俺と不羈!女神のトラブルライブ 5 





土曜日に『Diana』と四部目のレッスン。俺のレッスンが始まる前に、四部目の最終確認をするつもりなので、俺は始発で電車に乗り込む。睡眠時間?んなもんねえよ。日曜日に回すっての。一日借りたレッスン室で音をならしてさっさと体を暖める。十二分に暖めたところで昨日のおさらい。『Ra*bits』のメドレーと『Switch』のメドレーを通してから四部目の確認作業に入る。時計を見ると朝7時。レッスン開始は9時なので、残り二時間。ひたすら音に会わせて、がっつり振りを決めていく。昼からは四部目の構成の説明だから残りの部分をすべて埋めておかねばならない。がっつり決めて言っている間にちらほらとメンバーが揃ってきてもとりあえず俺は時間までがっつり決めていってる間に、一瞬足が縺れて転んだ。音の派手さに驚いて仁兎が駆け寄ってきた。

「おいおい、ゆらぎちん、大丈夫か〜?」
「ん、平気。ちょっと足がもつれた。」

外も暑いんだから水分も睡眠もちゃんととれよー。目の下にクマできてるぞ。と指摘されて昨日寝てねえし水分とってねえし、やべえ、熱中症一歩手前と自覚して、水分とろうと仁兎の手を借りて立ち上がる。ふらっとしたが、なんとか持ち直して、一旦水分補給。朝飯食ってないことを思い出して、つむぎくんからおにぎりをたかっておく。具はおかか単体。ちょっと彼は怒り気味のようだ。まぁ、胃に納めるけど。始発で勝手にいってごめんって。明日の家事は全部俺がします。と交渉して機嫌を損ねないようにする。つむぎくん、ごめんって。朝起こさなくて。でも毎回起きない君も君だからね。
一息つくと、時間は9時。レッスンが開始。

基本的に今回は身長を揃えつつ、ユニットでまとめつつダンスセンスを合わせて男女役を俺が決めた。女役に身体能力のある天満と仁兎と夏目と俺。男役に紫之と真白と宙につむぎくん。『Switch』は人数の都合上、一人身の俺のペアと決定した。身長差もそんなにないしね。ちょっと俺センターで大丈夫ですかね?とか言うから難しい女役がいい?と聞けば、丁寧にご遠慮された。女役楽しいのにな。食わず嫌いはもったいないぞ。と思いつつ『Diana』のレッスンが本格的に始まる。
軽く男役と女役の共通項から説明して、男女の差分を説明する。最初は困惑しながらの『Ra*bits』一年に解説しているとある程度理解したらしくだんだんと踊れるようになってくる。一年たちが大体踊れるようになってから、音を鳴らしてぶっ通しの練習になる。俺は一通り踊れるやつから指摘をいれていく。
天満、高いからもうちょっと隣と合わせろ!と宙、ちょっと遅れてる。と躍りながらなので俺も声を張り上げて怒鳴るように指摘を入れる。
アイリッシュダンスは横一列に並んだときが一番美しく見えると思うので、横との高さを声高に指摘を入れる。今回の靴は俺以外は普通の靴なのでそこまで音は響かない、俺が靴にそこそこの仕込みを入れつつ細工の予定でいる。のでとくに高さを中心に据える。遅れない、高さを合わせる。そこに注視していくと、だんだんと紫之がよたった。

「紫之!軸ぶれてる!背筋伸ばせ!」
「ごめんなさい!」

あ、あの目だ。今年の春、あいつらの卒業式の時に見た目だ。俺を下げすさむような憐れむようなあの目だ。脳裏にこびりついた記憶が頭の中を走ってった。畜生、切り替えたつもりが俺の中に未だにくすぶってやがるの。どうも俺の中の独裁者が大君主が顔を出しているのに気がついた。あいつらに言われて、変わろう。とかお思ってたのにかわんねえのな。人間って。ほんと、ヘドが出る。俺が求めすぎて望みすぎて捨てられたのに、また同じことを繰り返そうとしている自分が情けなくなってきた。それでも、笑顔を張り付けてそのまま音を流しっぱなしにして、『Diana』メドレーが終わると休憩しようぜ。と俺は声をかける。時計を見るとだいたい12時。一時間半後に四部目やるぞー。と声をかけてから俺は杖を引っ付かんで部屋を出た。汗だくだし着替えもせず財布も持たずにタオルだけつかんで廊下を歩き出すと、つむぎくんにお昼ご飯食べましょ〜と二人分の弁当箱持って追いかけてきた。

「ゆらぎくん、様子が変だなって思って心配なんですよ。みんな。」
「…………弁当だけ貰ってく。一人にちょっとなりたいから、放っておいて。頭冷やしてくるから。」

そういうときってろくな事になりませんよ。俺でよかったら話してもらえませんか?と首を傾げている。俺はもう文句を言う気力もなくなって、つむぎくんからお弁当箱をひとつ奪って、好きにすれば。と吐き捨てて歩き出す。つむぎくんはペラペラしゃべってるのを俺は聞き流す。つむぎくんは返事の要らないようなことばかりをしゃべってるので、ほったらしにしてそのままフラフラ歩みを進める。1時間半もあるし、屋上か海まで出るかな。と思考を鈍らせていく。それでもつむぎくんはなんだかんだと今日のお弁当の中身を喋っているので好きにさせる。海行くかと方向を定めて、杖をつく。学校が大海原に面していることもあって砂浜への出入りもかなり楽だ。適当な場所に腰をおろせば、つむぎくんもならって横に座る。とくに喋ることも無くなったのか、つむぎくんもだんまりを決め込んでいるので、俺は遠慮なく弁当箱を横に避けて、ぼんやりと海を眺める。夏の始まりなのに空は微妙な具合で俺と一緒だな、とかおもいつつ思考をぼんやりと巡らせる。そもそもどうして俺がここまで求めていたのだろうか。

「俺って高望みしすぎかな。」
「そうでしょうか?」

望むだけ虚しいのにな。なんでこんな足になっちまったんだろう。そもそも自分でユニットを作らなければあんな事故さえも起きなかっただろうし、俺は杖をつかなくていいはずだ。そうやって考えていくと、思考の坩堝にはまってマイナスの方向に思考が寄っていく。そのまま視線を下げれば、俺の具合のわるい足が見えた。

「俺はゆらぎくんの躍りに関してストイックなところは羨ましいですけどね。」
「そんな権利も義務も果たしちゃいないよ。俺の元には誰も居ないんだって。」

かつてトップを走ってたって、そんな過去の経歴は波のように消えていく。今じゃ誰もが見向きをしないユニットにまで落ちたのだドリフェスだって出場規定にぎりぎり引っ掛かるように生徒会がなんとかしてくれてるから成績だって辛うじてのものだし……メンタルがマイナスに走っていってるからか、思考も引っ張られている。ため息をひとつつくと、でも今はどうですか?とつむぎくんが言う。

「『Switch』も『Ra*bits』も居るじゃないですか。今回のライブに『Switch』志願したのゆらぎくんがステージに立つ。って言うから俺が夏目くんをそそのかしました。なずなくんたちはどうであれ、俺達『Switch』はゆらぎくんと一緒にステージに立ちたいからあんずちゃんに声をかけました。まぁ、俺が『Diana』と同じステージに立ちたかったのもありますけど。」

ゆらぎくん。君は一人じゃありませんし、一人にさせるつもりはありません。みんなで歩いて行きましょう。一人で歩けないなら、『Switch』と『Ra*bits』が手助けしてくれますから。大丈夫です。一人じゃありません。今は俺たちが君の民ですから。
榛色が柔らかくほそまる。つむぎくんはそっと俺の手を握って俺の目の高さにあげられる。

「大丈夫ですよ、ゆらぎくん。俺たちが証明して見せます。だからとりあえずご飯を食べて元気を出しましょう?」

つむぎくんの言葉が一つ一つ俺の中に染み渡っていく感覚がする。そう思うと俺の腹が安心を覚えてか空腹を訴えた。なんとも締まりのない空気になって俺もつむぎくんもお腹を抱えて笑った。とりあえずご飯食べよう。と思って蓋を開けたら白ご飯の上にじゃこおかかチーズがのってて俺のテンション暴上がり。俺ってもしかしてつむぎくんの手のひらで踊らされてない?って思いつつ二人でご飯を食べて、休憩がてらに俺は踊りたいままに踊る。つむぎくんには呆れられたけど、俺のストレス解消法なので黙って見てくれてる。時間まで踊って、四部目の説明のためにレッスン室に戻ると、音楽がかかっててそっと中を覗くと仁兎と夏目が主体となって一年生たちの特訓をしていた。そんな光景に俺は泣きそうになって、つむぎくんに飲み物無くなったの忘れてた。なんてまた嘘をついて買い物に走るのだが、財布も持ってなかったので、つむぎくんに買いに走らせて、俺はそこで気配を消して小さくなって泣いた。



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