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数日前に、創経由で桃李の家に行くことになった。宙も来るということなので誰とでもそれなりに付き合いのできる登良に。と言われて、登良の出した返事は了承した。
ここしばらく、後継者問題でばたばたしてたので、こうしてむりやり開けるのも久しぶりだったので、自然と気持ちが浮ついてきた。御菓子も買ったし楽しみにしながらその日を待った。メンバーは?と聞くと創からはぐらかされたので、多い目に購入してはいるが…。足りなかったらどうしようと思考していると遊びに行く休日になった。
前もって買ったお菓子を持ってバスに乗り込むと翠と忍が乗っていた。乗車する際の札をとってから、バスの奥を陣取っている二人が声をかける。

「登良くん、おはようでござる。学園外で見かけるのはめずらしいでござるな。」
「忍、翠、こんにちは。今日は行くところがあるんだ。翠ご機嫌?」
「そうでござるよ〜。先ほどからすっごいご機嫌でござるよ〜。拙者は緊張で膝がガクブルしているでござるよ。」
「姫宮くんちに行くの。初めてってわけでもないのに。 」

そう零した翠に登良は二人も?なんて投げた。創からメンバーについては聞いてないのだが、不思議そうに首を傾げると彼らはどういう経緯で来たのかと説明してくれた。伏見から誘われたという答えに、感嘆を零す。

「クリスマスの時にパーティ参加したよね。」と翠が忍に投げるので、登良は二人のやり取りを眺める。皆が行くからついでに。という体であるという忍は、友だちの家に呼ばれるなんてめったにない。と照れて視線を下げるので、登良はみんなで楽しもうね。と笑いかけるとつられて忍も笑った。

「楽しみだなぁ、また伏見画伯の天才的なイラストが見られるなんて。」
「……さっきからこの様子でござる」
「おつかれ、忍。」
「何やらスケッチブックまで持ち込んで、目的がよく解らんでござるけど。今日の翠くんは本当に楽しそうでござるな」

くすくす。と忍と登良とで笑っていると、FuFu〜と楽しげな声が聞こえて、視線を向けると黄色い髪の子がいて窓の方を見て鼻歌を歌って居た。おや?と首を傾げていると、くるりと振り返ってぱっちり視線があった。

「あれっ?登良ちゃんたちがいるのな〜?こんにちは!知り合いと会ったら挨拶します!」
「こんにちは、宙。」
「おはようでござる、春川くん。しかし、学院の外で会うのは珍しいでござるな〜。どこかにお出かけでござるか?」

はい、宙は姫ちゃんの家に遊びに行きます!元気よく頷いていく表情に嬉しさがにじんでいる。宙を自分の隣に座らせるために奥に詰めて座席を叩いて促すと、宙は礼を言ってから登良の横に腰を掛けた。

「はい!宙は姫ちゃんの家に遊びに行きます!」
「えっ、春川くんも姫宮くんの家にいくのでござるか?奇遇でござる〜ということは伏見殿に誘われたのでござるな。」
「忍ちゃんたちも行くんです?HaHa〜、みんな一緒でうれしいな〜」

あ、俺も含まれた。と思うと同時に、翠がもしかして登良も?と問いかけるので、登良はコクリと首を縦に振ってニコリと笑う。このメンバーなら創もいるし気心の知れた面々で、今日は落ち着いていけそうだと思いながら、最悪の想定を辞めた。

「ちょっとしたパーティでござるな。実際伏見殿は『ホームパーティ』と言っていたでござるし。」
「…え?…」

それは初耳だ。ふと視線を上げるとどうしたの?と宙に問われて、俺は創から誘われてきた。と伝えれば、じゃあメンバーはこれぐらいじゃないのかな?と翠が言うから考えてみる。翠、忍、宙、創、登良。五人。一日で遊ぶとするならば、これぐらいが妥当な人数なのだろう。多すぎても少なすぎてもやりにくいのだろうか、とぼんやり思う。

「ともあれ、行き先は同じでござる。春川くんも登良くんもも拙者たちと一緒にどうでござるか?」
「いいの?邪魔じゃない?」
「そんなこと全くないでござるよ〜、春川くんはどうでござるか?」
「HiHi〜ありがとう!お誘いされたらお礼をいいます。ひとりよりふたり、ふたりより三人、旅はたくさんいたほうが楽しいです!」
「…いつから、旅だったのか。」

遊びに行くはずがすり替わってることに頭を抱えたが、翠に考えすぎないほうがいいよ。と慰められて、登良は弱弱しく笑む。なんだか、うまくいきそうだとか思っていたが、もしかすると厄介な面々になったのではないかと登良は考えていると、登良の携帯が震えた。ポケットからとりだすと、メールが一つ。創から来ていて、おもむろに中を開いていくと、内容は弟が熱を出して倒れたから今日はいけなくなった。との旨が書いてある。
桃李の機嫌がおちてなければいいんだけれど。と思慮しながら、おだいじに。と手早くメールを組み立てて送る。送信しました。とディスプレイに出るのを確認してから、ふと聞こえた単語に驚いて顔を上げる。

「…パーティ?」
「伏見殿から、そう聞いてたでござるが。」
「……ドレスコード準備してないけど……」
「そこまでしっかりしたものじゃないから、って登良くん?」

もしもーし。と翠が登良の眼前で手を振れど、その反応は鈍い。登良の脳裏に描くパーティーとは兄とともに父の手を引かれて連れて行かれた夜の社交等だ。あれはタキシードを着たりして、行った記憶がある。あれに倣うのならば今の自分の服装は酷いモノだと思う。しっかり桃李が準備をしてるならば、この格好では不釣り合いすぎる。どうしようと、思考を巡らせていると登良の目の前で翠がひらひらと手を振った。

「登良くん?」
「あぁ…ごめん…考え事してた。」
「ドレスコードとか聞こえたけど、みんなでお茶するぐらいだから普段着でいいよ。って伏見先輩が。」
「本当?」

登良くんって。本当に考えすぎるよね。と指摘されて、ぐっと詰まる。確かにそうだ。前に朔間さんに言われたところではないか、思い出して自己嫌悪に陥りかけたが、今日はそういうのも全て忘れようと決めたところだ。緩やかに頭を振って思考を追い出して、大丈夫だと笑って見せた。
バスはもうすぐ、桃李の家最寄に到着する。みんなで賑やかに歩いて今日一日楽しかったらいいな。と思うことにした。




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