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校内バイトを繰り返して慣れているだけあってか、登良たちの動きは早かった。力仕事の不得意な『ユニット』であるが、最小の登良が大きなものの運搬や力仕事というの謎の構図ではあるが、これが一番早いと登良はいつも思う。もくもくと仕事を進める登良がなずなの補助と大量の飾りを運搬などの力仕事をしているのが常だった。友也と創の妙な空気に包まれながらもユニットは仕事をこなしていく。居心地の悪さを覚えながらも登良は仲間の間と飛び回るように作業を行う。時稀に斑とも言を交わしつつ飾り付けをこなしていく。荷物の運搬中にちらりと登良は友也と創の姿を盗み見る。もくもくとやっているがどうも空気のめぐりが悪い。もしも、なんて考えると心が音を立てて絞まったような気がして眉尻を下げた。短時間にそうやって思考がループしていつしか考えは兄ならばどうするだろうと思うのだから登良はなおも自己嫌悪に陥る。何でもできる兄だから、こういう喧嘩も簡単に解決できるだろうに。と行き着いて、またがっくりとうなだれるのであった。
そんなループを繰り返していると、今日のノルマまで終わったというなずなの号令で、飾り付けもキリのいいところで切り上げる。脚立を抱える。自分の背丈以上ある脚立を軽々と抱えて、小さな箱を入れ子にして脇に抱える。少し重たかったな、と思いつつ武道場に向かって歩いていると、登良落としたぞ!なんて後ろから声をかけられる。ちゃんと持てよ。という声を聞いて登良は相手が友也だと気がついた。箱は全部持つよ。と言われたので素直に荷物を明け渡す。
「ありがとう。」
「ごめんな、登良」
何に対してだろう、と一瞬考えてからこの間の喧嘩についてだろうかと勝手に結論付ける。気にしてないよ。とだけ伝えて登良は口を閉じる。歩くのに連動するように脚立の脚同士がぶつかりあって軽い音がなる。使い古された脚立の金具の音だけが廊下を支配している。
「登良。創はなにか言ってた?」
「俺は、二人が直接話し合いと仲直りをするまで口は開かないよ。」
喧嘩の原因も知らないし、何で怒ってるかもしらない。仲直りしたら聞く。それだけを伝えると脚立重たいから先に行くね。と足して登良は先を歩く。友也がこの状態なら謝罪の日は近いのかもしれないと判断する。が、考えすぎて気持ち悪くなってきて。小走りぎみに武道場に駆け込んでから、壁に脚立を立て掛けて倒れないのを確認してから、登良は個室のトイレに駆け込み、便器に胃の中身をすべて叩き込むのだが、昼も食べてないので吐き出してもなにもでない。
昔からもしかしてを考えすぎて具合を悪くしたり、ただでさえ食が細いのに尚も細くなったり、最悪を考えすぎるのは悪い癖だというのは自分でも知っているのに、どうしてこんな性格をしているのだろうと自己嫌悪にはまる。二人にああやって言うんじゃなかったと後悔ばかりしている。小さく蹲って息を整えていると遠くでなずなが登良を呼ぶ声がする。考えることをやめなければ、と自分に言い聞かせてなにもないような顔をして個室を出て武道場に戻ると斑だけが立っていた。
「みんなは?」
「荷物をおいて先に行ってもらったぞお!登良くん、医食同源ママと一緒に料理しよう!」
「兄貴は味音痴だからやだ。」
抱きつこうとして来る兄である斑を交わして、どうやって食欲のないのを隠そうかと考えつつ二人で歩く。兄弟でこうして歩くのはいつぶりだったかと思い出そうとするが、はっきりと覚えてなかった。まぁ、なんでもいいやと思いつつ、思考を放棄してただただ下を向く。昔から兄と比べられてどうにもこの兄という存在がどうやって扱っていいのかわからない。どうしよう、と思っていると斑から声をかけてきた。
「最近は登良くんは元気かなあ?」
「…わかんない。思い込みすぎで胃が痛い。」
じゃあ登良くんにはママ特製のおじやさんをだな。一人でふんふん頷いて言を進めようとする斑に対して登良は…話聞いてた?味音痴。と諌める。いらないから。と言えば「登良くんは甘え下手だからなあ。よし、あんずさんといっしょで、周りの手を借りるといいんだぞお。」と頭を撫でられてる。登良はため息をついて、はいはい。と聞き流しつつ返事をしていると厨房まであっという間だった。元気な斑はやるぞお!と腕捲りをして厨房に入る。そんな元気があれば。と羨んでいた事に気がついて、俺の胃はたぶん友也と創の仲直りがない限り治らないよなぁ。なんて思考しつつぼんやり賑やかなのを見つめる。
「登良、遅かったな!」
「ウザ絡みされてました。」
お疲れと背中を叩かれる。とりあえず厨房に入ってやることは一つ。兄に味付けの権限を渡さないことだと結論に至り、周りを見回すと創と友也の姿が見えないことに気づく。そっとなずなに問えば友也が餌やり担当で飼育小屋にその手伝いで後追いの創が向かったらしい。大丈夫かな、と考えてるとなずなに登良ちん、考えすぎは良くないぞ。顔に二人が心配って書いてるよ。と言われ、考えすぎですかね。となずなに問いかける。登良ちんが考えすぎて光ちんが考えなさすぎでバランスは取れてるんだけどほどほどにしておきにゃよ。と最後の最後で噛んでしまうなずなに、登良は小さく笑った。
「二人なら大丈夫だから、気長に待っておくといいんだぞ」
「ねえ、に〜ちゃん。二人が喧嘩をずっと引きずって、このまま解散しないよね…」
「登良ちん、それは考えすぎだから!一旦落ち着こう!」
さっき、創ちんを送り出す時に、登良ちんが一番二人を心配してるから。って言ったけど、まさか本当だとは…。すいません、考えすぎで性分なんです。仕方ないなぁ。困った時はに〜ちゃんに任せるんだぞ!に〜ちゃん。考えすぎて吐きそう。もっと先に言っちぇ!登良ちん!!!!!
調理場になずなの悲鳴が盛大に響いたりした。
ストレスで体調のよろしくない登良におかゆを作るか?となずなが提言したが、登良はそれを断固拒否した。気を遣う性分だが、体調が悪いわけではない。メンタルからくるものなので。と伝えるが、なずなは頭を抱えた。人に見せないのは得意ですから。と方向性のおかしな宥め方で登良のご飯がおかゆになることを阻止した。
ご飯を食べてレッスンをしてお風呂をすませて、あとは寝るだけになっても、創と友也からの報告はなかった。メンタルがごっそり削られてる気もするので、さっさと寝てしまうか。と武道場の隅で考えてると、鉄虎と翠に【ハロウィンパーティ】の研究前に飲み物やお菓子を買いに行こう!と手を引かれる。残りは先に布団を敷くそうだ。
「売店ってちょっと楽しいよね?」
「そうかな…?」
何か登良くんってさ、ゆるキャラみたいだよね。サイズも相まって。と言われて、登良はそう?と首を傾ける。でも親分は小さくても空手はとても強いんスよ!翠くん!そうか空手部だったっけ?親分は空手部のエースになる男ッス!親分て…。翠と鉄虎が話を繰り広げる。同じクラスで登良は基本的に口を開くことは少ないし、翠も鉄虎もそれを知っているし話をふられているとわからない限り登良は相槌程度でしか返事をしない。
「護身用に覚えただけだし…」
「護身用?」
「事件に巻き込まれて…うん。」
あんまり覚えてないけどそこから空手道場に通わされた。あんまり暗いところが得意じゃない…かな。ライブ前は周りに知ってる顔があるから別に…怖くないけど。なんて、困ったように頬を掻いて最後に「今晩電気が切られる前に寝るかな…」困ったなぁと言わんような口ぶりで言う。
「親分!オレ達がそばに居るから怖くないっスよ!お化けなんて倒してやるっス!」
「ん?…うん、そうだね?。」
それ、関係ある?と言いながら登良は首をかしげて鉄虎の話を飲み込んだ。翠はいろいろあるんだね。登良くんはさ三毛縞先輩と仲悪いよね、と話を切り替えた。登良はすぐに「苦手」と吐き出した。
「明るすぎてしんどい。焼けそう」
「解る。」
まじでない。と言う。翠にうんうんと頷く登良。ユニットリーダーと実の兄と違いは有れど、面倒な上を持つというだけで登良は酷く共感して実体験をあるあるとシンパシーというか共感というか受けて頷いている。
翠と鉄虎で買い物を済ませて武道場に戻ると、なずなはすでに布団の中に潜り込むタイミングだった。斑が呂律がまわってないな、といってたり各々が好きなように動いていた。部屋に戻ると否や、お帰りーと光がよってくるので買ってきた荷物をすべて渡す。おいしそうだね!というのでそうだね、と登良は返す。
「おきゃえり、登良ちん。」
「ただいま、に〜ちゃん。」
ひらひら手を振ってやれば振り返ってきて、一年たちの輪に入ると、テレビに向かってなにやらしているらしい。なにしてるの?と忍に聞くと、【ハロウィンパーティ】用の映像資料を見る準備だと言う。
…ハロウィンパーティ用?ふと嫌な予感がして、登良は何を見るのかと聞くと、内緒と言われる。…これはやばいやつだと登良は判断する。俺も眠いから寝ようかな。と言い出したが、それよりも早くに映像機器の設定が終わってしまったようだ。
「これからいきましょう?」なんていう創の声を聞く前に踵を帰して布団の方に向かおうとしたのだが、友也が登良見ないのか?と聞かれて、ちょっと…と言葉を濁すと、光が面白いから見ようと言われて登良は一年たちの一番後ろを陣取ることにした。せめて電気は消さないでほしいと心の底から願う。
どれにするー?と選別する声と比例して登良の心臓がばくばくしてきた。いや、考えすぎだと思考を払ってもどうも払いきれずにどうしようと視線をさ迷わせる。鉄虎や翠に視線を向けてみたがどの資料を見るか楽しそうにああだこうだといっている。さっき、言ってくれたのに!とか言葉から出掛けると同時に電気がカチリと音がして武道場の半面が暗くなった。
「ひゃう!!」
「登良、どうした?そんな声を出して」
「ナンデモナイデス。ハハハハ」
登良らしくない笑い方してるな。と友也がいうので、ひきつっている笑顔でなんとか対応する。映画も部屋も暗くなければ問題はない。そう、夜が舞台になるようなホラーでなければ問題はないのだ。そっとテレビの方から視線をそらすと、千秋が混ぜてほしい!と入ってくる。げえと声を漏らしながら翠がうるさいのが来た。と心底いやそうな顔をするのが見えた。創が千秋を前に呼び、光が斑を一番後ろ、登良の横に座らせる。やいのやいのと騒ぐなかでテレビの明かりだけになった頃、斑が少しどころか青く硬い表情をしているのに気がついて小さな声で声をかける。
「登良くん大丈夫かあ?」
「全然だめ。」
テレビまで暗くなったら俺死ぬ。めずらしく狼狽えている姿に、もしかしてとまだ話してないのかな?と問えば登良はこっくりと首を縦にふる。口下手でなかなか自分を出さない弟だと思っていたが、まさかここまで、強情というか話をしなさすぎる。のかと斑は思う。
「ほらほら、お兄ちゃんはここにいるぞ。」
脇の下に手を入れて抱え上げて斑の膝の間にテレビが視界に入らぬようにテレビに背を向けるように座らせて手を拾い上げるとその手が微かに震えてる事に気づいて落ち着かせるように小さな手を撫でる。ほら怖くない。と囁けば、登良は恐る恐斑の胸板に耳をつけるように身を預けてくる。昔からどうしようもなく怖くても登良は一人で戦っていた。誰にも言わない弟は小さくてそして脆い。どうしてこうなるまで黙るかなぁと斑は見下ろすつむじに心の中で問いかける。
昔はお兄ちゃん子だったのに、立派になったとか思ってたがやっぱり根はお兄ちゃん子なんだと思いつつ弟は自分の腕の中ですやすや寝てしまっているのを見て満足げに斑は頬を緩めた。
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