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校内アルバイトを終わらせて、練習場所として借りている部屋に歩いていると目的の部屋から光が飛び出してきた。登良には気づかず、走っていく姿に登良は何があったのだろうかと首を傾げる。消えていく背中をみおくる形になってしまったと後悔しながら、目的の部屋に入る。

「……!?!?」

部屋の置くで倒れた友也とその体を一周ぐるりと縁取っている白テープ、倒れた植木鉢と落ちている帽子。にユニット服。動かない友也が目に入ってきて、そっと寄る。頭もとに立ってから呼びかけてみたが、返事はない。こういうときは、と思い返しながらそっと腕に触れてみる。自分の手よりも高い温度に安堵してから、脈拍を確認するために首元に触れる。指先に脈拍を感じてふっと息を吐いて、携帯を取り出す。どうやって運ぼう、その前に警察と救急車、117?177?どっちだったっけ?ちらりと視界に友也を収めて、電話をっけるためにボタンを押し始めると背中で音が鳴る。弾かれたようにそっちを見ると、なずなの姿を見て、登良は視線が迷う

「友ちん〜!死んでる……!なんだこれ!?ど、どうして!?若い身空でっ!この馬鹿!おれより先に死んじゃうなんてっ、うわぁああ〜ん!?」
「に〜ちゃん……あの」
「登良ちん、なんでそんなに落ち着いて!?」

はう。と声とともに創が卒倒した。なずなが崩れ落ちる創を捕らえて、大丈夫かぁああ!?と声の限りに叫ぶ。登良は、なずなを呼ぶ。音量調節ができずに、か細い声が喉から零れ落ちて消えた。目の前でパニックを起こしてる人を見ると冷静を取り戻すとはよく言うものだ、と感心する。

「どうして友ちんが死んでるんらっ、光ちんがやったのか!?」
「いやいや、俺が防音練習室に来たときにはもうともちゃんは死んでたんだぜ。」
「あの……に〜ちゃん、光……」

光は死んでないから、とりあえず保健室運ぼう。脈はあったし、息はしてるから。光保健室運ぶの手伝って。に〜ちゃん、創を任せます。友也の肩を掴んで登良は自分の背に乗せる。微かに聞こえる音に安堵しながら、登良は一歩ずつ歩いてく。さっさと歩いて保健室に単身で乗り込む。そんななかで登良の思考は117って時報だったけ?とぼんやりと考える。後ろで大きく騒いでるのを聞きながら足早に登良は保健室に友也を叩き込む為にドアを開く。横開きのドアを思いっきりに

「佐賀美先生!」
「どわっ!?」
「友也が倒れました、見てください」
「ベットに運べ!」

こっちだ。と言われて、登良はそのままベットに友也を運び置く。こっちの書類書いとけ。と紙を渡されたので登良は目線を紙に落とす。利用状況アンケートと、書かれた紙にボールペンを渡されて。順番に記入しようと始める。いつから体調が悪いですか?やどのように悪いですか?と書かれてて、登良は頭を悩ます。むむむ、とうなりながらとりあえず友也の名前を書き込んで、いつから、とかわからなくて考える。とりあえず、見つけた時間でいいのだろうか。違うかったらとわからないので、そのまま許されるだろうかと思考を巡らせる。どうする?と相談するにも隣には誰も居ない。どうしようと頭を抱えた頃に『Ra*bits』の面々がやってきた。

「登良くん!友也君は!?」
「今見てもらってる。」
「登良ちん、友ちんは!?」
「見てもらってる。」
「登良ちゃん、友ちゃんは!?」
「対応中。」
「登良くん、真白くんは!?」
「……あんず先輩まで……。」

まさかものの30秒で同じ内容がこう連続して問われると思ってなかった。最後は言うのも諦めて、佐賀美のほうを指差すだけにまでなった。そのまま書類を書き続ける。全部のものをかききると、カーテンの向こうから佐賀美が出てきた。

「先生、友也くんは、大丈夫なんですか?」
「あ〜、うん、大丈夫。真白は単なる過労だと思うから。あんず、お前いるなら点滴の用意をしてくれるか?いやうん。自分でやる。お前も過労でぶっ倒れそうだし、若いからって無茶すんなよ。」

っていうか、なんでおまえいるんだ?と佐賀美があんずを指差す。何かのドリフェスの準備とかで忙しそうにしてなかったか、いろいろ手伝ってくれて俺は助かるけどさ。保健室で油売ってる場合じゃないだろ。現場で準備しとけよ『プロデューサー』ちゃん。
あんずをしっしと手で追い払う中、俺、手伝います。と席を立つ。そうじゃねえだろ、と登良は額をつつかれて、ぐぐぐとつつかれるたびに逃げる。

「『Ra*bits』も、仲間が心配なのはわかるけど、仕事を優先しろ。真白は俺が見とくから。うん、まぁこいつは今回休ませておけ、念のためな。安静にしとかないと。真白の意識が戻ったら、俺から事情は説明しとく。」
「さ、佐賀美せんせぇ!友ちゃん、大丈夫?死なない?」
「死なない死なない、とはいえ病人のそばで騒がれても迷惑だから、お前らも現場に行けよ。…あぁ、仁兎だけ、あとでいろいろ言いたいことがあるから職員室に来い。」

友也はどうして倒れていたのかと考える。なにか対策は取れたのだろうかと思考を巡らせていると「行くぞ登良ちんも、もう開演まで時間がない、ぶっつけ本番になるけど急ぐぞ〜?」なんてなずなに肩を叩かれて、立ち上がる。

「うわぁあん、友也く〜ん!ぼく、責任とって友也くんと結婚します!」
「お前は何を言ってるんだ。泣くな〜始めちん。これからライブなのに目が腫れぼったくなっちゃうぞ〜?」
「ほら立って歩け、お仕事がんばるぞ〜」

それでも友也と離れたくないと創が泣きつく。そばで優しく笑っていないと!なんてわんわん泣く創の背中に登良は手を置く。なずなが「登良ちん、登良ちん、一緒に創ちんを引きずってステージへ向かうぞ〜?」「創、行こう。友也が心配する。」「友ちゃん、よく俺に勉強を教えてくれたりお世話してくれたから」「光も、行くよ」なんて登良は声をかけながら、と光の肩を叩き、創の背を慰めながら保健室を退室するのだが、退室する際に盛大に壁に頭を打ち付けて、なずなが友ちんがいないとだめだ。ため息を吐くのだった。ざっと柔軟を済ませて、創の泣きはらした目をなずなと二人で対処し、光を御していると時間が一足飛びで駆けていく。なずながもうすぐだぞ。という声に慌てて皆でステージ衣装に着替えて、駆け込む。いろいろありすぎて情報が回ってないのは『Ra*bits』だった。
息を切らせて全員でステージに入る。

「ごめん、泉ちん!ぜぇはぁっ、おそくなっちゃったぞ〜?」
「『遅くなっちゃったぞ〜?』じゃないよ、なずにゃん。プロなら時間は厳守しなよ、基本でしょ基本?あんた、何年アイドルやってるわけぇ?」
「う〜、仕方ないらろっ、メンバーが体調不良でダウンしちゃったから!あんまり意地悪するなよ〜、ちゃんと謝るからゆるして!ほら、登良ちんも一緒に、ごめんね?」

なずなが頭を下げるので、登良も習って頭を下げる。ふぅん、と言う声が聞こえたけれど登良はそのまま登良は頭を下げ続けた。瀬名はメンバーに欠員が出たの?どうりで顔色が悪いとおもった。大丈夫なの?と瀬名となずなが話を進める。登良は一歩下がって、思考を巡らせた。なずなが、居なかったら『Ra*bits』はどうなるだろう、登良は先ほど聞いた【ミステリーステージ】について思考をならべた。期間は8日間、怪盗側『Knights』が出す問題に探偵『Ra*bits』が答える。出題者『Knights』はライブを進め、そのライブの中に謎を散らす、散らした謎を解き明かして、正解ならば、そこから『Ra*bits』の主体としたライブとなる。早ければ早いほど『Ra*bits』のライブの時間が長くなる。知名度を売るというなら、早急に問題を解いてしまうべきなのだろう。プレッシャーと同時に、友也の悲しむ顔が見えた気がした。友也のために頑張ろうと小さくガッツポーズを一つ。

「登良ちん、とりあえず一曲目が始まるぞ。」
「に〜ちゃん……」
「どうした、登良ちん。」
「友也の分まで頑張る。」

俺は三毛縞斑の弟だよ。できないことないって、思わせてやるしかないよね。絶対に『Knights』に一泡吹かせてやる。ゆるく結んで片側に寄せた髪を揺らし登良はつぶやいて、口角を上げる。その表情はひどく兄に似ていた。となずなは思った。はちみつと紅茶を混ぜたような髪と、エメラルドを砕いたような瞳がゆるやかに三日月を描いた。




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