お散歩デート
「すっかり寒くなりましたね」
吐いた息が白くなるほどに冷えた寒空の下、芦屋と早苗は公園内をゆっくりと歩いていた。散策向けに整備された一帯は街路樹が均等に植えられ、寒さによってその葉は紅葉し、青く晴れ渡った空はその鮮やかさをより一層引き立てている。
「そうですね。この寒さにも関わらず、子供達は元気ですね」
「日本では『子供は風の子』って言うんですよ」
離れたところで複数の子供が駆け回ったりして遊んでいる。身震いするほどの寒さをものともせず、彼らは楽しそうにはしゃいでいた。
早苗は、私も小さい頃はよく遊んでいました、と昔を懐かしむ。
「早苗さんの幼少期ですか……さぞ可愛らしい女の子だったのでしょうね」
自分の幼少期を想像する芦屋を見て、早苗は少し恥ずかしそうに笑った。
「おてんば娘だったんですよ。木登りにも挑戦したこともありました」
「えっ、大丈夫だったんですか?」
女の子が木登りしたとなれば親は心配でたまらなかっただろう。落ちなかったのかと不安になって訊き返したが、それは杞憂に終わった。
「はい。そんなに高くはなかったので、ちゃんと自分で降りられました」
でも親にはもう登るなと叱られましたが、と早苗が苦笑しながら語ると、芦屋も安堵の息をついて同意する。
「怪我なんてしたら一大事ですから、親御さんの仰るとおりですよ」
「えへへ、すみません」
芦屋の言葉はごもっともなので、早苗はただ苦笑するばかりだった。
その後も二人はしばらく散歩を続けていたが、一休みしようということでベンチに腰掛けた。
ふう、と息を吐けば冷えて白くなり消えていく。雪が降ったというニュースはまだないが、このまま冷え込んで雪が降るだろう。
「ちょっと待っていて下さい」
芦屋はそう言うとベンチから離れて行った。
どうしたのだろうと思いつつ待っていると、芦屋がドリンク缶二本を持って戻ってきた。差し出されたものは一本のココアのドリンク缶。受け取れば手袋越しにじんわりと伝わるぬくもりに、早苗の顔が綻んだ。
「ありがとうございます、四郎さん」
「本当は喫茶店でゆっくりさせてあげたかったのですが……」
実は現在、芦屋の手持ちは少ない。彼氏として頼りないとは思うが、今月の魔王城の家計はピンチなのだ。
「いいえ、四郎さんと一緒にいられるならどこでも構いませんよ」
早苗はにこりと微笑むと、手袋をはずしてココアのぬくもりと甘さを味わった。好きな人と一緒なら場所は問わない。こうして温かい飲み物を買ってきてくれるだけで早苗の心は満たされる。
「今度は私の家でデートしましょう」
「早苗さんの自宅で、ですか?」
「はい。こたつも出しているので、ミカンでも食べながらのんびりするのも乙ですよ」
外出することだけがデートではないと早苗が言えば、芦屋は頷いた。
「では、次は早苗さんの家にお邪魔させて頂きます」
ココアで身体があたたまった二人は、休憩を終えて再び散策を始めることにした。隣の早苗が手袋を取り出したことに気付いた芦屋は、彼女に自分の手を差し出す。
「手、繋ぎませんか?」
「……はい!」
早苗は芦屋と手を繋ぐ。互いの指を絡め合えば、相手の体温が伝わってくる。
「あったかいです」
「はい、私もあたたかいですよ、早苗さん」
まだまだ寒さは続くが、二人にとっては仲を深める良い一日になった。
2020/01/24