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あ。と思った時には登良の脳も体も停止した。
キャッチボールといいながらもその本質はマラソンであった。体育の授業が終わって道具の片付けをしている時に、靴紐が歩どけていたことに気がついて登良は体育道具を片付ける倉庫の隅に寄って靴紐を結ぼうと思ったときにがらがら音をたてて扉が閉まって電気が消えた。

「友也!創!」

声は扉に壁に反射して自分の耳が痛くなった。入り口である方に器具や壁を伝いながら歩けど、明かりも何もない場所ではっきり見えない。半周ほどして、重たい鉄のようなのが登良の手に触れた。電気を探してみたが!スイッチは外側からつけるしかないことを思い出したので、ガンガンと拳でドアを叩きながら同じクラスの面々を呼び上げる。それでも外の喧騒は聞こえない。
脳裏をあの夜が掠めていった。一つ通ってしまえば思考は根底から根こそぎ浚って恐怖に塗り替えていく。誰もいない闇が足元から忍び寄り平常心を食らっていく。
ねぇ!お願いだから!!誰か返事して!!ドアを叩いても返事はない。叫びすぎて喉もいたくなってきたが、それでも登良はドアを叩く。
明かりのない闇は登良の願いには答えてくれず、叩いても叩いても虚しくなるばかりだ。そして、叫び疲れた登良はひどく落胆してその場に座り込む。体育をして汗をかいたが、その汗で自分の体が冷えていくのがわかった。どこになにがあるかもはっきりわからないのに動くのは怖い。暗くて反応のない今が怖い。自分の腕をこすりながらも、登良は小さく息を吐き出した。

「…もしかしたら、死んじゃうかも…」

もしも誰も探しに来なかったら。この声が枯れて誰も気付かれずに、肉体は腐敗して虫がたかるころには誰かにB付いてもらえるだろうか。…いやいや、考えるなと思考してもループは悪い方向に向くのが登良だ。友也に貸したCDが。創とお茶の約束をしたのに、光とおしえあいっこもしてないし。に〜ちゃんにも迷惑かけっぱなしだったな。きっと心配性の妹は身を案じてはくれるだろうか。脳裏に一人一人と思い浮かべていたら、涙が止まらなくなって、嗚咽も止まらなくなってきた。体育倉庫にすきま風が吹いて、登良の身を冷やしていく。寒くて震え泣いて息が苦しくなり登良の意識はゆっくり遠くなっていった。消え行く意識の中で、無意識にぽつりと兄の名を呼んだ。

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今日の3年B組の最後の授業はマラソンであった。吹雪くような風に寒いと言いながらなずな紅朗の二人は、コースの作成に必要なコーンを取るために、体育倉庫の鍵を受け取り体育倉庫へと向かう。三奇人を擁するクラスはひどく出席人数が少ないので、出席している面々は固まって動くことは多く、授業の準備はなずな紅朗それかろつむぎで行うことが多い。
なずなは歩きながら、先ほど見たメッセージの内容を思い出した。

「さっき友也ちんから連絡が着たんだけど。登良ちんが帰ってこないって言ってたんだけど。知らないよなぁ…」
「登良がか?」
「うん。体育が終わってから教室に帰って来てないみたいで。」
「どっかで悩んで帰れないだけだといいんだけどな。」

携帯も着替えとおいてあったみたいだから、ほんとに行方がわかんなくて。ちょっと気になるよな。きちんと授業を受けるような奴だとは思ってたんだが…。
二人でサボるような奴じゃないと話していると体育倉庫はあっという間だった。外からパチリと電気のスイッチを入れて中にはいれば、先頭で入ったなずながなにかに足を取られて転んだ。

「むぎゃあ!」
「おい、仁兎大丈夫か?」
「いててて」

誰がこんなところに箒なんて。そうぼやきつつ転んだ原因を見れば白い肌と大きめのバッシュが見えて、なずなは人!?なんて大きな声で驚いた。

「登良。」
「え?あ、登良ちん?」

呼び掛けても反応は薄く起きる気配もなく、顔色がよくない。保健室に連れていくぞ。
紅朗が登良を抱え上げなずなに三毛縞に連絡を入れろ。と声を張り上げて紅朗は走り出した。
人気の多い廊下を走り抜ける。規則にうるさい人間に見つかることなく保健室のドアを叩けば、保険医はだらっとしていた。



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