七月のある日


 巴へ――

 まず最初に、宇宙会議の結果を報告する。あのバカ王子の24時間にも渡る熱弁の結果、地球はドグラ星の監視指定惑星になった。これは宇宙的に見て、地球は事実上ドグラ星の監視指定惑星になったということだ。
 そのため、治安維持対策委員会の最高責任者は王子になった。これで少しはおとなしくなってくれればいいが……
 いや、淡い期待を抱くのはやめよう。あいつは想像の斜め上をいくからな。

 また、王子が地球に住むことになった。なので俺やサド、コリンも護衛で地球に住む。
 王子は王子で筒井くん宛てに手紙を書いているようだが……まあ、筒井くんと江戸川さんによろしく伝えてくれ。この手紙が届く頃に逢いに行く。

   クラフト

 * * *

 バカ王子の来訪から約三ヶ月経過した頃、一通の手紙が届いた。差出人は、王子の護衛を務めるクラフト隊長。王子の暇潰し騒動に巻き込まれたのがきっかけで知り合い、騒動に巻き込んですまないと王子を同居させた雪隆よりも丁寧かつ紳士的な態度で接してくれた。
 騒動の真相が判明した日しか会っていないのだが、不思議と惹かれ合い、今に至る。

「クラフトさん来るんだ……」

 嬉しくなって思わず顔が綻んだちょうどその時、インターホンが鳴った。巴はすぐに玄関へ向かってドアを開ける。

「元気にしていたか?」

「お久しぶりです、クラフトさん」

 巴はクラフトを家の中に招く。七月の暑い日であるにもかかわらず、クラフトは黒いスーツ姿だ。それは、王子の護衛として地球での正装である。つまり、王子も一緒に来たということ。

「王子は雪隆くんのところですか?」

「ああ。筒井くんを驚かせられると意気揚々としていた」

 雪隆は王子が最も気に入っている地球人だ。そんな雪隆が気の毒だといいたげなクラフトに、巴は冷えた麦茶を差し出す。

「ありがとう」

 よく冷えた麦茶はクラフトの喉を潤した。
 堂々と雪隆をからかいに行けると喜ぶ王子を想像した巴は苦笑した。クラフト達護衛隊員の苦労が報われる日は来るのだろうか。

「あ、そうだ。みんなで王子の委員長の就任祝いをしませんか?」

「……何?」

 何故あんな奴のためにそんなことをしなくてはいけないのか、とでもいいたげな目を向けられた。

「人間にしてみれば、友好的な王子が委員長になってくれて良かったです。まあ、性格に難がありますが……」

 ご馳走作りますからと言えば、クラフトは渋々ながらも了承してくれた。

「えー、なになに? 巴が料理作ってくれるの?」

 いつの間に家に入ってきたのか、王子が麦茶をグラスに注いでいた。

(あ、クラフトさんの眉間の皺が増えた)

 王子が麦茶を飲んでいると、雪隆、美歩がお邪魔しますと家にあがり、サド、コリンもやって来た。一人暮らしだと充分な広さの部屋も、七人いれば狭く感じる。

「雪隆、巴が僕のために手料理を振る舞ってくれるそうだ」

 宇宙会議で熱弁した甲斐があったよと王子は喜んだが、雪隆はふふんと鼻で笑った。

「てめぇがいない間、何度もおかずのおすそ分けもらったんだぜ」

「きみはおすそ分けだけど、僕はご馳走だ」

 巴の料理を味わったのは自分が先だ。そう自慢した雪隆だったが、王子にかかればそれは些細なことだった。
 案の定、王子が優越感に浸ると雪隆の眉がぴくりと動き、二人は言い争いを始める。といっても、王子が雪隆をからかい、雪隆が若干チンピラ口調で反応するくらいだ。

「じゃあ、今から料理の材料買ってきますね。すみませんが、雪隆くんの部屋で待っていてください」

「ちょっと、何で俺んとこなんスか!」

「あはは、さすが巴だ。そういうところが好きだよ」

 雪隆は勘弁してくれと困り顔になり、王子は嬉しそうに笑った。

 * * *

 王子や美歩、サド、コリンは雪隆の部屋で待ち、巴とクラフトは買い出しに向かうことになった。自宅からスーパーまではそれほど離れてはないが、車で向かうため駐車場に行き、乗り込む。巴も車を持っているが、クラフトの車を使うことになった。

「いつまで地球にいるんですか?」

「はっきりとはわからん。が、最低でも一年は住むだろう」

 地球の生物にも興味があるらしく、その調査で各地を飛び回るという。クラフト含めた護衛の三人も同行するのかと問えば、それはないとの返答があった。調査に向かうのは王子だけで、三人はこちらで待機らしい。

「王子様が護衛も付けないなんて、大丈夫なんでしょうか……」

「個人的には面倒をみなくて助かる。ついでに旅先でくたばって欲しい」

 ちらりと運転席を見れば、クラフトは苦渋に満ちた表情をしていた。あはは……と巴は苦笑する。

「スーパーはあそこでいいのか?」

「あ、はい」

 通い慣れたスーパーの看板が見えてきた。駐車場に車を止めてスーパーに入る。まだ昼過ぎのため、それほど客は多くない。
 出入口のそばにある買い物カゴを持つと、クラフトが一台のカートを持ってきた。

「カートは俺が押そう」

「ありがとうございます」

 それから巴とクラフトはいろいろな食材をカゴに入れた。唐揚げ用の鶏肉、サラダ用の野菜、飲み物として大きなペットボトルのジュースなどなど。

「たくさん買っちゃいましたね。これは作り甲斐がありますよ」

「巴の手料理か。楽しみだ」

 自宅に戻った巴は、早速料理を作り始めた。クラフトは邪魔にならないようリビングでくつろぎつつ、巴を眺めたりする。
 味見してくださいと出来立ての唐揚げを一つ食べたり、料理の合間に王子の愚痴を聞いてもらったりもした。

 やがて完成した料理をリビングのテーブルに並べ終えた巴は雪隆達を呼び、お祝いパーティーを始めたのであった。


2011/05/07
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