■ 安らかな終焉を。
これを読むかもしれない誰かに。
今日、彼女と会った。運命は一気に走っている。そう思わざる得なかった。
世界から仲間が集合し、月の深淵に向かう休憩の時だった。ミシディアの白魔導師が慌ててコテージに駆け込んできて、セオドアが魔物と出会った。と言う報告を聞いて、俺は槍を持って一気に駆け出した。黒魔法の雷が見えた瞬間にクリスタルの記憶から生まれたのかラミアのような魔物が一つセオドアと向かい合っていた。背中ががら空きだったので、槍で一気に蛇の肌と人の肌の間に槍を突き刺して飛ばす。戦う目をしていないセオドアに安否を問いかけるとセオドアから耳を疑う言葉が聞こえた。カインさん!僕は大丈夫ですけど、彼女が。そんな言葉を聞いて、魔物に同情をするなと怒鳴る。クリスタルの記憶は、俺たちの命を何度も奪おうとしているのに、なにを悠長なことを言っているんだと心やさしい少年騎士だが、ここまで甘いとはなんて一瞬で考えた、
「でも、彼女は僕の父の名前を嬉しそうに呼んでました」
「何!?」
驚いて投げた魔物の方を見ると、赤を吐き出しながらも笑顔を作ろうとしている亡くなったはずの幼馴染みがそこにいた。腹から赤を流して、苦しいはずなのに、憂いを帯びた目でこちらを見ている。青白い顔をして、水を纏い腰から下をくすんだ青緑のひれを持つ幼馴染みが泣きそうになりながらこちらを見ていた。俺はそちらによって、起こして背中に膝を入れる。彼女の体は氷のように冷たく、俺が触れるとか細い声で熱いと泣いた。
「メロウ!今ケアルを」
「熱い、要り……ません」
ゆるやかに首を振り、やわらかな拒絶を示すが、それはだめだ。せめて、ローザに会ってくれ。セシルにも会ってくれ。と俺は思った。俺が止めを刺しておいて、という話だが、人としての意識を持っているメロウをすこしでも長くあの笑顔が見たくて、見せてあげたくて何を、言っている!と怒声を吐き出すが、彼女は自分が魔物になった事を理解してるのから、回復も要らないと辞する。そんなことはさせたくない一心で俺はケアルの口上を連ねる。俺の回復量は微々たるものだろうけれど、せめて彼らに会うまで持つようにと、祈りを込めて魔法を練る。それでも、彼女は段々弱く息をはいて、人でも魔物でもない私を切り捨てろと言う。馬鹿か、お前はそんな姿をしていても人間だ。ずっと人間だった。人の心を持って魔法を暴走させる瞬間まで、死ぬまでも死んだ今も人としての意識を持っているのに。
「あなたが、熱い……ですよ」
「セオドア、ローザを呼んでこい!」
せめてローザに会ってくれ。そう願いながら練り上げたケアルを放つが微々たるものだった。緑の光が彼女を包むが彼女の足元のヒレの端のほうからキラキラとクリスタルの欠片を溢しながら色をなくして消えていこうとする。お願いだ、消えないでくれ。祈る様に俺は彼女に言う。逝かないでくれ。あとすこしなんだ。そう言えど、彼女の瞳の焦点が俺を捉えなくなってきた。キラキラ光るクリスタルは砂のようになって俺の手から重さがなくなっていく。力なく彼女の頭が俺に寄る。息しか聞こえないけれど、唇が小さく動く。音はなく、ゆっくりい一文字づつ言っている気がするが、彼女が何を言いたがっているのかわからない。待ってくれ、あとすこしなんだ。ローザとセシルの声が俺の聴覚に届いた瞬間。彼女は俺の手から消えた。クリスタルの欠片もなにもない。ただ、わずかな水分だけが彼女が居たと教えてくれた。
消えてほどける瞬間まで彼女は、あの時のバブイルの時みたいに穏やかに笑って俺を見ていた。十何年も前が、さっきのようにも感じた。
彼女を亡くしたのはこれで三度目。
また彼女は何も残さず消えた。もう少し俺のケアルが上手だったら、セシルもローザも一言交わせたかもしれないのに。二人に謝ると、ううん。メロウはきっとカインの腕の中で息を引き取ったのなら、本望だったかもね。と言う。俺が最後でよかったのだろうか。と俺は思っているのだが、彼女はどうなんだろうな。いつの時代の彼女が呼び出されたのかはわからないけれど、彼女を無駄に苦しませた。魔物として聞いたから、大事な部下が親友の子が魔物に襲われてると判断したから、攻撃をしたのだが。もっと冷静な判断が必要だったのかもしれない。もっと傷が浅かったらと俺は後悔してるので、俺はこうして寝ずの番をしてる最中に彼女に対しての手紙を書いている。あとで、セシルやローザに見つかると、やっかいなのであとで、こっそりここを発つときに置いていこうと思っている。たぶんないだろうけれど、ここに誰かが来たときにこれを読んでいる人がクリスタルの記憶の中から攻撃もしない優しい彼女と出会ってもしかすると手伝ってくれるかもしれないからだ。まぁ、その時には青き星に月がおちて、ほぼほぼの人間が亡くなってるとは思うが。
俺たちで止めるつもりだけれども、もしも。の時ぐらいの気休めに、そしれ俺の気持ちの落ち着けるためにこうしてるのだ。
そう言えば、今回の彼女の登場に、先の大戦で彼女を処刑したゴルベーザが酷く胸を痛めていた。部下ルビカンテの部下ルゲイエの暴走によって起こった事件は、ゼムスに操られていた時でもきちんと覚えてるようで、心を砕いていた。もしも次に会えたならば、彼女に謝罪をしたいと言っていたが。きっと彼女の事だから、すべての事情を聞いたあとにあなたも大変でしたね。と言ってるような気がした。誰にでも分け隔てなく優しい彼女が、この場所にいたら。なんて考えてしまうのは、俺が年を取ったからだろうか。幼馴染みの姉の年齢を追い越したにも関わらず、俺はまだまだのように思えてきたし、今晩はとても長くなりそうだ。寝ずの番の俺の横で、弔いも出来なかった彼女のために魔導師たちが氷で作った花を置いていこうと必死になって魔法を練り上げて、出来る限り溶けないようにと動いてるのだから。
安らかな終焉を。
翌朝出発するときに、この手紙は置いて行く。
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