■ 永遠の時を、(祈る)

俺たち幼馴染みは俺を含めて四人だった。
陛下のために暗黒騎士になったセシルと、高度な白魔法を使うローザ。それから武芸を嗜み軽い魔法を使うメロウ。幼い頃から俺たち年下をまとめて面倒を見て、時に俺やセシルの組手にも付き合うほどの腕の立つのに、ひどく穏やかな性格をした姉であった。太陽のように、すべてを溶かしてくそんな姉は将来バロンの軍人になると言っていたのだが、途中で進路を変更し王の側仕えとしてバロンで生きることを決めたらしい。本人がどういう理由でその道を選んだのかは、俺たち残された幼馴染みにはよく知らない。そうして彼女も俺たちも大人になって、緩やかに変化をしていった。
俺が彼女に違和感を覚えたのは、バロンからミシディアに攻撃をかける半月ほど前だったと思う。あの頃は些細なことと思い判断をしていたが、もしかすると彼女は一番最初にバロンが狂いだしていることに気がついていたのかもしれない。いや、たぶんそうだろう。バロンの中心にいる王の一番側にいた人物なのだから。その頃から時折どこか影をおとした顔になる事が増えて、偶然俺の横を走り抜けるのにも気づかない様子だったので、無理に捕まえて話をかけてみたが、困惑した顔を一瞬浮かべてから、なにもかわりない。という。だけれど、顔馴染みの俺にさえ気づかないほど焦っているような様子は明らかにおかしい。問い詰めてみると予想外の答えが帰ってきた。頬面を叩かれた気分だった。
放っておいてください。そういうところは私、昔から嫌いです。私より年下であるのに、すべてを悟ったような顔をして、私の何を存じてるのですか?二や三を存じているだけで、すべてを、知った顔をしないでください。と言われた。明らかなる拒絶。そして泣きそうな顔をしていた。俺たちに話せないことなのだから、彼女の側仕えとしての仕事の内容なのだろうか。一瞬の隙をついて、彼女ははしっていく。そんな背中を見送って、セシルに相談するか。と思うのだが、今思えばやはり彼女は知っていたのだろう。その真実はもう俺たちには届かない。なぜなら彼女はローザがバロンか出るときに幇助したとして処刑されたのだ。
シドからそんな情報を聞いたときに目眩を覚えた。ローザは泣いていたし、セシルは唇を噛んでいたのを覚えてる。一度バロンに帰ったときに三人で彼女の部屋に行ったが、既に彼女の部屋はもう別のだれかに使われて、彼女という存在は既になにも残っていなかった。もしかすると、こうなる事も見えていたのかもしれない、とセシルが言っていたのは頭のなかにこびりついていた。そうして、俺たちの旅の中で彼女の名前は存在は黙ることになっていた。のだが、彼女の名前をバブイルで聞くことになるとは思わなかった。
ゴルベーザの手下、炎のルビカンテが散るときに俺たちに一枚の手紙が渡された。見慣れた綺麗な筆跡は、昔からよく見ていた姉の文字だ。どうしてルビカンテが持っていたのか、問いかけには答えてくれはしない。全身の血がすべて落ちていく感覚を覚えた。どうしてこんなところで、あの優しい姉が?。頭の中にはどうしてが沢山産まれてた。ルビカンテからの紙を覗くと、教科書のような文字は、俺たちの名前を書いてた。

セシル カイン ローザ。
バロンに立ち向かう私の弟分妹分たち

私の分まで幸せになってください。
たまには手紙を海に流してください。
それでは
地に繋がった天津の場所にて。

既に彼女は知っていたのだ。バロンが狂っていることを。ただ、これはいつに書かれたものなのかはわからない。

「メロウが生きてるの?」
「地に繋がった。高いところって、ここぐらいしかねーよな。」
「んー……言われてみたらメロウみたいな魔法の力は感じるけれど、どこか違うような……」

ここがルビカンテが主に管理していた塔だと思い出した。彼女はルビカンテの元にいた。ということだろうか、そう思うとなぜか自然と眉が下がった。先日ゴルベーザの手下として動いてた頃には、何度かこの塔にも来たことがあったが、幼馴染みに似た姿をましてや人形のものを見た覚えもない。ルビカンテとルゲイエぐらいで。どこか鈍い記憶に、あの姿はなかったと記憶している。なら、どうしてメロウの書いた手紙をルビカンテがもっている。ふと、頭の中をエブラーナ王夫妻が浮かんだ。人の姿からかけ離れた姿になったあの夫妻に、やわらかく笑む姉の姿が重ならない。だが、出てこない遺体と、ここにいたということはもしかして、なんてよくない思考が頭を巡った。口に出して良いものではない。もしかして彼女もルゲイエの実験に巻き込まれていただとか、考えたくない。だけれども、ぼんやりとした記憶の中で新しい実験体がと言っていたような気もする。はっきりしていないことを口に出して良いものか、と俺は考えてると、セシルたちは幼かった召喚師を先頭に置くに進むと決めたらしく、一人取り残されてた形になった。一番最近はいった奴が俺の肩を叩いて「ぼさぼさしてると、置いてくぞ。」と笑って、歩いていく。俺はその背中を見ながら、奥に歩いていく。
あの姉は、先を照らすランプのようだった。ずっと遠くに小さな火の光を灯していた。行き場のなくしたセシルや俺を守るためにもしかしたら軍人をやめたのかもしれない。なんて今さら思った。そうして何度か魔物を倒して、奥に進むと気色の悪い看板と閉まった扉がひとつ。その向こうからは滝のような音が聞こえている。セシルが気を付けながら扉を開くと、目の前に一本の通路に対して向かい合う牢屋が存在した、ひんやりとした空気だけがあった。

「メロウ!」

ローザの声が聞こえて、そちらを向くと目を開いてひとつの牢を見ていた。牢の隅で、氷の柱の中で俺が見ていた頃と変わらない穏やかな顔をした彼女がそこにいた。頭を殴られた気分だった。彼女はまるで水の中で泳いでいるような姿で、そして異形だった。腹から下に足でなく、くすんだ青緑の鱗を持っていた。無理矢理繋げられたような縫合の跡も伺えて、嫌な予感は当たるものなんだな、とどこか夢幻を見てるかのように俺は思った。
氷の中で微睡むかのように薄く笑む彼女が動く気配もない。ただ、氷の中で、末端から泡のようにゆっくりと溶けていっているようすを見ると、俺たちがもう少し早ければ彼女と生きて再会できたのではないのかと、まともに動きそうにない頭が、考えていた。俺のほんの少し前では、彼女と面識のないエッジとリディアとセシルがぽつぽつと会話をしているのが目にはいった。

「さっきの手紙の人か?いい女だな」
「うん。そう、ローザとカインと僕の姉みたいな親友だよ。」
「綺麗な人だね、なんだか今の姿もあって人魚姫みたい」

ぽつりとリディアが呟いた。人魚姫、彼女がよく読んでいた絵本だったな、なんて幼い頃の記憶がふと蘇った。小さな頃、彼女と初めて出会った時を思い出した。父の休みの日に、城下に出ていたのに急な仕事が入って城で待たされた時に、彼女と出会ったのだ。初めての登城と、父の仕事で構ってもらえない。ということに不機嫌だった俺を彼女は城の中庭で彼女の絵本を読んでもらった記憶だけが、映像として頭のなかを通っていった。
そんなことを思い出しながら、彼女を眺めているとエッジがなにかを見つけたようだ。

「な、これ。こいつの手紙じゃねーの?」

 視線をゆっくり動かせば、エッジは厚く束ねられた紙と、宛名のない一通の封筒を持っていた。綺麗に整えられていて水のかからないように置いてあることを考えると、メロウのだとすぐにわかった。セシルが、氷の中にいるメロウに一言わびてから、封筒を開く。セシルはそっと一瞥してから、君宛だったよ。と俺に渡された。何が書いてるのか怖くなったが、優しい姉のことだ。ローザにもしたためてるのだろうと思って開いたのだが、そこには俺の予想を遥かに越えた一文だけがそこにあった。

永遠の時を、(祈る)
私はカインが好きでした。

[ prev / next ]
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -