2e





登良が加入したのは、一年生の中では一番最後だった。
どこかのユニットに混ざろうとしていたが、『三毛縞』という名字をだしただけで、お断りばかりが続いていた。自分の容姿や縁続きでたどっても、どうにもうまく回らない。とんでもなく勧誘されたが、性別を伝えて辛うじて逃げ出せたこともあった。情報がない、ましてや同じ中学から来る人もいない。過去に一度手伝ったライブのユニットには兄がいたことから入りたくない。友達、というものもない登良にとって、最初の第一歩を踏み出す前に転んで穴に落ちている。と言っても過言でないほどの、困り具合だった。よく言って控えめの性質の登良がいろいろと頭を抱えているところに、声をかけてくれたのは友也と創だった。
そこで知り合って、光と出会いユニットは始動した。学院中を東奔西走して校内アルバイトやレッスンに明け暮れてA1に出場する少し前に、友也が連れてきたなずなと知り合った。友也が手を引いて連れてきた。ネクタイの色だけ見て、自分と違うだけで年上と判断して光の後ろに隠れながら挨拶したのも最近の記憶だ。

「なんで、女の子がいるんら?」
「……確かに通路に連れ込まれたりいろいろ有りますが、男ですけど、そういう話をしてる暇は有りません。」

打ち合わせしようと登良が促せば、友也もそうだな。と2つ返事が返ってくるので、登良はなずな資料を渡す。受け取ってすぐに書類に目を通す。ライブの申請書類のようでメンバーそれぞれの名前と楽曲が書かれている。

「もうすぐライブも始まるので、打ち合わせをしましょう。楽曲を知っていてもスポットライトのタイミングや時間についての認識だけ確認します。」

四人で練習してたので五人分になるならば、なにが必要なのかは俺たちにはあまり解りません。必要そうなこと、ないと困るもの。についてはある程度俺が想像できるので、そこでなんとかやります。

「登良、緊張してるのはわかるから、必要なものに石や塩は要らないから」
「遭難しない?」
「しない。」

これとこれは要らないよな。なんて友也が言いながら必要なものを消していく。これはいるな。と取捨選択して、楽曲のフォーメーションの説明に入る。なずなは周りをちらりと盗み見ると、どこかたどたどしく見える姿は、過去自分たちが経験したことない姿だ。

「そろそろ時間ですよ。」
「ねぇ。ライトって最初からついてるかな?」
「最初は暗転スタートだって言ってただろ。登良。」
「だよねぇ。緊張してきた。」

やだやだと首を振って胃を抑えていると、元気そうな男の子がなだめるようにしている。そうこうしていると、ライブの時間がやってきた。衣装に着替えて舞台袖に集合しなおした。なずなの衣装もサイズがちょうどよさそうで安心した。もうすぐ照明が落ちるんだろうなぁ。と思っていると、光がにぎやかにしてるので、静かにしようね。と登良は声をかけていると、友也の声に反応して光が元気よく笑う。

「ん?どうした友ちゃん、オレは今日も元気だぜっ」
「何で元気なんだよ。ドツボにはまっているっていうのに、おまえはお気楽でいいよな〜、お前が『ユニット』専用衣装を買っちゃったせいで、金欠なんだぞ?反省しろよ、こいつめ〜?今、こんなもん必要ないだろ?」

友也が苦言をともすけれど、登良はそうじゃないんじゃない?と投げかける。だって俺はうれしいもん。共通衣装じゃなくてみんなで一緒の唯一の衣装。友也はうれしくないの?そう問いかけると、友也は俺だって嬉しいけど、なんていうけれどそれとこれは別だと主張する。それでも相場に比べるとお安く作ってもらったんだ!だと胸を張る。

「後でいるか、今いるかの問題だから。いいんじゃない?最終的にトレードマークみたいになったらいいよね。」
「衣装そのものは最高の出来だけどさうちって男性アイドル育成に特化してるから。かわいい感じの衣装ってあんまり種類ないし安値で作ってもらえて衣装があっても、活動資金がなかったらライブにも出演できないんだぞ?」
「まぁ、それはそうだよね。」
「最後に残ったお金で、どうにか今回のドリフェス、この『A1』の出演料は払えたけど。ここで活動していく上での基礎を作っとかないと、マジで、お先真っ暗なんだからな?」

友也がそういうけれど、その通りなんだよな。と登良はうなづいた。登良ちゃん、どっちの味方なの!?と言われたので、どっちだろう?と首を傾げてから、とりあえず登良はなずなのほうを向いた。

「ごめんなさい、内輪だけでにぎやかになっちゃってて。」
「仁兎先輩でしたっけ?すみません。一時的な助っ人でも、全然かまいませんので!助けてくださいっ!ほんとに切羽詰まってるんです!」
「あの、助っ人料金だとかは、支払います。ですから、ここだけでも一緒に出演してもらっていいですか?」

ここである程度成績を出さないと俺たちは、ユニット解散になるので。成績の点数も取れなければ、俺たちは退学になるしかないんです。そう言いながら、困った風に登良は笑い。頬をかいた。どことなく照れが入っているようにもうかがえる。そうなんだよなぁ。と友也がこぼしていると、創はなずなにきつかったりサイズに問題があるならば、詰めたりするので言ってほしい。と申し出ているが、そうじゃないよ。と登良が創にこぼす。

「登良も、まじめに説得してくれよ。」

先輩だけが最後の希望なんだ!変態仮面の紹介っていうのが不安すぎるけど、藁にも縋るしかない状況なんだからなっ?……いやでも取りたくない方法だけれど、回避する方法はあるよ。あれはやめろ。お前のメンタルが変になるからやめとけ。

「でも友也くん、登良くん。この人、女の人でしょう?あのえっと、助っ人していただくにしても、あとで女の人だってばれたら問題になっちゃうんじゃ?」
「いや、二人とも。この先輩。男の人だよ。」

友也も創も驚くが、だって冷静になって考えてよ。学院の制服着てたよ?そういうことだよね?ですよね?そうやって投げてみるが、創と友也はアイドル科の生徒じゃないと判断を下しているが、登良はそうじゃないと言っていると、友也も創も光もなずなの処遇に対して会話をして、最終的になずなに販売の手伝いをお願いしようと声をかけようとしたら、なずなは震えて声を少し出す。

「……れ……」
「どうしました?先輩?」
「おれは、男だ!」
「ですよね、そうだと思ってました。」
「登良!」
「お前以外は黙って聞いてれば……!大の男をちゅかまえて、女女女って!みればわかるりゃろ、おれは男ら!」

怒るなずなと胸を張る登良。そして困惑する友也と創。登良はやっぱりそうですよね。と頷いている。その隣にいるなずなは怒天髪を衝くように散らしている。光が、なんで?と首をかしげている。

「な、何れそんなにいがいそうなんら!どこからどう見ても、男らろっ!」
「ですよね。よくわかります。」
「なんでお前はそっちの味方なんだよ。登良。」
「え?だって、この容姿で制服着ててもいまだに路地裏にまで連れていかれるんだよ?」
「それはあとで、話をしよう。」

藪蛇だった。げっと登良の表情が無になった。衣装に着替えるまで男子の制服だったのに、となずなが肩を落とすので、登良はなずなの肩をたたいて、慰める中、創と友也が昔学院に来た時に男装した人を見かけて。二人であれやこれやと話をしているので、その話をする場合じゃない。と苦言を呈したら、光がなずなの胸に手を当てた。ぺたり。という効果音がぴったりなほどで、光は男の人っぽい?と首をかしげている。創も気になってか手を伸ばして驚いている。友也も失礼します。といいつつ手を伸ばすので、登良は止めるように手を伸ばしたが間に合わずに、なずなの胸に手を置いている。すみません、うちのが。と登良は頭を下げた。

「いいけど、おれってそんなに女の子っぽい?たしかに、入学式の時に男から口説かれたけど。」
「あっ、ぼくも最近よく男の人にナンパされます。昔はそんなことなかったんですけど、何か急に。…髪のばしてるせいですかね?」
「それはあるかも……切ろうかな。」
「登良はいいけど、おまえはすぐ丸坊主にするんだもん、のばしとけって、神長いほうが便利だろ。創も登良も見慣れてるから、あんまり『女の子っぽい』って思わないんだけど。」
「まぁ、いい。この話は終わりな。馬鹿話している場合じゃないんだろ?」

なずなに言われて、全員がはっとした。そうだった、ライブの直前だった。そう思いだして、登良の顔色は変わる。どうしよう、と思考がくるくる回る。もうすぐ暗転してからの入場だ。その現実を思い出して胃がしくしくしてきた。そっと胃を撫でつつこれから来るであろうライブについて思考を飛ばしていると、よかった!と光が笑って登良の肩をたたく。思考を飛ばしていたからか、状況がわからずに首をかしげていたが聞こえてくる単語で、あらかたのことを察したけれど、わからないことは一つ。先輩が、ほんの一瞬だけだったけれども泣きそうな顔をしていた気がした。だけれども、突っ込むのも野暮な気がして登良は追及することをやめた。ちょうどタイミングよくスタッフが出番だという。
照明が緩やかとはいいがたく、けれども急ぐように照明が落ちた。戸惑っていると、なずなが登良の手を取って走りだした。真っ暗な中なのに、どこか光を放っているようにも見えて神秘さがうかがえた。はて、そうだっただろうか。自分の記憶と多少違って、そこで目が覚めた。
夢だったか、と寝ぼけ眼で目をこすっていると近くにいたなずなが声をかけた。起きちゃったか?ごめんね。寝てた。せっかく話してくれてたのに。ぼんやりと、思考を巡らせたが話していた途中から記憶があまりない。そう告げると、きにしなくていいよ。と言ってくれるが、それはそれで申し訳なくて、登良は首を横に振る。

「いいよ、さっきタクシーを呼んでもらってるから。それまで寝てな。」
「ううん、起きてる。に〜ちゃんが四人も運べないの知ってるもん。手伝うよ。」
「登良ちんだと、ひきずっちゃいそうだけどな。」
「…に〜ちゃん、なにかあった?嬉しそう。」

そう指摘すると、ほころんで笑い何でもないよ。と登良の頭を撫でた。



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