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登良が『Ra*bits』のメンバーが集まる部屋に来たとき、大きな声が聞こえた。何事だ?と疑問に思って登良はスピードを速めて部屋に入った。ユニットのメンバーが全員そろっていて、とりわけ気になったのは疲れた顔をしたに〜ちゃんと光がだった。

「どうしたの?」
「登良ちん、にゃんでもにゃいんだぞ!」
「…?…」

乾いたような笑いを浮かべるなずなに登良は首を傾げた。どことなく感じる違和感にそのままにして、飲み込む様な口ぶりで自分を言いきかるように頷いた。そっと視線を動かせば、創と友也の間に何かを感じて、じっと登良はそちらを見る。気まずそうな顔した友也が肩を震わせた。どこか浮かないような顔した二人が気まずそうに視線を逸らした。なんだかなぁ。と思いつつ、ふと頼まれていたことが頭を走った。図書室に寄って荷物を取ってきてほしい。と言われていたことを忘れていた。

「…あんず先輩に呼ばれてたや…。」

先にちょっと行ってきます。と入ってきたばかりの入り口に踵をかえして出入り口で一度止まって振り返る。あぁ。そうだと思いだして登良は言う。「無いとは思うんだけど…創と友也。万が一?喧嘩とかしてるんだったら、俺、二人がしっかり話し込んで仲直りするまで俺、創と友也とはしゃべらないからね?」首を傾げて問いかけると、一瞬部屋の空気が凍った。
まさかないよね?とかいうと問いかけると、光が「すっげー!エスパー!?」と驚きの混じった声が響く。…まじ?と口数の少ない登良が驚いてから、「じゃあ仲直りの報告二人から待ってるね。」なんて告げて部屋から出て行ったのは昨日のことだった。
翌日登校してきた登良は大きなマスクをつけてクラスに入ってきた。友也が驚いて登良の名前を呼ぶ。それでも、何?と言いたげに瞳が友也を見る。ラピスラズリを砕いたような翠青の瞳は逸らしもせず、物語っている。どうしたんだよ?と話を振るが登良はだんまりを決め込んだままで、そこで友也は昨日のことを思い出した。
「もしかしてほんとに実行してるのか…?」友也の問いにこっくりと頷く。お前ってやつは。と友也は小言を漏らして頭を落とすが、登良はただ首を傾げて真っ直ぐに友也をいるだけだった。もう、と呟く声を聞き逃さなかった。じっと見つめていると翠があくびを溢しながら声をかけた。

「おはよ〜。どうしたの真白くん、ため息なんか付いちゃって」
「おはよう。翠」
「え、登良喋ってる…」

俺、言ったよ?創と友也とは。って。登良と友也のやり取りを見てなにがあったのと翠が言うが、登良もわかんない。と答える。空手部に顔だしてからだから、よく解ってないや。とゆるく首を振る。

「わかるよ、つらいんだね?呼吸するのもしんどくて嫌なんだね、俺も同じだよ」
「心の風邪は初期症状ならお薬で治るよ。」

そういう病気系じゃないから!と友也が否定をして、友也と創が喧嘩をしたというぽつりと話し始めて、登良は翠と友也の話に耳を傾けた。二人は中学からの知り合いで仲のいい友達だと聞いてるのに、どうしてだろう?と思いつつ登良は口をとがっているのに気が付いて唇を噛んだ。考えると唇がとがると兄に言われているのと思いつつ、ため息を吐く。俺の夢ノ咲学院における癒しポイントの一つだから、なるべく喧嘩しないでほしいな。と訴える。

「俺なんか合わない相手とはすぐ角が立って疎遠になっちゃうよ」

喧嘩とか口論とか無理だから、ちょっと仲悪くなると逃げちゃうし。中学の時の友達とはーって翠が言い出してそれは…と登良は悩む。高校の友達は一生の友だとか、いやあれは教科書だったかと思い直す。

「『一生の友達』かぁ、俺も何となく、創とはこれまでと同じようにずっとずっと卒業しても大人になっても、おじいちゃんになっても一緒にいる気がしてた…」

別に契約書を交わしたわけじゃないし、決定事項じゃないもんな。馬鹿だな〜、と友也は息をつく。そんな姿に呆れながら、登良は「仲直りしたら言ってね」と念を押して俺は朝の準備を始めるために離れる。ふーと息を付きながら椅子の背もたれに身を任せて、思考を練って空手部に顔出そうと決めていると、机の隅に置いていた黒い画面を見つめているとぽん。と画面がついた。なずなからの連絡で、クラスは大丈夫かという連絡だったので、平気とこっそり連絡を送っておく。すぐに既読がついたるあたり結構なずなも心配しているらしい。
そのまま返事を見て、了解と返事を返しそのまま携帯の照明を落として携帯を机に伏せる。昨日は疲れたと思いつつ、登良は瞳を閉じて周りの音を聞きながら眠る体制を整える。頭の中でやりすぎたかな?とも思ったが先ほどの翠と友也の話を聞いて思った。きっと仲直りのやりかたがわからないから、二人とも困惑してるのだろうと判断する。仲直りのきっかけになればいいとおもったが、変にやりすぎたかとそっと思うが、なんともなぁ。と小さくつぶやく。
きっとあの兄ならと考えてしまう自分に嫌気がさして、何もなかったという体で顔を澄ませておかないと、そうでもしないと恐らくに〜ちゃんが気にするんだろうなぁ。と思いつつマスクを後で外そうと決めて人知れずため息を吐く。放課後にユニットの集合があるんだっけ、と思い出して、ライブが終わるまでに二人が仲直りしてくれるといいな、なんて小さくつぶやく。誰にも拾われなかった音は今来たらしい鉄虎の声でかき消される、もうすぐチャイムが鳴るなと思って登良は夢の世界へ扉を開いた。




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