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速く来なよ。とウキウキした声を上げながら桃李が館の中に消えていく。宙が嬉しそうに声を上げて桃李の横に並ぶのを見て登良はくすくす笑ってから、宙の後を追おう?とゆっくり並んで歩く。桃李が早く!なんて急かすので、わかったでござる。と忍が返事をする。
宙の配線を手伝って、画面に懐かしい映像たちが流れ出す。独特のビットで刻まれたそれらを見ながら、宙がコントローラーを配る。登良ちゃんもどーぞ!と渡された薄いコントローラーで昔のだと判断するが。

「忍、何ゲーム?」
「登良くん、知らないでござるか?」

このボタンで、と順番に説明を聞いていると桃李がキャラクターを選ぶのに迷っている。登良は何にしたの?と問われたので、オーソドックスなタイプだよ。と伝えると、桃李はコントローラーを操作する。

「えっ、なんでみんなあっさり操作できてるの!?ま、待ってねすぐ選んじゃうから!」
「ゆっくり選べばいいとおもうよ。」
「焦らなくても大丈夫な〜、姫ちゃんが操作したいキャラクターと乗り物を教えてください!宙が手取り足取り教えてあげるな〜」

じゃあこの子を。と桃李が言って宙が選択していく。兄から、朔間さんから聞いていた去年の事象と、現状を大きく変わっていって、多分おそらく一年前の姿を知ってる人がいたら、『流星隊』『fine』と強力なユニットの子らが同じ場所で昔のレースゲームを始めているのだから。

「登良ちゃん、始まってるのな〜?」
「あぁ、うん。」

思考していていつのまにかゲームが始まっていたのに気が付いて、ボタンを押す。キャラクターが動き出して、忍たちが使用するキャラクターの背中を捕らえるようにカートを走らせる。
翠も忍もむむむ。とうなりながら、キャラクターを操作している様子で、登良は小さく笑ってから、画面を見つめる。走り出したのを確認してから、思う、どうやって曲がるの?ぽつりとつぶやいたことに対して、忍がこのキーで。と言葉を残すので、登良はそれに聞いて言われたとおりにボタンを押すとキャラクターがその通りにハンドルを切る。

「もしかして、登良くんはじめて?」
「初めてだけど、車は兄と一緒に乗り回したりしたから。」

隣の翠が、え?と音をこぼしたのを聴かないことにした。兄に振り回されて国外のアトラクションでゴーカート的な勢いで車に乗せられたのは、しっかり記憶に残っている。あれは私有地だから乗れたのであって、あれを経験とするなら経験なのだろう。過去の経験がかなりの人生の思考に幅を持たしてくれるのは知っているが、いささか兄の行動が……。

「登良くんのキャラクターが池に落ちたでござるよ!!」
「あっ!」

画面から水没音が聞こえる。すぐにキャラクターが移動して道路に落とされた。桃李がだっさ〜。なんて笑うから、登良はにっこり笑って桃李には勝つよ?と勝利宣言をする。半周以上差が開いてるのに何言ってるのさ?と強気に笑うが、登良は有言実行する人間だったと忍は思い出した。そんな思考をしてる間に、忍のキャラクターが登良のキャラクターが放ったアイテムが命中して空高くに飛ぶ。

「拙者のキャラクターが!!」
「登良くん、教えてないのにアイテム使ってる……?」
「登良ちゃんが速くなったな〜。」
「もしかして、春川くんと一騎打ちになるんじゃない?登良くん」

3分後に翠の予想通り、忍翠桃李を追い抜いて、宙と登良が一騎打ちの形まで持ち込み、コンマの差で宙が勝利するのであった。桃李が悔しがりもう一回が始まるのである。

「もう一回やろうよ」
「俺は、目が疲れて来たし、もうやめていいかな……」
「駄目駄目!勝ち逃げなんて許さないんだからね!……そういえば、春川は?」

桃李に言われて、さっきまでいた宙の存在が居ないことに気が付く。翠が、さっき窓が。と言うので、窓が開いてるのが見えた。拙者たちもゲームは中断して、春川くんを迎えに行くでござるよ。

「…片づけておく?伏見先輩もいつ帰ってくるかわからないし…」
「大丈夫!登良も行こう!」

ぐっと手を掴まれて、引きずられるように桃李に連れられて歩く。登良は車運転したことあるの?と問われて、旅行先でね。と適当に濁した。春川も仕方ないよね、まったくもう!と改めてプリプリ怒る桃李に登良は眉尻を下げて笑うだけにしておく。
四人で庭を歩き、先ほどお茶会をした場所まで出てくると、宙の姿を確認出来ずにいた。「お〜い、春川!」と声をかけても見つkらなく、翠も部屋に戻ったのでは?と周りを見回している。

「あっ、木の上にいるのは春川くんでござらんか?」

忍が一つの木の先を指差す。確かにそこに宙がいて、忍があわてて声をかけた。

「HaHa〜、危なくはないな〜。姫ちゃんの家の気はきちんとお手入れされてて上りやすいですし?」
「宙、降りる。」
「いやいや、落っこちたら大変でござるよ!?もっと安全な遊びをしないと、伏見殿が帰ってきたら叱られちゃうでござる!」
「ん〜、遊んでるわけじゃないんだけどな〜?」

宙。思った以上に低い声が出たらしく、翠がびくりとはねたのを視界の隅で確認できた。登良はそれを気にすることなく、じっと宙を見た。登良は宙が木から落ちるとは思わないが、最悪の場合打ち所が悪かったりしたら、監督責任は桃李に行くだろう。落ちて怪我をしたら、宙の所属するユニットの先輩たちだって悲しむだろう。反らすこともなく、じろりと宙を見ていると、宙はぴょんと跳ねるように降りて登良の前で頭を下げた。

「登良ちゃん、ごめんなさい、心配の色が見えます。」
「宙に怪我がないならいいんだけれど、危ないよ。忍にも翠にもごめんなさい。」
「はぁい」

しょんぼり、という表現がしっくりくるほど宙が肩を落とす。ごめんなさい、と頭を下げる宙に、忍も翠も、怪我がなくてよかった。そんなやりとりをして、宙がふと桃李に質問を投げた。

「姫ちゃん姫ちゃん、ホースってどこにあります?」
「え?ホースならそこにあるけど…?水やりしたいの?庭師が管理してるから、勝手に水やりをすると怒られるよ。」

庭師とかいるんだね。さすがだね。そうだね。
翠と忍がそっと話をしているし、桃李はホースの場所を案内すると、宙はホースを蛇口につなぎだした。ホースは二つ。

「HiHi〜。宙の目的は水やりではないので大丈夫です!登良ちゃん。手伝ってほしいのな〜」
「……うん?」

要領を得ないまま差し出されたホースを手にしてしまった。宙はえへへ。と笑って、ホースの先についた水撒き用の機器を握る。まっすぐ棒状の水が噴出されたのを調整して、シャワーのような如雨露のような形状にして、水を空中に散らした。

「わわっ!勢いよく水を出してどうしたでござるか!?」
「今日はとっても好いお天気ですし、もっと出せば絶対に見られます!登良ちゃんも速く速く!」
「…えっと…こう?」

ならって、ホースの先を握ると水が出てきて霧のように空中に向ける。どこかなら、綺麗に見えるはずです!と言いながら、宙もホースを左右に振る。何の話だろうか?と思うが、こうしてみえるものに心当たりは一つ浮かんだ。翠たちが怪訝な顔をしている。

「ほら、よく見ると虹ができてるでしょ?春川と三毛縞はホースで虹を作って、二階にいるボクの妹に見せてくれてるんだよ。」

誰か顔を出してる?と翠の視線の先をたどると、館の窓から桃李ににた子が顔を出しているのが見えた。ひらひら手を振ってみると、返事のように手が振られた。ホースで虹をみつけたので、綺麗に見えるように固定する。

「よかったのな!登良ちゃん、すこぉしだけだけど寂しそうな『色』が薄れた気がするな〜。宙と登良ちゃんの魔法がちゃんと届いたみたいで嬉しいです。」
「そうだ!ちょっと待ってて!」

桃李が何かを思い出したみたいで、館の中に走って行った。




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