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「登良くん、登良くん。イベントのお仕事あるんだけどどうかな?」
教室にやってきたあんずが登良に資料を取り出した。クラスにあんずが来たことによるにぎやかさも感じながら登良はそれを受け取り、その資料とあんずを見比べた。歌をメインにするイベントらしいタイトルが書かれていた。
「俺に、ですか……?」
「そう。いろんなところに相談したら、登良くんが適任だって。歌がきれいに伸びるって。」
「ありがとうございます。」
書類を受け取って、頭の中でいろいろと考えてみる。兄や朔間さんの宿題をこなして『Ra*bits』のレッスンと、このイベント。期日を見る限りおよそ2週間。何とか乗り越えられるかな、と考えていると創が登良の顔を覗き込んだ。
「具合、悪い?」
「……ううん、考え事。俺でいいのかな。って。」
二つ返事で出して、まさかと思うが維新ライブのように1年生がいないだとかというのは考えたくない。あの時は兄や大将がいたからよかったものの。今回はどうなるかはわからない。企画書を開かずにじっと見つめる。
「出ないのか?」
「ううん、気になるけど。俺が出て大丈夫かな……」
「登良の歌はうまいからなぁ。そこは問題ないと思っているけど。何が不安なんだ。」
不思議そうな顔をする友也に、登良は迷うことなく言い切って、あんずは一瞬目を丸くしてから、それは大丈夫だよ。今声をかけてる面子はね。と耳打ちを一つもらって登良の顔は笑顔に変わった。
「わかりました、出ます。」
「えぇ!?一瞬で返答をひっくり返すだなんて?それだけすごい人選なのか?」
「ううん。打診しているところに兄がいないって。」
「そこなのか?決断ポイント」
「うん。」
それとね。創くんの推薦もあったの。だから、二人一緒にどうかな?って思って声をかけに来たの。というあんずに対して友也と登良が驚きの声を上げた。困惑する二人をよそに創も了承の声を上げた。
「創……」
「一緒ですよ。登良くん。」
「うれしい!!」
感極まって友也に抱き着いてしまって、友也は俺じゃなくて創に言え!と言いながら無理に登良を外した。そんなに喜ぶことか?と友也が投げると維新ライブで周りがみんな年上だったことがかなり緊張したことを伝える。少なくとも、スバルと北斗。創と友也のあこがれの先輩たちと轡を並べることは緊張するものである。そう論を展開すると友也はあれはたしかにそうだよな。と納得し頷いた。話もひとまとまりしだしたのであんずは初回の顔合わせ等を口頭で連絡して次があるからと走りだしていく。足音が遠ざかる様子がまるで嵐のようだとも思いながら、出ていった先を見つめた。
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