■ ただひたすら。
月の接近を止めることができて、世界は平和になった。
平和になって、真っ先に今回の仲間だけで彼女の弔いが行われた。遺体も何もないけれど。先の大戦でも何も出来なかったのだから、今やるべきだとセシルが言い出したからだ。遺品として、セシルが持っていた彼女の手記と彼女が愛した本を俺が受け取った。セシルが持っていた方がいいと伝えたのだが、彼は王だ。長く代々受け継ぐにしては中身は酷く重たすぎる。一度魔物に乗っ取られた歴史を認めたものは、王が持つには相応しくない。というのがセシルの弁だ。確かに代々受け継ぐモノに語るようなものとして保存するには分が悪いだろう。だけれども、本に罪はない。俺はセシルから遺品になるものを受けとると、その足で誰も使わなくなった本棚に彼女の本を納める。本飾っておくよりも読まれるのが本望だろう。その中に、本来なら俺に届いてはいけない手紙を一枚入れておく。彼女は誰かに知ってほしかったのだろうけれど、その誰かは俺ではない。でも、誰かの目に触れさせるのは、違う気がするので人通りの少ない。ましてや国の上層部しか使えない本棚にしまうことにした。何十年も経ってから、彼女の思いは日の目を見てくれ。そんな頃には俺もそっちにいってるだろうし。今まで俺に、俺たちに片鱗さえも見せつけなかったのに、盛大な証拠として残したメロウが悪い。綺麗な人なんだから、俺たちが居なくなってから位、日の目を見てほしい。
彼女は知らないだろうけれど、君を狙っていた男を俺はたくさん見てきた。そのたびに俺とセシルで色々と画策したこともあったのだ。幼い頃の思い出として笑ってくれたらいい。まぁもしかしたら、俺たちは守られてたし守っていたのかもな、なんてこれを書きながら今思った。
どうしてこの手紙を書いてるかだって?
彼女は俺に一言書いてくれた。十何年も過ぎて俺が漸く前を見ることが出来るようになったから、彼女に対しての御返事みたいなものだ。届いているかもわからないけれど、また瓶に入れて海に投げてみようとおもってる。前に海で流した手紙は、月に置いてきた手紙は、彼女に届いてるかなんて調べるつもりはない。届いてるかもしれないけれど、それは見なかったことにしてほしい。俺も見てない振りをして、手元に君の文字を置いてるのだから。おあいこだろう?とか思っているけれど、俺も彼女のようにこのバロンに一文をしたためて隠しておく。これで俺もお前もいつか誇らしくて恥ずかしくて懐かしい記憶がいつか陽の目にあたる可能性を出してるんだから、納得してくれ。幼馴染み。一人だけに恥を欠かそうなんて思ってないからこうしてるんだ。
とにかく、君は三度死んだ。一度目は人としての、バロンに殺され、人の意識を持ちながらも自ら死を選び、三度目は俺が。この手で殺した。今でも時折、あの時の君の顔がこちらを覗いてくる。俺はそんな過去をもすべて受け入れていく。そう決めた。自分の汚さも、思いもすべてを受け入れて、抱えて大事に持って歩いていく。そうして、亡くなった君に一歩一歩近づいていく。もしもいつかその隣に立つ時が来たら、その時に俺は。
ただひたすら。
君に祈るよ。メロウ。
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