俺と『Diana』と転校生。 





昼休憩のときに、教室を出ると守沢が声をかけてきた。つれてってやるの申し出を礼を言いつつ丁重にご遠慮しておく。俺の目的はあまり見られたいものじゃないからね。んじゃ。と返事して杖一つと財布や携帯をいれた鞄を背負って動き出す。のたのた動く目的の先は図書室。漫画専門読書家の俺が図書室とか、草生えるけど夏目ちゃんやらの、秘密の地下室やら行くのにたまに顔を出す。いや、そっちが目的じゃないけど。とりあえず時間中に教室まで帰れるかが俺の問題だけど。あー左膝さえきちっと治ってれば右手に杖なんてつかなくていいのにな。ぼやいても仕方ないんだけど、喧騒を掻き分けながら人通りの少ない方を目指しつつたどり着く。古びた引き戸を開けると行くと弟がカウンターに座って読み潰した本を開いてた。まぁやつは図書委員だからいても可笑しくないんだが。俺の目的はそちらではない。別に弟に会うならばふつーに隣クラスにいけばいいんだし。

「ゆらぎくん、どうしました?」
「映像借りに来た。転校生にせがまれてたの思い出してさ。どっかに動画上がってるんだろうけど。いやーあれは見せれないっしょ?」

どれ。とは言わないが、つむぎくんは一瞬考えてからどのゆらぎくんがいりますか?と聞いてくる。待って俺一人しかいないんだけど?!まって、君の兄ちゃんどんだけいる?一人だろ!?聞いてる?ねぇ、つむぎくん?話聞いてる?

「メンバー全員お揃いの姿してるやつがいいなぁ」
「じゃああれとかどうですかね。とってくるから待っててください」

あんがと。と杖を持ってないほうの手を上げて返事をするとつむぎはすっと消えてった。それを目で見届けてから、一番背の高いスツールに腰掛ける。昔いたユニットってか今もいるユニットなんだけどさ。ぶっちゃけ俺一人だからユニットもクソもないんだけど。ユニットに月の女神の名前だなんて、なにかんがえてんのかね。あのときの俺。最初はそりゃあ中学の延長線上だったから、うわー!!中二病うけるー。とか言いながらやってたけど。慣れたら慣れたで耳に馴染んでるんだもんな。ディアナ。まー民族音楽とかそういうのやってたからフラメンコからケルトやらタンゴにジルバとラテン系やらまで手を広げたが故に…ペアダンスまでやりはじめたら収集つかなくなって、最終的に…。

「ゆらぎくん。ありましたよー、『Diana』でゆらぎくんの女装のが」
つーむーぎー?俺さんざん、伏せてたよねー?あの神出鬼没の転校生の耳に入ったら俺の次の衣装がそうなっちゃうじゃんー、ねぇってかつむぎの横でニヤニヤしてるし。なにあのこ、どこにでも居すぎて怖いんだけど。待てつむぎ、転校生にそのビデオ見せんなぁぁああ!転校生、お前もだよ。親指たてて走って行くなよ!あの生徒会メガネの蓮巳に会ったらおこられっぞ!走るな!止まれ!待って!俺のペアダンス!ぁぁあ!俺走れる体が今すぐほしい!ふと視界のなかにつむぎが見えた。

「つむぎくん、お願いだから転校生ちゃんの手にあるポルカの…いや、映像資料を奪い返してくれ!貸し出しとかの見張り番はやっとくから!」

言い淀むつむぎくんにあとひとおしといわんばかりに、「取り返してこなかったら次の企画の時にお前らのユニット女装するように進言すっぞ!!」と言えばつむぎくんは慌てて走っていった。きっと夏目の暴行に恐れた。と思っておこう。うん。そうだよね。きっと俺そうだって信じてる!三十分後にホクホクした転校生とげっそりしたつむぎくんが帰ってきたので次回は俺もSwitchも女装が確定した瞬間だった。あの転校生だんだん力つけてきてんだけど、あのこ何なの?女子だよな?男子学生が足追い付かないとか…いやつむぎだからか。うん。三毛縞や守沢なら追いかけれただろうに。守沢に断りを入れたことにひどく後悔した。




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