俺と疲労と金色の風・励ましのウイッシングライブ。 7 





あんずと夏目と一緒にステージまで戻るって、あんずを羽風が囲んだりして、始まるまでにほんのわずかなそれぞれが最後の時間を過ごす。ひたすら笑顔を張り付けた俺は下手側の近くにある椅子に腰を掛けて蓮巳やらといろいろ話し込んでいると、三毛縞がやってきた。

「ゆらぎさん、今回のライブに関して礼を言わせてくれ」
「あんずにいえっての。」

あんずがいなきゃこうやって作業してなかったからな。全然。気にすんな。と返事しつつ、正直三毛縞がぼやけて見える。熱上がってきてるのかも。と思いつつ、適度に話をする。ふと寒いとぽつりつぶやいて震えるように背筋に冷えがぞくぞくと走る。冬に近いこの季節衣装が長袖で本気でよかったと今思う。きっとこの衣装の下はとんでもなく鳥肌立っているのだろう。ペットボトルを額に当てたい衝動をぐっとこらえる。

「終わったら着替えてまっすぐ帰るからな。」
「わかっているとも、安心してくれたまえ。」

へいへい。と返事をしつつ、そのままこの後のライブに集中するために頭の中で音をかける。ずっと聞いていたからか頭の中で目を閉じても頭の中はずっとベースの音が流れている。熱に浮かされての震えか踊りたくてしょうがない武者震いなのかわからない。ただ、踊る時間が心待ちになる。

今回はライトも何もないから舞台の袖もへったくれもない、始めるぞ。と言う三毛縞の声に従って、指定位置にの前にあんずの横に俺の杖を置いて、三毛縞に回収してもらって配置場所につく予定なので俺は三毛縞を待つ。

「先輩も踊られるんですか?」
「本来俺が帰る場所だからな。ステージが。だからお前が帰ってきてくれてうれしいよ。」

おかえり、まってた。お前の場所は開けてあるからそんなに浮かない顔をするなよ。にしても寒いなぁ。と最後に小さくつぶやいて、この数日の話はまた来週にしような。と話をつけていると大喜びの三毛縞がやってきた。相変わらず頭に響くような音を鳴らして走ってくるから勘弁してほしい。

「あんずさああああん!歓天喜地!あんずさんに会えて嬉しいぞお!」
「このライブを計画したのは三毛縞先輩ですか?」
「何でわかったんだあ?さてはあんずさん、超能力者だな!な?ゆらぎさん!」
「いや、さっき羽風先輩から聞きました。」

じとーっとあんずが目線を逸らした。逸らしたくなるのはすごく解る。こいつらはキラキラしすぎだもんな。うんうんと頷いて聞き耳立てながら、ゆらぎさん行くぞお!と言ってくれるので俺は軽く手を挙げて三毛縞を制する。「あんず、目が足りないっていうぐらいの構成にしてるからとりあずたのしんでほしいな。んでほい。俺たちに必要な要素の一つだから持ってて。」ポッケからいろんな色に変わる学園仕様のサイリウムを手渡してからゴーサインを出して三毛縞に背負われていく。もっとちゃんと膝が治ってたら歩いて行ったのにな。と思いつつ、三毛縞は俺のスタート位置できちんとおいて頑張ろうな。と残してスタート位置についた。

音がなる、俺の作った振りで仲間が踊ってくれる。ハーモニーとうたわないところは基本ダンスをメインにしてる。俺は歌うのもだるくなってきてるのでひたすら踊りだけに熱中する。膝が激しく痛みも主張しているし、頭もきちんと回ってないけど、惰性で踊っているけれど音の波に洪水に襲われてとても気持ちよくて楽しい。今回の振りは偶数拍に合わせることとフォーメーションと合い打つようなパート割を絶対の約束にしているのでそれ以外はアレンジオッケーという方向にしている。だから、ひたすら羽風が隣でアピールしてたりするのも面白いし、ちょっとアクロバティックな動きの葵だったり、キビキビ踊っている蓮巳が見れてとても楽しい。ぼやけた世界でも見えてる色で朧気ながらに踊れてるのが楽しくて泣きそうになる。にじんでいる中でふらふらする頭でそれでも踊れてる現実が嬉しくてしんどくて吐きそうなのに、それでも喜びが勝る。きっとおれはこのために踊ってきたんだっていう感じがする、そのまま踊っていると件の仙石ソロに近づいてきた。あんまりうまいこと見えてないが、あんずの声が聞こえるので仙石も成功したんだろう。ふらっとなったがそれでもリカバリーしてるのを鳴上に見られてそっと耳打ちが入る。「ゆらぎ先輩無理してない?」「正直前見えてないけど、楽しいんだ!!」
ラインダンス始まるぞ!鳴上の手を取って俺の位置に立つ。はあ!とか言われたけど踊れてるのが楽しい。その声を聴いていたのか紫之がビクッとはねた。…俺のせいじゃないもんな。
そしてライブが終わりに近くなるのが惜しいと感じているがでもやっぱり一つの振り同士が楽しくて仕方ない。
ラストのサビが始まるころに見えてる世界に異変を感じた。
フォーメーション移動で見えるはずのない緑が見えて俺に声をかけた。「青葉」オケ音を縫って聞こえたのは参加しているメンバーだが声の主は解る。「お前、個々の配置じゃねえだろ蓮巳」「今回のサプライズにお前の分もあるラストのサビはお前だけのソロにしようと言った。踊ってこい。俺達参加者の全員の総意だ。」ぼやけていた視界が一瞬はっきり見えた。

「まじかよ。」
「ほら、ほんの少しだが働きすぎたお前のためのステージでもある。気にするな。最後のサビを好きに踊れ俺たちがフォローする。」

もしかしてと夏目の方を見ると、夏目がパチン。とウインクをひとつ。お前もグルかよと小さくつぶやきながら広めにとられた俺のステージがそこにあった。あたえられた餌だけどそれでも十二分に俺は所狭しと踊る。後ろなんてしらない、俺が気持ちよく踊れるソロだった。ライトも幕もないけど弾かれるようにステージに立って俺は飛び跳ねて膝の事も熱のことも全部忘れて短いエイトフォーの一部を力強くすべてなくなるほどの勢いで踊るのだった。
終わらないでと叫ぶのと同時に、どこか乾いてた気持ちが満たされていくような気もする。あんずが俺を見てる。俺が一人でもアイドルやっていけるけどやっぱり誰かと踊ってるのっていいよなって、強く思った。
音に包まれて音の翼で飛んで高く跳ねて遠くまで飛ぶ様に俺は残りの短い時間を踊りきる。心がひどく満たされた時間だった。後奏に入って俺は元のポジションに戻って曲が終わる。俺の忙しい時期も終わるのだった。
ありがとう、心楽しい時間をくれて。




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