼ばなかったら後から死ぬほど文句言われたから、今回は予め当日の予定を伝えてるしさぁ?」
「そうね。個人的には、無理せず休んでほしいんだけど。」

今じゃ凛月ちゃんは『Knights』に欠けちゃいけない重要な存在だし、出来ればファンにあいさつだけでもさせてあげたいわね。うん、ただまぁ。くまくんがあんなに衰弱してるのって俺は初めて見たし、万が一があっちゃいけないから、あいつが最初から最後まで不在でも問題ないように予定を組んだからねぇ?
セナの言葉を聞いて脳内で予定を繰り返す。日が落ちるまではファンサービス、夜はライブで『Trickstar』と合同だ。この間のもあったがゆえに生徒会が配慮を行ったのだ。レオは出ない、って言ってたけど。同じ舞台に立ちたいなぁ。

「最悪の場合は、あいつ抜きでもいい。これまで、俺たちは五人でも順調にやってきたんだからさぁ。『王さま』は必要不可欠ってわけじゃないし。」
「…要るよ。レオは、必要だよ」
「そりゃあ、文哉には、でしょ?」
「いや。俺よりも、セナにはレオが、レオにはセナが必要だよ。絶対に。いや、間違いなく。そうだよ」
「文哉?」
「……ううん、なんでもない。」

最近様子がおかしいよ?と言われたが、心当たりはいっぱいある。それでも、たぶん言うのは烏滸がましくて。俺はただ口をつぐむ。ちょっと外の空気吸ってくる。と言葉だけ置いて、部屋から出た。レオが件の『ゆうくん』と話をしてから、俺の頭の中はずっとぐちゃぐちゃのままだ。レオの思考も読み解くことが難しくて、あれを聞いてからセナの思考も怖くてトレースできない。どうしたらいいんだろう。問うにも怖く、いらない。と言われてるようにも感じて、八方ふさがりだ。

「もっと、しっかりしないといけないのに…。」

解らない、こうやってずっと守ってるのも、全部利用されてるのかもしれない。搾取されてるのかもしれない。そう考えると、背筋に冷たいものが走る感じがする。あぁ、嫌だ。この間だってみんなが心配してたのに、それさえも疑ってしまう。
俺を必要だって言ってたセナだって、レオが居ないから俺を必要としていたのかもしれない。考えたくないのに思考は不安へと転がっていく。考えすぎたら過呼吸になるかもしれないから、と自分に言い聞かせても思考はいい方向に転んで行かない。

「調理で頭冷やそう…。ここで悩んでても仕方ない…よね。」

この跡は戦争なんだkら、そっちに意識を向けなきゃいけないのに。こんな足元ばかりの心配をしていてはいけない。そうだ、ここを守るんだろう?自分に言い聞かせて、俺は調理場に戻る。セナがなにか言いたげだったけれど、俺は無我夢中になるためにひたすら作業に取り掛かるために部屋に入る。まだまだ彼らは会話を繰り広げているのだが、俺はそれを傍目にカボチャをえぐったり、目を作ったりと目まぐるしい速度で作業を執り行う。後ろで、文哉ちゃんどうしちゃったんでしょう?だとか言うけれど、俺の気持ちを察せるなんてそんなことはさせるつもりはない。飼い主は、別の事に頭をかけていたらいいんだよ。がむしゃらにお菓子作りを終えて後片付けを進めていたら、それなりに大きな声が聞こえて俺は反射的にそっちを向いた。

「文哉ちゃん、捕獲!逃がさないで!」
「あ。うん?」

洗っていた鍋を置いて、一瞬どうやって捕獲するか止まってから、たぶんいつもの俺ならと判断して正面から抱きつく。自分に自信がなくなってきているのが重々理解している。

「どうした?文哉。」
「……何もないよ。」

いつか、ほんとに捨てられたとしても俺はずっとこの楽しかった日々を思い出にして生きていられる自信はある。これは一年前のレオとセナと友達だと思っていた時からだ。ぎゅっとレオの肩に顔をつけて、そっと目を閉じる。

「で、文哉の様子がおかしいけど?ほんとどうした?」
「…へいき、勝手に凹んで勝手に傷ついてるだけだから。」
「俺たちの文哉になにかあったのか?」
「この間『Trickstar』に殴りこんでからちょっと様子が可笑しいけど。」
「…なんでもないから、気にしないでよ。」
「いつになく、甘えたさんね。」

自分自身にそっと大丈夫大丈夫と言い聞かせながら、もしかするとこれが最後かもしれない。そう考えると胃がぎりぎりするけれど、この胃の痛みだって、時が過ぎれば大事な痛みになるかもしれない。俺を置いて、五人で舞台の上に立つ姿が一瞬見えてしまって、何も言えなくなる。

「大丈夫だから、もはや信用ないと思うけど、別に逃げないから。」
「駄目です!また行方不明になられても困りますので、保村先輩。離さないでください」
「レオが言えば離すけどね。それまではこうしてる。」

こら、文哉。せめて手を拭きな。なんて言われて洗い物最中だったのを思い出した。ナルくんがもう。なんて言いながら蛇口を閉める音だけが聴覚でわかった。

「『王さま』、どこをほっつき歩いてたわけ?今さら戻ってこられても、あんたの座る席はないんだけど?」
「…その時は俺が退くけどね。」
「あんたはちょっとややこしくなるから、黙って。」

黙らないよ。レオにはセナが、セナにはレオが必要だよ。そうやって『Knights』はやってきたんでしょ?どうして、必要だって自覚しないの?どうして、そういう事言うのさ?そう問いかけても、セナは返事をせず、レオが俺の背中を撫でた。

「そういうことを言うなよ、文哉が心配するからさ。リッツが体調不良で動きづらいぶん困ってるんじゃないかと思って手伝いに来てやったのに。」
「『王さま』凛月ちゃんが倒れた時一番近くにいたんだって?適切に迅速に対処して保健室に運んだりしたって聞いてるわよォ?」
「ん、まぁ。大事に至らなくて本当に良かった」

おれがあんまり活動に参加できないせいでリッツに負担をっ気手たのかなぁ。ってちょっと反省しちゃったよ。一番は文哉なんだろうけどさ。だから、まぁ今回は、なるべくがんばる。リッツのぶんぐらいは働こうと思うから、好きにこき使ってくれ。おれは何をすればいい、セナ?
…俺ってほんと単純だな、って思ってしまう。こうやって俺のことも考えてくれるのがうれしくて仕方ないのだから、本当に犬だと自覚する。

「何で俺に聞くの。あんたが『Knights』の親玉でしょ、一応。」
「書類はな。でも『Knights』は昔からお前のための『ユニット』なんだよ。」

セナが望んだから俺が入った。と解釈できる一言に、俺の心が悲鳴をあげそうだったのをかろうじて堪えて、あ!思い出した!忘れ物したからちょっと行ってくる!すーちゃん、レオをよろしく!着替えまでに帰るから!なんて努めて明るい声を出して、逃げるように飛び出した。これ以上いたら、俺のメンタルがもたない。そう思えるぐらいに俺は憔悴しきっていたと自覚した。見えないところに移動しただけなので、風邪に乗って微かに声が聞こえる。
役立たずは『Knights』には要らない。なんて言うのが聞こえて、俺はまた勝手に凹んでた。このあと、『Trickstar』と戦争だというのに、俺はなんだろう。この拭いきれない役立たず感。

「…おれ、どうしたらいいんだろうね。わかんないや。」

この状況は、昔の売れなくなったころに似ている。聞こえていない所で、何か言われているような感じがして、気持が悪い。いやだなぁ。なんて思ってたら、俺を追いかけてきたのか、ナルくんが出てきた。

「あら、用事は?」
「俺の勘違いだったから、休憩かねてここにいるの。」
「…ねえ、勘違いだったらごめんなさいね。文哉ちゃん、何か悩んでる?」
「悩み、ねぇ。悩みに近いけど、変に頭は抱えてるかな。哲学的な感じになってきたけどね。」

俺って何だろう。どこに必要とされてるのだろう。その二つが俺の頭をおいかけっこよろしくめぐっては、俺の思考もなにもかもをかき乱していく。

「…ねえ、ナルくん。俺って、必要?」
「『Knights』には必要よ。なにおバカなことをいってるのよ。もう。」
「ここしばらくそうやってずっと考えてるんだ。」

俺の価値を見いだせない。俺である理由が見れない。レオにはセナが、セナにはレオがいる。いつか、捨てられちゃうだなんて考えてる俺がちっこくて嫌になる。そういえばナルくんは呆れるように笑って俺の頭をくしゃくしゃにかき回して、部屋に戻るわよ。だとか背中を押してくれた。

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