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ちょっとだけ部活に顔出してから集合と言われていたバスケットコートに足を向けた。たくさんの資料を持ったなずなと出会ったので、資料を半分持って指定されていた場所にたどり着くと、『流星隊』の隊長さんが暗い顔をしていた。あんな顔をみるのはいつ振りだろうかと思ったが一年前だったとすぐに思い出した。なずなは先に歩くが、登良は入り口で一度足を止めてお辞儀をしてからコートに入る。なずなが登良を見ていた。

「ここは道場じゃないぞ」
「…癖で…」

ちょっとだけはずかしくなって書類に顔をうずめたくなったが、だれかが読む書類を汚すことはできない。俯きながら、とぼとぼとなずなの後を追った。

「お〜い、千秋ちん。必要な資料を人数分コピーしてきたぞ〜」

どした、暗い顔して。となずなが望みこむように千秋を伺うと、飛び跳ねるように驚いた。なにだろう?と登良は首を傾げて、なずなと『流星隊』の隊長のやり取りを見つめる。
「それよりも、資料を運んできてくれたんだな?ありがとう!屋外だし、風て飛ばない様にファイルに綴じていこう!ファイルは俺が用意しておいたぞ!人数が11でファイルも重たいから、華奢な仁兎に運ばせるわけにはいかんと思って!書類を一部ずつ手渡してくれ、俺が綴じていくからな。」「登良ちん、もうちょっと持っててくれよな!俺が穴をあけて千秋ちんに渡すぞ!」ふたりの指示にコックリと頷いて、一部をなずなに手渡す。

「登良…?お前、三毛縞さんの弟か?」

そういわれて、ぎくりと登良の顔がこわばった。顔をひきつらせながら、こっくりと登良は頷く。そうかお前だったのか!よしよしと頭を撫でられて、登良は二三歩後ずさった。お?苦手だったかすまんと言われて、登良はコックリと頷く。よかったあれはばれてなさそうだ。

「千秋ちん、登良ちんはあんまりそういうの得意じゃないから気を付けてくれよな!」
「悪かった、作業をすすめよう。仁兎それをくれ」

役割分担だな〜。こういう後輩にやってもらうのが筋だろうけど、あぁいや。登良ちん気を遣わなくていいんだぞ、人数がたりてないんだからな!あわてて取り繕う仁兎に、気にしないでと言わんばかりに登良は首を振る。皆掃除とか部活で、と告げるとあぁ、と二人が納得をする。ゆっくりでいいならやると告げると、二人は快諾し、登良にまかしてくれるらしく、二人は会話をつづけるので、登良は黙々と作業をしつつ二人の会話に耳を傾ける。

「おれたち受験生だしな〜、一応。授業、だんだん少なめになってきてる感じ。卒業間際になったらほぼ授業がなくなって、自由登校になるって話だ。」
「卒業のことなんか考えたくないけどなぁ。それより仁兎、奏汰とは同じクラスだろ?あいつ、今どこにいるか知らないか?」
「午後からのっそり出てきた零ちんが、学校には来てるみたいって言ってたけど。」
「あいつは微妙に連絡が取りづらくて困る。念のために仙石に遠回りして確認を頼んでおいたが。俺のクラスメイトの三毛縞さんは、軽く走って来るって言っていたぞ。」

げ。と声が思った以上に大きく出て、二人の視線が登良を射た。どうしたの?登良ちん。となずなに問われて。「あの人、でるの?」と微かに声が揺れた。今回は『Ra*bits』『流星隊』『MaM』の3ユニット合同だぞ。と言われて、めまいを覚えた。息が詰まっているような感じも同時にする。背筋が冷えて、ひゅうっと息が鳴った。問題が多すぎる。兄と、一年前のあれに関わる人が多すぎる。

「どうしたんだ、登良ちん。」
「……あ。えっと……なんでも、ないです。兄が出るので、ちょっと……結構?かなり?……嫌いです。お仕事なんで諦めますが。」

世の中が兄弟で仲がいいわね。なんていうけど、俺はそう思いません。朔間先輩たちだって仲が悪いのを創伝いでよく見ているからだ。なんていうと、わぁ。となずながいう。あの明るさが嫌いだと伝えると、まぁなぁ。と言う声がどちらともなく出た。共感は得たようで、なずなも隊長もうーん。と言葉を濁した。

「あのひとは、ある程度常にエネルギーを消費しておかないと落ち着かないらしい。」
「元気が有り余ってんだなぁ。斑ちん。」

頼りになるやつだけど、『MaM』としてのあいつはあんまり仕事したことないから、どう転ぶか心配だなぁ。というなずなに隊長が、そんなことないと伝えると、なずなは納得したように頷く。そんなころに登良は人数分の書類を整えて、『流星隊』の隊長に渡すと、偉いと頭を撫でたので、登良はじっとその隊長をじろりと睨みながらそれをうける。

「意外と枚数少ないよな。この書類、あんずがつくったやつっぽいけど…」
「あいつも『プロデューサー』として成長してる感じだ、簡潔に分かりやすくまとまってる。実際、まだあんまり何も決まってないというのもあるみたいだけどな。」

春の『S1』【七夕祭】【ハロウィンパーティ】ときて、季節が進むことに、『S1』の規模や参加人数は増えているし、あんずの負担が…と千秋が言う。んーと思いながら手伝えるところあるかな、とあんずの姿を思い浮かべる。たまに手伝うこともあるが、あの仕事は多いような気がする。どうもなぁ、と人数分のファイルを抱えた登良が肩を落とす。働きすぎの兄曰くの幼馴染であるが、どうも登良もあんずも覚えていない。ふむ、と考えてると遠くから仲間と兄がやってきて憂鬱な気持ちに登良はなって胃のあたりに重たいものがあるような気がしている。ため息をついてると、人が集まりだして、にぎやかさが増してきた。登良は肩を落としながら、なずなの横に立っていた。兄が嫌いだと先ほど告げていたところなので、あんまり何も言わない様に静観をしているし、兄の斑と会った瞬間に「登良くん、元気だったかあ!」と持ち上げられて脳天チョップを食らわせる『流星隊』の隊長に救われたりなどにぎやかに行っても、登良はひどく静かだった。

「はいはい、注目!和やかな雰囲気のところ恐縮だが、さっさと打ち合わせを始めたいと思う!それでいいか、三毛縞さん?」
「何で俺に聞くんだ……、『ユニット』としては『流星隊』が一番格上だし、そのリーダーである千秋さんが仕切るといいぞお?」
「うん、俺もそれでいいと思う」

各リーダーが承諾をして、あんずをトップに据えて不在時は千秋が仕切る方向でいくらしいと宣言するので、登良は頷いた。『Ra*bits』はよくいろいろなユニットとやるときは新設ユニット故に相手に仕切ってもらうことはよくあるので、誰もそんなに気にしてはいない。周りをぼんやりと見ながら、書類に目を通して周りを伺う。なずなはいつか本当のメインでやれたらいいねとみんなで笑う。そのまま隊長の指示で打ち合わせを進めていく。淡々と進めていく中で、泊まり込み。という単語が出てきて、登良は、そのまま頭を抱えた。泊まり込みは全然に問題ないのだが、兄がいるということに顔がゆがんだ。

「登良、どうした?」
「いや、泊まり込みだなって……」

耳打ちされて、たんたんと登良は答える。兄と一緒にいるのがやだと、頭を振ってからがっくりうなだれる。いつもは別のところで寝れるのに泊まり込みになったら一緒の部屋で寝泊まりするとなると、胃がしくしくしてきたし、消灯で真っ暗になるのも嫌であった…これに関しては消灯前に寝てしまえばいいのだが…帰ってもいいというのはひどく魅力的に見えたのだが、我に帰る首を振る。
二週間がんばれるのかと思ったのは昨日のことだった。友也と創の仲直りしたという報告もないので、登良は誰にも聞こえない様にため息を吐き出した。

「よぉし、みんな着替えたなっ?全員集合〜。只今より、【ハロウィンパーティ】準備会を始める!『流星隊』『Ra*bits』『MaM』三つの『ユニット』による、合同のお泊り会だ!」
「『お泊り会』って言っちゃったなあ、まあほかに表現のしようがないか。な登良さん!」
「…振られても困ります」

ま、表現は何でもいいんだけどな。それよりも三毛縞さんも練習着のサイズが大丈夫か?一応特大サイズを用意してもらったんだが、きつかったら言ってほしい!あんずに頼んでサイズを調整してもらうからな!
千秋の声に従って登良も練習着に着替える。あんずの手作りなこともあってサイズがぴったりで、ひとりほっとする。問題ないかと軽く体を動かしていると、光がやってきて、「登良ちゃん、登良ちゃんのタグには何がかいてあるんだぜ?」なんて問う。何のことかと首をかしげると有無を言わさず光がぺろりと練習着のタグを引っ張り出した。

「濃い茶色の猫?」
「登良ちん、ウサギさんより猫さんっぽいからかな?」
「俺のだけ『みけじま』とは!愛をかんじないんだけどっ、何故なんだあんずさん!俺はこんなにあんずさんのことを大事に想ってるのに!おのれ愛娘、反抗期かあ!パパ!愛娘が!」
「パパじゃないんで結構です…」

ガシッと斑が登良に抱きつく。登良は眉間に皺を寄せて不満のある表情を浮かべる。「俺がママなら登良くんはパパだな!」と言っていた設定がふと引っ張りだされるのに嫌気がさした。暴れるのも億劫でため息をつくと「ゴロツキがいやならいやと、いうべきですよ」と奏汰が登良を物理的に救いあげた。背中を捕まれて斑から離されて地面に下ろされる。助かったことにかわりはないと、登良は奏太の方を向いてお辞儀を一つ。

「ありがとうございます…」
「きみはむかしから、すなおなこですね」
「そう……ですね?」

すこし困った風に笑ってから奏汰に対してペコリと頭を下げ礼を言ってから、すぐにぐずぐず崩れる斑から距離を置く。相手は『かみさま』で、そう気軽に触れてはいけないと幼少から言われている。翠が、大変だねと哀れみの目を向けていたので、つられて気持ちが落ちてきた。それにつられて胃もしくしくしている気がして、登良はそっと眉を潜めて視線を落とした。まだ軽いかな、と自分自身に問いかけるが答は出ない。うーん。と考えあぐねていたところ、光が駆け寄ってきて花が咲くような笑顔で登良に言う。

「登良ちゃん、飾り付けに行こうぜ!」
「光、止まる。走らない」
「もっ。もちろんだぜ!…登良ちゃん、顔色良くないんだぜ?」
「創と友也に言い過ぎたなって思ってるだけだから大丈夫。」

荷物は?創ちゃんが持ってった!脚立は?友ちゃんが!…俺たちは?予備の荷物をって。さっき立ち直った三毛ちゃん先輩が持っていったんだぜ!
あれと一緒かと考えただけで気がまた重くなった。いい加減に考えすぎるのもダメだな。と思いつつ、光行こう。と声をかけて登良は光と二人で歩き出した。




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