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登良は、創友也光と共に、活動費を貯めるために校内アルバイトの洗濯に後者の屋上で干すことに精を出してるとポケットで携帯が震えた。登良は一言断ってみんなから離れて電話を確認すると兄だった。一瞬顔を歪めたのだが、でない訳にもいかない。ので、諦めて電話に出ると俺だぞお!と先手を打たれて、即刻俺じゃわからないので切ります。そう伝えると、兄だと主張するので登良も相手にするのが面倒で邪険にしつつ本題を促す。電気代がもったいない。そう伝えれば、かけてるのはおれだけどな!なんて揚げ足を取るので余計に通話を切りたくなった。

「で、何ですか?まだつなげるようだったら切ります。」
「本題はなぁ登良くん、手伝ってくれないかあ?ライブのお仕事だ!」
「……に〜ちゃんに許可貰ったらね。」
「これがもうとってあるんだなあ!登良くん、手伝ってくれるということでいいな!」

じゃあなぜ聞いたんだ!そう主張する間もなく電話が切られた。何時にどこ。という指定までついて。賑やかな受話器からは、機械的な音がして終了が告げられた。返事も何もなく呆れしかない。ため息をついて、スマホを耳元から外すと、光がぴょんと寄ってきた。

「眉間に皺が寄ってる〜!登良ちゃん、なにかあったんだぜ?」
「…呼び出し食らったから行ってくる。仕事だって…」
「えぇ。!?指名ですか!」
「…兄から…」

どうしよう、逃げたい。と落ち込んでると友也がほら、俺たちが残りをやっとくから行って来いよ。指名だろ?俺たちにはあんまりないことなんだから。落ち込むなよ。そう友也が言うけれども、あの兄だからどう振り回されるかわからない。なに、どんな無理難題が降りかけられるのかと思うと、胃が痛く鳴ってきた。初めてのライブのような緊張するようなものになるのだろうか。考えたくもない。

「ほら終わったらみんなで一回ゆっくりしような」
「ごめん。逝ってくる」
「登良、字が違う!!」

友也の突込みさえもほったらかしにして屋上から出る。同時に、なずなから携帯に連絡が入ってくる。バタバタしてるときに斑が突撃してまくし立てるようにして許可をとったらしい。あの兄は…。頭が痛い。なずなに申し訳なさを感じて謝罪のメールを入れておいて、登良は斑の指定通り15分後にガーデンテラスで。そう言われたとおりに所定の場所に歩を進める。兄の人選だ。きっとろくな集め方してない。そう確信めいたものをもっている。おそらく、あの人格性格というのは、やたら難題側に突き進もうとする性質を持っている。そして人を付き合わせようとする。そう登良は知っている。それだけでも頭痛の種なのだが、そのとばっちりを喰らうのも本人なのだが、合わせて登良にやってくるから問題なのだ。考えるだけでも胃が痛い。せめて知っている顔ならばいいのだけれど、そう願わずにもいられない。あれやこれやと考えてしまうけれども、願わずにはいられなかった。痛む胃を抑えながら廊下を歩いていると、菓子を持った紅朗と颯馬が歩いてきた。

「登良、お前も三毛縞にか?」
「…えぇ……なんか呼び出されました。」
「ちょうどいいや、俺たちも今から行くところなんだ。一緒に行くか?」

断る理由もないので、登良ははい。と一つ返事して、後ろに神崎がいることに気が付いた。【藤祭】関連の騒動で顔見知りではあるが、どうやって言葉を切り出すかと迷っていたら、神崎側が弟殿!と嬉しそうに声をかけた。大きな声だったので、小さく飛び上がった。名前をというか顔も覚えられていることが驚きであった。

「元気そうでなにより!」
「神崎、登良を驚かせるんじゃねえよ」
「…だ。だいじょうぶです…ちょっとビックリしただけで…」
「失礼仕った!この侘びは腹を切って」
「おい、こんな些細なことで切るんじゃねえ!」

紅朗の怒声に驚いて、またひぃ!なんて情けない声が口から出た。思ったよりも大きく出たらしく、紅朗がすまねぇ。と侘びを入れた。心臓が口から飛び出そうな登良は二人に大丈夫だと辛うじて伝えることに成功して、三人でガーデンテラスへと歩き出した。何を話の種にすればいいんだろう?なんて思考を回す暇もなく目的地についてしまった。机には見知った顔がいて登良の背筋が無意識に伸びた。

「ささ、皆の衆!鬼龍殿と一緒に『おやつ』をこしらえてきたので存分に召し上がるが良い。弟殿も。」
「あ…えっと…」
「登良も俺の横にでも座ってな。話しながらつまめるもんを。と思ったら凝り過ぎちまった。待たせて悪かったな。おまえら。」

促された登良は軽く挨拶をしてから紅朗の隣に腰を下ろす。正面にあたるところの北斗が手を合わせて軽い挨拶をしてから手にしだして、スバルは嬉しそうにいただきますをして手をつけ出す。斑は登良が来たことを喜び、紅朗をほめた。

「良妻賢母!やっぱり手先が器用だよなあ、紅朗さん?お菓子作りもお手の物かあ」
「意外と古くせぇ価値観で生きてんだな」

父親が忙しいから、自分で作るからと言い切って菓子を食えなんて周りを促すので登良は一枚かじる。大きい一枚だけれども、ほろりと口の中で溶けていくのでおいしい!と目を輝かせた。

「大変見事なお手並みである!鬼龍殿には感心させられてばかりであるな。あらゆる点で未だ我の先をいかれておる。」
「すぐ追い抜かれるさ。真っ当に、こつこつ努力してるやつが最終的には一番強ぇんだ。」

颯馬から茶を受け取って、スバルの横に腰を落ち着かせた。あれやこれやと話をしながら、紅朗が話を進めていく。

「ぜんぶ俺のせいみたいに言われるのは心外だなあ!ははは」
「いや、そうでしょうに。」
「笑ってんじゃねぇよ。反省しろド阿保。弟や下級生に迷惑かけてんじゃねぇぞ。上がビシッとしてねぇとしたが不安になるだろうがよ。」

瞬き一つの間位に、紅朗が斑の関節技を決める。一瞬のことだったからまわりは驚いたが登良には初動が見えたので、と冷静に茶をすすり歌詞に舌鼓を打つ。御茶がおいしいと思いながらほうと息をついていると話を戻すぞ。なんて、方向性を戻そうとしたらスバルが手を上げて、紅朗と斑が仲がいいのかと問いかけた。否定をしてよくは知らん。なんて切り出した。

「昨年度、何度か激突したりはしたけどよ。喧嘩をすればお友達何て、マンガみたいに簡単にはいかねぇさ。」

知らないから紅朗さんと神輿を担ぎたいと嬉しそうに斑が言うのだが、その『神輿を担ぐ』というのが解らずに登良は首を傾げる。登良を呼び出して、仕事と言っていたのでライブの仕事なんだろうと思考をするが、もしかして斑は周りに情報を渡してないのでは?と答えを位置づける。カラカラ笑っていると、また関節を決めてるので、兄と大将は相性がよろしくないと判断した。なんだかんだと言いつつ、近くの『Trickstar』にも喧嘩を売ってるように聞こえて、心胆が冷えた。じとりと兄を見たが兄はからりと笑っている。空気の流れが重たくなったのはすぐに理解が出来た。この場所をどうするのか北斗スバルと斑とを交互に視線を回したが会話は澱みなく進んでいるので、色々と視線を巡らせてるがどこにも重ならない。あとで頭下げよう。登良はひっそりそうしようと思っていたら、紅朗が割って入った。

「明星。氷鷹。転校生の嬢ちゃんも。怖い顔をするんじゃねぇよ。三毛縞は挑発してるだけだ。さすがは朔間の肝煎りだな。煽るのだけは一丁前じゃねぇか。まず相手を悪し様にいって、けちょんけちょんい否定して、怒らせたり反発させたりして、思考を誘導する。」



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