噪音◆渦巻くホラーナイトハロウィンと俺-2

近くのベンチに座った二人は、そのまま遊木が延々と悩みを相談している。内容は重いが、俺の知らない情報がいろいろ飛び交ってて、聴きながら思考を回す。まぁ、本当にさっき聞いた通りに、王さまの耳はロバの耳だろうけれど、俺の耳はロバじゃないので、まぁ十二分に有効活用させてもらおう。

「ん?どした、ウッキ〜くん。そんなに暗い顔をしないで!大丈夫、まだ取り返しが付く段階だろうし!」
「ん、えっと月永センパイには、僕たちがあんまりうまく回ってないっていうか、残念な感じになってる理由がわかるんですか?」
「あくまで推測でしかないけど、こういうのは外から見たほうがよく解る。」

レオは色々並べてるが、最終的に着用してる役割と名前が一致してなくてるからこそ。変に気を使っている。とレオが言う。そうなのかもな。まぁ、いいけどどうでも。そうやって聞いてると、なんとなく想い浮かんだ共通点が出てきた。周りの支援。
あの時の『Knights』になかったもの、そして『Trickstar』が考えているだろうもの。多分、レオにとっての最大の理解者はセナだろうし、それさえいればいいとか思ってたんじゃないんだろうか。わかんないけれどさ。あれやこれやといろいろ思考を捻ってどうこうしていると、話がだいぶ進んだ様子だ。あんまりうまく聞こえなかったりするので前後の聞き取れたモノとで、推測しつつ展開を予想する。大人の顔色ばかりうかがってた俺だ、予想と展開は得意だ。

「その吹けば飛ぶような薄っぺらい名前に価値を見出して、誇りを抱いてるアホもいる。そのアホを守りたいってやつもいる。そしておれはそんな夢見がちなガキが抱いた小さな誇りを夢を守ってやりたいって思ってる。」

俺は壊れたポンコツだけど、だからこそ、それが最後の一仕事だ。そう聞こえて俺の心臓がどくりと脈打った。…レオが消える?また?そんなの嫌だ。一瞬息が乱れた。脳天を殴られたようだった。嫌だ。視界が乱れだすので、大きく息を吸って整える。頭に落ち着けと指令を出して思考をまともになるようにと叱咤する。そうだ…誰かの一番になれなくたっていい。俺は俺の幸せを掴むんだ。そうだろう、保村文哉。そんな最悪があってたまるか、そのために俺が守ってやるんだから。ここを。俺の勝手なエゴだけどさ。

「やっぱりおまえが『ゆうくん』か…ふぅん、カマをかけただけだったんだけど、正解だった。どうも聞いてたイメージと全然違うから本人かどうかわかんなくてさ。こんなことなら文哉にでも聞いておけばよかった。」

やば。と思って情報を得るためにすこし物陰から頭を出す。二人の姿がよく見えるが、レオが飛びかかる様な感じもない。むしろ『Knights』のリーダーとして謝罪してる。あいつ、なにするかわらない。とか言ってたから俺が心配してこうしてみてるんだけれど。それはそれでなら。安心だ。

「おれに比べりゃあいつは鋼鉄のように強いけど、それでも傷ついてないわけがなかったんだよな。傷だらけになって、でも壊れることもできずに意地だけでこの場に居残ってた。文哉もいなかったら『Knights』は解体してたかもしれないけれど。心は苦痛に耐えきれなくなって多少おかしくなって馬鹿をやらかしたわけだ。タイミング的に文哉もいなかったみたいだな。いたらそれも止めてただろうに。」

ごめんな『ゆうくん』!うちのセナが迷惑をかけて!あいつがお前を拉致監禁したのはおれみたいに文哉みたいに壊れてほしくなかったからなんだと思う!俺が周りの悪意に潰された。っつうか勝手に追い込められて自滅したのを間近から見てたからなぁ。俺を選んだっていう情報だけはセナも持ってたみたいなのに、早々に声掛けに行かなかったから俺たち二人とも同罪なんだけどさ。しばらく捕まんなかったんだよね。
聞いてくる声に、ぎくりと身を震わせた。いや、待て。冷静に考えよう。あまりショックだったからあんまり記憶はないんだけれど、あれがあったあと俺は基本的に人の気配からひたすら逃げてた記憶はある。最低限の点数のライブだけは死守したけれど、それ以外は基本一年間一人だし、事務所仕事で点数も稼いだし、テストも仕事入れすぎてたから基本別室で受けたりすることが多かった…。もしかして、俺は探されてたのか?…いや、そんなことないだろう。都合よく考えすぎた。緩やかに首を振って、思考から雑念を追い払う。

「でもさ、もう大丈夫!安心しろっ、二度とセナにそんな馬鹿な真似はやらせないから!おれは帰ってきた、傷ついて刃こぼれだからけになったアイツの欠落を埋めてやれるし、おれはあいつに恩返しをするよ。今後はそのために全力を尽くす。」

あいつもすぐに落ち着いて、二度とおかしな真似をしなくなる。どうだ、嬉しいだろ?よかったなぁ、これで一安心だ!これまで本当にごめんな、ご苦労さん!でも、もういいから。お前が、俺の代理をしなくても。……いつから、代役だったんだろう。俺の脳みその端っこに、疑問がわいた。レオの代理だといわんばかりの『ゆうくん』だなんて、いつからだったんだろう。馬鹿言うな。レオの代わりもセナの代わりもいないんだよ。馬鹿。

「代理…?」
「だって。おれ本人が帰ってきたんだもんな、代用品はもう必要ない!」

それって、セナがレオの代理で『ゆうくん』をもってきたからだろ。…俺の望む代理何ていないんだよ。ばか。

「あいつの愛も悪意も、全ての光も闇も、以前と同じようにおれが全部受け止める!そのためにおれは帰ってきた!だから『ゆうくん』はもういいよ?」
「もういいって…?」
「愛すべき生身の人間がそばにいるなら、ぬいぐるみはもう必要ない。これまで本当にありがとう『ゆうくん』、おれのセナの心が壊れる瀬戸際で食い止めてくれて。」

そこまで聞いて俺はそこから逃げ出した。そうだっただろう?昔に思っただろう。俺は誰の一番にもなれないんだよ。一番を夢見たって誰も俺を選んじゃくれないんだ。知ってただろう?俺はずっとテレビの向こうで見てた世界の人間だ。幻想が服着て息してるだけだよ。そうだ。一番にも二番にもなれない。切り取られた幻影なんだ。って俺に押し付けられてる気分がした。そうだ、そうなんだよな。人間って簡単にすぐに嘘も吐ける。俺がこうしたいからって望んで動いてただけで。それは確実に選ばれるわけじゃないんだよな。知ってたよ。…忘れてただけなんだ。そうなんだよな。俺って、選ばれない人間なんだよな。
ストレスかけちゃいけない。って言われたばかりなんだけど、酷く息がしにくいね。おかしいな。やっぱり望むこと自体が間違ってたのかも。なんて俺がそう答えを出すのは簡単な話だ。何度も経験してきた。そうだろう?俺は俺の仮面をつければいいんだよ。そうだ。ただ残り一年もない。レオが好きで、セナが好きな俺を演じればいいんだ。そうだろう?俺はそうやって生きてきたのだから。
そうじゃん、下心もちょっとあるって言ってたのにね、必要。って言う言葉でうれしくなって勝手に俺が舞い上がってただけなんだよなぁ。

「ふ〜ちゃんどうしたの?こんなところで突っ立って?」
「…へっ?…」

ふとかけられた声で我に返るとりっちゃんが俺の前でひらひらと手を振っていた。心なしか顔色が悪い気がする。そうだ、セナに保健室突っ込まれたって聞いた気がする。仕事の事考えてた。だとか適当に嘘ついて、俺は曖昧に笑っておいたら、りっちゃんはおれをじろりと上から下まで見てから、まぁ、いいけど。そう一言零して消えて行った。

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