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トンネルを抜けると広いエリアかに入ったので宙を下ろして三人で水槽に並ぶ。大きなサメと熱帯魚が並んでいることに首を傾げる。こいつ主食は小魚だと思うんだけど、周りのやつらを食べたりしないのかな?どうでしょう?言われてみれば不思議なー?登良ちゃん知ってる?プランクトン食べてたりして?。

「なんかそれっぽいね。」
「サメさんに常に餌が与えられていて、満腹状態だからほかのお魚さんを襲わないとか。」

自然界の生き物は必要以上に殺しませんから。本能には生理的な限界点があって、過剰な暴走に見えるものはたいてい人間特有の理性の産物です。世間の認識とは逆で理性の方が危険です。それが宙には興味深いな〜。どっかに説明とか書いてないかなと視線をさ迷わせる。
二人の会話を聞きながら、もしもこのサメが魚を食べるならば同じ水槽にはいれないのでは?とそもそもなことを考えていると休憩しよう!と声がかかって思考を止める。

「宙は大丈夫?」
「大丈夫な〜?友達と一緒ならどこでも楽しいです!『つらい』『苦しい』よりも『楽しい』『幸せ』が勝っちゃいます!」
「そっか。」
「『色』が上塗りされるからな〜?」

上塗り…さっき宙の視界についてのことをぼんやりと思い返してみる、もしかすると見えてる世界がすべてキャンバスに見えているのなら、それなりに話がかみ合うのでは?と思っていると、ひなたが登良くん!と大きな声で呼ぶ。

「返事が鈍いから大丈夫?」
「考え事してた。」
「登良くんって考えること多いよね。クラスでもよく考えてない?」
「……いろいろ考えちゃう。宙の見えてる世界だとか、魚ってどうなんだろうって。人格?魚格?ってあるのかな?とか」

ぼうっとしてると色々見えてきて、色々考えてしまう。と言えば、それは登良くんらしいよね。とひなたが笑う。で、なにの話だったの?と聴けば、宙くんの消耗がすごく激しいっていう話。俺たちについてくるのって宙くんと光くんと登良くんぐらいじゃん。ね?と言われて、俺は二回目からが本領発揮だと言えば、登良くんの一発で覚えちゃうのはすごいと思うんだけどね。そういう体があるのとそうだけど。きちんとついてくるし追い抜こうとしてるぐらいだもん。俺たちもそれ以上にやらなきゃ、ってこの前の遊園地のライブで思ったよ。
そんなことないよ。と首を振っていると、宙がひなたの服を引っ張った。

「ひなちゃん。登良ちゃん、『あそこ』にいるのは人間ですか?サメさん水槽の外に出て来てません?」
「へっ?なにそれ、パニック映画みたいな事態になっちゃってるの!?」

ほら、と指差した先には学院で見た『紅月』の神崎だった。兄が帰還してすぐに同じライブに立った記憶はあるが、接点の薄い先輩がそこにいた。ひなたがあのー?と声をかけに行くと、腰元からなにかをひきぬくのを見えたので急いで、ひなたの襟首を掴んで距離を開ける。

「貴様!どこへ行っていたっ、こっそり抜け駆けするなど言語道断!『このひとも、多少は考えているのだな』などと感心していた我が愚かであったわ!」
「わひっ!?ちょっ、刀を抜かないで!俺が死んだら悲しむゆうたくんもいるんだからねっ!」

ひなたを押しのけて、そのまま神崎の距離を詰めて、ふりまわすそれを両手でつかむ。ぬいぐるみだと気づいて登良はそっと手を離した。

「むう?すまぬ、人違いであった。三毛縞殿の…それから双子の?」
「お兄ちゃんのひなたのほうです〜こっちは『Switch』の春川宙くん」

はい!こんにちは!と宙が元気よく挨拶するので登良も習って頭を下げる。先ほどので少しビビってるのかひなたもちょっと表情が硬い。それを察してか神崎も今日は帯刀していないので武器になりそうな太刀魚のぬいぐるみだと振って見せた。

「竹光よりもたよりないが、これでも悪漢を懲らしめる程度のことはできよう」
「ほんとだ刀じゃないや。登良くん気づいてて飛びかかったの?」
「…いや、ひなたが切られるとおもったから、つい」

もう!自分の身を守ってね!とひなたが頬をふくらますので、わかった。と返事をしておく。宙が神崎になにをしているのか問いかけているので話を聞くと、どうも彼らはあんずと羽風と一緒に水族館に来たがはぐれてしまったらしい。「ここに『かみさま』がいる?」ふいに口を付いた言葉は誰にも拾われなかったようでちょっと安心した。兄からチケットを受け取ったときの話はいたら連絡がほしい。だったと記憶している。見つけたら連絡を入れようと頭の中で思い浮かべて、頭の中のリストに書き加える。

「あの不埒者め、絶対に許さぬ。ただ同行者とはぐれた際には、その場から動かぬのがよいと教わっていたのでな、こうしてじりじりと辛抱強く待機しているのである。」
「よくわかんないけど、迷子になったら普通に放送で呼び出して貰えば?水族館だし、そういうサービスは充実してるでしょ?」

指摘に我、迷子ではないし。放送などしたら大事なお勤めの最中に迷子になったそこつ者であると…。ぽつぽつ言い出すので、##name_1##はそれを一つ一つ順番に砕いていこうとすると、ひなたが指摘を入れるが、神崎がなかなか首を縦に振らないので、ひなたが妥協点を落としていく。即決していくひなたに感動を覚える。自分ならば、と考えるとそこまでいかないだろうと思う。

「それは助かるが、なぜ、我にそこまでよくしてくれる?」
「いや、もののついでだし、弟のためにお土産を買ったっていってたよね。そのあたりに共感しちゃったから。」

まぁ俺たちにまかせといて。とひなたは登良と宙の背中を押しながら歩き出す。宙は困ったときはお互い様な〜と気楽な声を出して神崎に言っている。背中を押されている登良は広い水族館であんずが見つかるだろうか、見つからなかったときの事を考えるべきかとあぐねていた。




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