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登良が書類を持って3年B組の教室に行くと、目的の人物なずなを見つけることに成功した。

「に〜ちゃん。」
「わあ!登良ちん、どうしたんだ?」

書類。と言葉と同時に渡すと、朝からありがとうな!と言いつつ登良の渡した書類を受けとる。なずなが一瞬机の上に置いたものを見て、登良は首を捻る。女の子のモチーフになりそうなものだとはわかるのだが何だろうかと首を捻る。その視線に気づいたのか、それか?と聞かれて、登良はおずおずと首を縦に振った。

「おう、おはようさん。登良じゃねえか。どうしたんだ?」
「書類を届けに来ました。で、に〜ちゃんが何の作業をしてるのか気になって……」
「ん?仁兎、裁縫をしてんだな、珍しいじゃねえか。てめぇも裁縫に目覚めちまったか?」
「ううん、そういうわけじゃなくって。」

放送委員の活動の一貫で、裁縫することになったんだ。と言われて、登良は放送委員と裁縫の関連性を探してみたが、心当たりはまったくといっていいほどない。放送委員でもないしどう結び付くのだろうかと考える。

「意味わかんねぇな。何で裁縫が放送委員の活動になるんだよ。裁縫は手芸部の活動内容だろうが。」
「あ〜登良ちんまでそんな頭を抱えなくていいんだぞ、放送委員の活動の一貫で、近所の幼稚園で人形劇をすることになったんだ。今はそれようの人形を作ってるところ〜。」
「そういうことかよ、でも、なんで人形劇なんだ?放送いいんなら絵本の読み聞かせってほうが納得できるんだけどよ?な、登良。」
「そうですね。に〜ちゃんお裁縫苦手そう……」
「うん、俺も最初はそっちの方で考えていたんだけどさ。放送委員のメンバーで人見知りの子が居てさ。」

放送委員でと考えると、忍かなぁ。と登良は首をかしげつつ放送委員のメンバーを思い浮かべる。なんとなく子どもにせっつかれながら読んでいる図が想像できて、ちょっと確信めいた考えに落ち着く。うんうん、となっとくする。
パペット製作って難しいんだな〜。図書室で本を借りてきて必要なものを揃えていざ作ってみると、ベースのところからつまずいちゃって。糸をほどいて、縫い合わせて、またほどいての繰り返し。こんなんじゃ練習時間だって確保できないしなー。いっそ、誰かに依頼しちゃおうかなとも考えたんだけど。俺が提案したことだし、人任せにはしたくないんだ。そういうなずなに、すこしやりすぎではないかと考えていると、紅郎が同じことを言う。

「登良ちんも心配してくれるのか?ありがとな!紅郎ちんと話してたら気分転換になった。よぉし、子どもたちの笑顔のために頑張るぞ〜!」
「に〜ちゃん、最悪俺空いてるから、手伝えるよ。」
「なぁ、仁兎。余計なお節介かも知れねえけどよ。てめぇは人形劇の練習もあるんだし、パペットは俺と登良で作ってやろうか?」

俺は裁縫が得意だし登良もそこそこの腕を持っている。どんなものを作ってほしいか言ってくれれば作れるからよ。と紅郎が言うので登良はうんうんと頷いて、同意する。でも、頼りっぱなしも駄目だし、面倒でも俺に裁縫を教えてくれる?と問いかけられるので、登良は首が飛びそうなくらいに上下に振ると、落ち着け!となだめられたが、早速今日の放課後からやるか。な、登良。と言われて、登良は嬉しそうに笑った。

「うん、よろしくな〜登良ちん、紅郎ちん。そうと決まれば、しのぶんたちにも伝えておかないと!」
「忍には伝えようか?」
「そうだな、登良ちんまこちんにはおれから言っておくから、しのぶんに任せていいか?」
「うん。任せて。ところで、人形劇の内容は?三びきのヤギガラガラドン?スイミー?七ひきの子やぎ?青髭?」
「また、マイナーなところの絵本を持ってくるんだな、しかも一個絵本でもないよな……」

小さな頃にお兄ちゃんによく絵本を読んでもらった。と言って自分でお兄ちゃんといったことに恥ずかしさを覚えて、顔を真っ赤にする。登良ちんは斑ちん大好きだもんな!となずなに笑われると違う。といいつつ視線を下げた。話それてんぞ。と言われて、はっとして、登良は視線をなずなに戻した。

「あぁ、そうだった。内容は「赤ずきん」だ。もともと読み聞かせる絵本が赤ずきんだったから、人形劇でもそれにしようって。」
「なら、赤ずきんとおばあさん狼と狩人の四体が必要になるな。」
「ううん、大将。おかあさんも居るよ、余分に作るならお花とか…?」
「赤ずきんは今仁兎がつくってるもんを俺がアレンジしてやるよ。仁兎は狼を登良はそれ猟師かおばあさんか…」
「そうだな、俺の作ったままだと不恰好だからそれも直してほしい」

紅郎となずなが話をしているのを聞きながらふと時計を見ると始業のすこし前だった。そろそろ時間だから戻るね。と告げると、放課後に放送室な!と言われて登良は返事をして、三年の教室を後にした。新しいことができて嬉しくなった登良は浮かれ足で歩いていると、椚先生に見つかって、ちょっとお小言をもらったが、それでもちょっと嬉しくて、浮き足だって帰ってった。



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