俺とうちの事務所と斎宮宗。
『HestiaCraft』は、計画書通りに動くアイドルとして新米P用の模擬アイドルとしてESビル内で働いているし、創作するアイドルの版権管理や、四大事務所への依頼の総合窓口として案件を取り分けたりバックボーンが怪しいからと切り捨てたりするが故にめちゃくちゃ忙しい。職員俺一人。体は常に足りてない。
今日も企画書を確認した後模擬ライブをして、質疑応答とブラッシュアップと打ち合わせを行って、事務所に変えるとすでに西日が厳しい時間だった。うん厳しい。
まぶしい西日を浴びながらもうこんな時間かと考えると同時にため息が出た。情報収集やらのためにうちの事務所は事務員も誰もいない、俺だけの城は静かであった。作業用机と、打ち合わせスペースであるソファーセットと殺風景なのは、あくまでもアイドル達の仕事事前審査とP育成場所であるだけなので、外に開かれた場所でもないからだ。多分俺が本気出して内装するとアジアン調か北欧で本格的にまとめて、一人の事務所がめちゃくちゃコスト上がってしまうからだろうな、なんて考えて、自分でも疲れているんだなと、思った。
昼飯を買いに出ようかとも思ったけれども、空腹よりも睡眠欲が強くて、事務所のソファーで一旦仮眠をとるために横になった。大きく息を吐き出して、吐ききるころに揺さぶられていると実感した。
「こんなところで何も掛けずに眠るだなんて、何を考えているのだね?」
窓の外はとっぷりと日が暮れているらしくつけた覚えもない部屋の照明で明るく見えている。一瞬かと思っていたけれど、どうやら結構寝落ちてしまったようで、頭がまだ霞みかかったようでぼんやりする。起きるように目をこすりながらも、向かいで仁王立ちする斎宮を尻目に近くに投げ捨てたホールハンズで時間を見る。うん、だいぶ、しっかり寝ていたようだ。
「そう、珍しいな斎宮がこんなところに来るなんて。なんだったんだ?」
「撮影の余りだよ。撮影で食べきれなかったので差し入れだ」
「お、サンドイッチじゃん。」
ロールパンに挟まれた具材は先程できたような湯気を感じる。撮影のあまりだと言ってるのに湯気とはどうしてだか、不思議に思ったから目線をパンと斎宮を交互に見てたら、お前の弟が用意したのを頼まれたと苦々しそうに言っていた。
「昼食ってないからちょうど良かった。お前も食う?」
「僕はいらない。」
「じゃ、珈琲と紅茶、どっちがいい?飯食うの一人だと資料見てしまうから、付き合ってよ」
睨まれたけど、この間紫之から貰った紅茶あるけどどーする?なんて問いかけてみると、渋々というようにやっと腰をおろした。流石紅茶部。紅茶好きを唸らせる。
「僕がやる。任せるとろくな出来になりそうにないからな」
「あんがと。ポットとカップはー」
どこ置いてたっけと、思い出す間に斎宮はさっさと戸棚から必要なものを取り出していた。おい、勝手知ったるよその家、みたいなことだな。いいけど。どうせつむぎくんから聞いた情報なんだろう。と推測を立てる。つむぎくんは事有る毎にうちの事務所に来て、俺の世話をして消えていくけど、あいつ副所長だったよな。俺よりも忙しいはずなのによくもまぁかいがいしく世話できるなあ。なんて感想を持ってしまう。
「寮には帰っているのかね?あれが心配していたぞ」
「寮?最近帰ってない。」
俺の部屋は五人部屋で、『Ra*bits』『Valkyrie』『Knight』『流星隊』それに『元Diana』の俺で組まれている。
全員違う事務所で、比較的年かさの高い人間ばかりの部屋は、ある意味人のことを慮る者がおおいのも知っている。過去の経歴を大体洗い浚いしてるので、俺が知ってるだけなんだけれども。話がそれた、俺の部屋は、足のよろしくない俺がそこに帰るには結構時間がかかるからこそ、敬遠してるところもある。
「なぜ戻らん!お前にも心配する人がいるのをわかっていてその狼藉なのか!」
「わ、わかってるって、でも仕事が!」
「仕事ばかりで物事の本質を見失うなと過去にお前が言ったことだぞ!青葉ゆらぎ!」
「多分違うぞ!意味合いが!」
差し入れだって、お前を心配した弟が手早く作って持っていてくれと頼まれたものだ。戻ってるのかと探りを入れたらうち小鳥が感づいてピーチクパーチクと心配してうるさい程連絡をよこす次第だ、周りがお前を大事にしようとしてるのだ、解れ。
そんな癇癪起こしながら俺の口の中に暖かなサンドイッチを詰め込むから、俺が窒息しかけた。あいつ、俺を殺すつもりか?なんて勘繰っても仕方ない照れ隠しを同室から聞いてるし、去年一年付き合いがあるから知っているけれども。
あ、待って。呼吸できてない。ストップ斎宮!!
辛うじて手に取れたホールハンズで適当に連絡ボタン押したけど、その1分もしないうちに斎宮のとこのやつが来た。いやいや、早いんだけど『Valkyrie』って名前変えろ。『Hermes』かなんかにしろ。お前ら。
近く通ってたってなかなか苦しい言い訳をありがとう朔間一番上の兄ちゃん。って言ったって、俺より年下なんだけどな。解放された俺は、ゆっくり飯を食べながら滾々と説教されてる斎宮と怒る同室の朔間とでサンドイッチを食べることになったし、俺の方にも部屋にもどれだとか言われて、返事しにくかったよね。お前の気持ちがよくわかった、斎宮。
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