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年が開けてしばらく。吹く風が身を切るような冷たさを持つ。そんな風をうけて、春は遠いかな…なんて登良はぼんやり考えながら歩いた。
控え室からステージ脇まで行くと薄暗い中で様々な人の気配がしていて、登良は一瞬足を止めた。すぐ後ろを歩いていた友也が登良の背中にぶつかった。
「どうしたんだ?」
「ごめん、考え事。」
「もうすぐライブなんだから、しっかりしろよ。」
眉尻を下げて、登良は謝るように返事を返した。何度もライブを行ったが、始まる前の緊張感と、この独特の薄暗さが苦手だった。うすらと見える輪郭が見知った仲間であるのを知っているのに、幼い頃に感じた恐怖が足元をさらっていく気がするのだ。どことなく居心地の悪さはあれど、辛うじて後ろにいる気配や物音で一人じゃないと認知する。
「登良?俺たち今回は下手側からだろ?」
「…そうだったね。ごめん。」
もしも、今この瞬間に照明がおちてしまったら。そう考えると胃が痛くなってきた。もうすぐでライブが始まるのに何を考えてるのだろうかと。自分自身に呆れながらも登良を追い抜いていく仲間の背中を追いかけるように歩くとなずなに声をかけられた。緊張してるのか?の問に何度も並べた嘘を並べる。なずなは練習と一緒だよと笑って明るくなればいつもと変わらず練習と同じパフォーマンスを行えるもんな!。と元気つけるように明るい声で言う。それを聞いて頷きそれまでは我慢だと自分に言い聞かせる。
『Ra*bits』の前のユニットはラストのサビに入っていて、もうすぐだからと震える手に叱咤する。自分の手を揉みながら緊張を恐怖をほぐすようにしていると光が顔を覗きこむ。
「登良ちゃん。緊張してるのか?」
「そうだよ。」
「登良ちゃんらしいんだぜ!ぎゅう!!」
「光、衣装皺になる。離れて」
「元気出た?」
心配そうな目はまっすく登良を捉えた。まっすぐすぎる光はどことなく眩しく見えて、登良はゆっくりと僅か横に動かしてから光に礼を伝えれば頑張ろう!とお互いに言う。
「前のユニットが終わったみたいだぜ!登良ちゃん行こう!」
「うん。」
光に手を引かれるように、ステージの中央に立つ。観客席から泡う揺れるサイリウムに安堵覚えて息を吐き出せば、音が鳴りだす。よく聞きなれた音たちは相も変わらず『Ra*bits』に似合う歌で。サイリウムという光があったからか、おちついて動けていた。瞬く間に今回の演目が終わってしまって残念な気持ちがすこしあったけれども、それでも一番最初のライブと比べると人がいてサイリウムを振ってくれるのが嬉しかった。
「ありがとう!大好き!」
マイクに乗ってきいてくれるひとがいる。それだけでよい。そう登良は思いながらスポットライトの熱を受けた。
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