俺とスカウト!ビブリオ。 4
つむぎに落ち着かないと、傘持たないですよ。と言われたので、とりあえず一人にしてもらう。同じ部屋にいるが、俺に触れないでほしい。色々頭の中で朔間兄をぶち殺す想像をして、思慮を深める。そして落ち着かざる得なかった。ぼんやりと思考を纏めて落ち着くころには蓮巳がドヤ顔して部屋に入ってきた。意識をふっと戻ったときに声が聞こえた。「戻ったぞ。さぁ、好きなメガネを選べ。」部屋に入ってきた瞬間に、蓮巳がそういう。それと同時に俺の目の前は酷く平和な世界が広がっていた。なんだよ、平和かよ。
「えへへ、どうですか高峯くん?かわいい感じでまとめてみました〜!ゆらぎ先輩と同じ感じにしてみました〜。」
はっとして、髪に触れてみると結われた後があった。
俺は常時後で一つで結っていたがそれもゆるく結われている。…あ、これいいかも。なんて思って自分で結び目をぱしぱしと上げ下げする。
「いや、俺に審美眼とか期待しないで。わかんない、髪型なんかどうでもいい気がするけど?」
ゆるい網目とほどいたらつむぎに余計に似そうな気がしてきた。俺結うと癖直ぐにつくんだよなぁ。とか思っていると「何をやっているんだ貴様ら」と呆れた目がこっちを見ていた。ほっとけオレ関係ないと主張してみようかと考えたが結われてる頭じゃ説得力ねえなと思って飲み込む。
「何をやっているんだ、貴様らは」
「あ、御帰りなさい敬人く〜ん!本当に早かったですね、有言実行ですね!」
「どういう状況だ、青葉?見た感じ、後輩たちに髪の毛を弄られているようだが…?」
「嫌ならちゃんと言った方がいいぞ、貴様らはなんでそう弱腰なんだ?」
おれも含まれてそうだな。とか思っていると、説教は勘弁してくださいね。俺が駄目なやつなのは自覚してますし、ゆらぎくんの精神は図太いのは知ってますが、事細かに指摘されるとさすがに凹みます。べつに嫌ってわけじゃないですし〜。雨の湿気で髪の毛が憂陶しいって愚痴ってたらこの子たちが結わえてくれるって言い始めて、ゆらぎくんはだいぶ考え込んでたので、なんでもうんうん言ってくれたんで、にたような風にしてもらって、好き放題されちゃってます。
杖もないし、返事もないゆらぎくんと眼鏡がない俺はなにもできませんからね。敬人くんの待っている間の暇つぶしにもなるかな〜って。
ゆらぎくんも長いし熱いよね?って聞いたらうん。って言ってくれたからね。と言うが、俺はひたすら脳内で朔間をどうにかする案ばっかり考えてたから返事した覚えはない。まぁ、別にいいけど。前から何度も言っているが髪が鬱陶しいなら散髪をしろっていうから、じとっとした目で俺は蓮巳を見ておいた。
「いやぁ、願掛けしてるからきれないんですってば」
梅雨の時期はほんと湿気でくるくるカールしちゃって、肌に当たってくすぐったいんですけどね。ゆらぎくんみたいな真っ直ぐなのもいいですよねぇ。とかいうから、俺と変える?とふざけるとううん。と言われて、そ。と返しておく。
「わかります〜、僕も『Ra*bits』の方針で髪が切れないんですけど、この時期は蒸すし櫛も通りにくいし大変ですよね」
紫之がうんうん。と頷くので、高峯お前は?と振ってみる。俺はそんなに。とか言われたので、いいなぁ。楽そう。とカラカラ笑った。つむぎくんは今の髪型は似合わないから夏目に怒られるとか言いつつ、全員でおそろいのメッシュ入れてるんだから仲いいよなぁ。ってふと思った。俺達『Diana』はそんなことなかったな。とふと思う。男役女役でやってもよかったなぁ。って今更の思考が思う。
「髪型ぐらい、好きにしたらいいとおもうんだけど。これから夏になるわけだし、長いしほんとに暑苦しそうだね。」
「ふふ、まぁ長いと便利なことも多いんですけどね、ねゆらぎ先輩。」
妹が新しいヘアスタイルに挑戦するときにぼくの髪を弄って試したりしますしストレス発散なのかよく延々と三つ編みにされたりもします。だから『お兄ちゃん、髪を切らないで!』って言われます、妹には好評なんです。弟は何か、ぼくが髪長いと女のひとみたいだからって。恥ずかしがって一緒にお風呂に入ってくれなくなったんですけど。
ちょっと嬉しそうな紫之が頬をかく。弟や妹思いのいい子だね、思う。さっき高峯との話を聞いてると、どうも兄弟は多そうなことを言っていたから、たぶん面倒見慣れているんだろうなと判断する。
「あはは、どうでもいいですけど。髪を弄られながらおしゃべりしてると床屋さんにいるみたいですね〜」
「そうですか?お客様。今日はどんな髪型にします?毛先を切りそろえる感じでしょうか〜?」
なんて床屋ごっこを展開してるのを見ながら、その光景に一人クスクス笑う。高校の図書室で繰り広げているのがちょっとおかしくて、昔のユニットを組んでいた時を思い出した。馬鹿みたいな話して振りのはなしと歌の話を一日して、飯食って寝る。それだけがとても楽しくて、とても懐かしい。
「やっぱり、誰かと一緒にいると楽しいよな。」
「え?」
「なんでもねえよ、高峯。気にすんなよ。」
へらへら手を振ってやると、楽しそうでなによりだな。と蓮巳が俺を射た。ぎくりと一瞬体が固まったが、へいぜんと取り繕って、だろ?と笑ってみる。戻れないものだから近くのものに姿を重ねてしまうんだろうなぁ。と今更ながらに思う。
「あ、ごめんなさい。図書室で騒いじゃ駄目ですよね、反省します。」
「いーっていーって。どうせ誰もいないし、今日だけな。」
「そうだな、ほかに利用者がいるわけでもないしな、大目に見よう。そんなにかしこまらんでもいいぞ、紫之。」
「副会長さんは、『紅月』のひとは、ぼくたちに興味ないのかと思ってました。」
「意地悪な言い方をするな」
生徒会は比較的嫌われやすいからだよ。と言ってやると睨まれた。だってそうじゃん。と笑うと、おい。とすごまれたので余計に笑う。あぁ、酷く懐かしいなぁ。と感傷に浸りそうになって、ゆるやかに頭を振る。肩に乗ったゆるい結び目は綺麗に編まれていてわずかな短い髪がちょっとづつ出ているだけだった。きっとこれでジャケット撮影とかしたらこのあたりは修正されるんだろうな、とかしょうもないことをぼんやり思う。
「なかなか見た目より骨があるようだな。むしろ好ましい態度と言えるだろう。」
噛みついてくるなら相手になってやるぞ、いつでも食って掛かってこい。と蓮巳が言うからじゃあ俺がそっしよかな。と俺がかみつき返してやろうか。和だって、日本の伝統文化だからな、っていうとぐっと一瞬蓮巳がひるんだ。ま、しばらくまだうごけないけどさ。と言ってやると「ゆらぎくんはまだ踊っちゃ駄目でしょうに、ここは平和に読書を楽しむための場所ですよ。」とたしなめられる。つむぎくんにめっ、とか言われると言い返せなくなって、はいはい。と返事をしておく。
「それはそうだな。それよりも青葉、この時期は図書委員会の作業があるだろう、生徒会の業務は一通り片付いたしよかったら手伝おう。」
「え、いいんですか?助かりますっ、ありがとう敬人くん」
お礼など言うな、と首を振る蓮巳が、気にするなという。前々は図書委員をやっていたらしい、…やってたっけ?と俺は一人首を傾げる。どうしたんすか?と高峯に問われたが、なんでもない。思い出し作業だよ。思い出せないだけだからいいんだよ。どうせどうでもいいことだよ。と伝えて、最後に心の中で蓮巳の図書委員だなんて。と付け加える。
「ふふ、敬人くんはひとつの言葉にいろんな意味を含ませますね、読解力が必要ですよ〜ゆらぎくん並みに面倒くさい人ですね。」
「つむぎくん?俺の性根ひん曲がってる話はいいから眼鏡を選ぼうか、じゃないと俺は蓮巳から杖すら返してもらえないんだが?」
「あぁ、そうでした。敬人くんどれがいいです?」
なんか重たそうな話だからとそっとそらす。一年は不思議な顔をしているが、いいんだよ。俺の根性がひん曲がってるとかそういう話は。いいんだよ、過去のルールの目を掻い潜ってアングラ夢ノ咲生活してる俺の話は。
「貴様にあったフレームをいくつか用意した。レンズも種類があるからどの調整も可能だ。」
「わわっ、重ね重ね助かります。なんでそんなに大量にいろんな種類のメガネを持ってるんですか?」
…眼鏡フェチ。ぼそっと俺がつぶやけば、それを聞き逃さなかった蓮巳が俺の頬をつねる。おい、これでも仮にもアイドルの顔で遊びやがって!
「何かに愛着を持つと、とことん追求してしまう性質でな普通に寺を継いでいたら、いつか即身仏になっていたかもしれん。」
「なってるだろ。」
「青葉兄、お前は!」
つねられた頬に先ほどよりも力が入った。ちょっと爪は立てんなよ!と言うと、蓮巳は度し難い。と言って俺の両頬から手が離された。ひりひりする頬を冷えた手で撫でる。大丈夫ですか?と紫之が問いかけてくるから平気平気、もうちょっとしたら落ち着くだろうし。と両頬を撫でながらむーと唇を尖らす。これで痛みが減るわけじゃないけど、なんとなくましになった気がする。
「死んだら何にもなりませんよ〜、長生きしてくださいね、俺もそれが許される限り、そうするつもりです。まぁ、無理そうだったら来世に希望を託して首を吊りますけどね!」
「輪廻転生などない、すくなくとも俺は認めん。今、この人生を頑張れ」
「つむぎくん、怒るぞ。」
「ゆらぎくんまで怒らないでくださいよ。」
自分で言った事に胸中てて聞いてみろ。お前、俺がそれ言うと怒るくせに自分は言うのか?おい、がたっと立ち上がると、蓮巳に座れと宥められて椅子に座りなおす。
「お前のセコムが煩い。生きてればかわいい後輩に髪を結わえてもらったりとか、いいこともきっとあるだろう。」
「セコムっていうなよ。」
「それ以外に例える言葉はない。」
「あるだろ、ほかにも!」
高峯が意外とこの二人仲悪い?とか紫之とひそひそ話をし始める。椅子をちょっと後ろに倒して、おいそこきこえてるぞ、と笑ってやると紫之も高峯も油が切れた機械のようにギギギギと動いて頷いた。わかればよーし。と頷くと、椅子をもとに戻す。うんうん、と頷いて、話をしててもしょーがないからほーら作業してこーい!と俺は全員を本棚の方に送り出すことにして、昔を一つ懐かしむことにした。
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