■ 愛するために。

先の大戦でバブイルの塔は巨人の登場により崩壊し、一部は海に沈んだと言う。そして彼女の遺体を回収するために赴いたけれど、それもどこにあるかが解らなくて、結局遺品としての紙束しかないという報告を、男三人で月に向かう最中に聞いた。彼女は本当に泡のようにおとぎ話の人魚姫のようにわずかばかりの記憶だけを残して姿も形も亡くなってしまった。
月に向かう最中で、彼女の手記にあたる回収した紙束の詳細をセシルから受け取って一通り目を通したのだが、それは完全に彼女の死ぬためにやってみる。という事態に至るまでの記録だった。幼い頃からの記憶を纏めるために書いていた。ただ闇の歴史としてという一面を持つそれは彼女の性格のまま書かれていた。セシルと俺が喧嘩をした。ローザと一緒に仲を取り直した。カインが入軍した。ローザと一緒にケーキを焼いて、カインがローザの手作りと聞いて喜んでいた。セシルが笑って話してたりしてた部分もあるけれど、これを読むと姉は本当に俺たちをよく面倒をみていくれたのだな、と一連の事を思い出したのは、試練の山の山頂からバブイルと海が見えたからだ。ふと思い出す記憶だった。
それと関連して浮かぶのは、ルビカンテから差し出された手紙の事を思い出したのも同じタイミングで。
バロンに立ち向かうから書き出されてる手紙の中にはを海に流してください。と書かれていたが、どこに届くのだろうかと沈んでいく太陽をみながら、おれは思う。もしかすると、姉はルビカンテをただの人だとかんがえていただろうか、いや、そんなことはない。鼻と勘のいい姉だった。カイナッツォだって臭いで。なんて手記に書いてあった事を思い出した。姉は、なにを考えてルビカンテに手紙を渡したのだろうか、あれだけの文言を検閲されなかった事事態、いや、されてもルビカンテはそのままにしたのかもしれない。俺たちを倒せると踏んでたのだろう。だから、バロンにたちむかう。と書いてたのかも、今更な事をかんがえていたが、もしかすると海に姉はどこかでただよっているのかもしれない。なんて夢や幻のような事を思ったりした。
世界を放浪してから試練の山に居続ける間に、セシルたちにも情報が行った見たいで、半年に一度ほどの定期でバロンから連絡が来る。毎回叩き返してるのだが、一度、手紙を陛下に書いてくれと泣きつかれたことが最近あってレターセットを予備としてここに何セットかを置いていった。
そんな経緯があって、ふと亡くなった幼馴染みを思い出したんだ。
だから、余っている手紙の一部をこうして、書き記している。
こうして彼女について俺が思うことを書いていると、やはり彼女は控えめで、どこかローザよりも覚えがない。というか、恋は盲目というか。全てがローザに紐付いてるからか、彼女について書こうとするとそこには必ずやローザがセシルがいる。どこまでも、俺はこうして書くと彼女が日常に溶け込んでいると書いていいのか怪しいほど、溶け込んでいたのだ。
日常の当たり前は実は彼女がくれていたのかもしれない。そんなことを考えると、いかに自分が愚かかと覚えてしまう。誰かに吐露するつもりもないが、すこしの記録として彼女に届けばいいとは思う。酷く愚かな男だと、これを見てることがあるならば、そっと胸のなかにしまっていてほしいと、俺は考えている。まあ、これは海に投げたとしても彼女に届くなんて思ってはいないのだけれど。万が一億に一、もしもそう、例えるならば月がふたたび二つになるようなことがあれば、きっと彼女に届いてるかもしれない。だなんて俺は思うかも、しれない。そんな有り得ないことが起こるならば、俺はまた前を向いて歩いていけるだろう。そんな結果を俺は見れるとは思ってないけれど。あのとき彼女が望んだ事だったから、俺はこうして事を進めている。
俺を、親友を、幼馴染みを、ずっと親のように姉のようにしてくれた彼女が、俺たちに残した言葉を実行するために明日の朝、俺は久々に山を降りるついでに海に投げようと思っている。食料の補給のついでにだ。彼女のもとに届くかわからない偶然なんて、それぐらい些細なことのついでに。で片つけた方がいいだろう。これを、この手紙を海に投げて、また俺は彼女の事を胸の底で大事にしまっておく。また時に、彼女の記憶がそっと顔を出したときには、また手紙を出そう。
彼女が秘めた思いを俺が勝手にこねくりまわしいていいものでもないし、届くなんてないだろうけど、そうすることがもしかすると彼女に対しての罪滅ぼしにでもなればいい。なんて思うのは勝手な話なんだろうな。きっと、この手紙が彼女に届くなら、俺はまた誰かをあいせるかもしれない。
今日はそのために手紙を書いたんだ。なんて俺からは口が避けても言えないが、ここに書かせてくれ。いや、誰かに許可をとる必要もない。手紙だけれども。
いつも俺を見守っていてくれてありがとう。そして、安らかにねむってほしい。
大事な家族で、幼馴染みのメロウへ。
たくさんの感謝と祈りを込めて

愛するために。
前に進むために彼女に祈りを捧ぐ。

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