姉想いの妹


「夜戦突入! びびってんじゃねぇぞ!」

 旗艦・天龍の声が、随伴艦達を奮い立たせる。
 昼戦で深海棲艦と交戦していたが決着がつかず、夜戦へ持ち越しとなった。残る深海棲艦は、ほぼ無傷の旗艦・空母ヲ級flagshipと、中破の重巡リ級eliteが一隻ずつ。

 先に仕掛けてきたのは空母ヲ級flagship。複数の艦載機を、神条率いる艦隊へ飛ばしてきた。
 艦娘達は攻撃をかわすが運悪く天龍だけ被弾し、中破した。

「天龍ちゃん!」

 妹の龍田が顔を青くして姉のそばへ向かう。

「この俺がここまで剥かれるとはね……いい腕じゃねぇか、褒めてやるよ」

 夜戦の際、艦娘の空母は艦載機を飛ばすことは出来ずただ戦いを見守るだけだが、深海棲艦の空母は違う。ましてや通常艦ではなく、flagshipなのだ。無傷から大破へ追い込まれることもあり、その攻撃力を決して侮ってはいけない。

「天龍ちゃんを傷付けるなんて……許さないんだから」

 龍田が空母ヲ級flagshipを睨み付ける。が、それを天龍本人が制止させ、空母ヲ級flagshipを見据えると口の端を吊り上げた。

「売られた喧嘩は買わねぇとな」

 中破のため、装甲となる衣服がところどころ破れてしまってはいるが、彼女は応戦する気まんまんだ。
 神条はそんな天龍の性格を充分理解している。被弾した天龍を気遣いつつも落ち着いた声で彼女に問う。

「天龍、いけそう?」

「ったりめーだろ、提督。俺があんな奴にやられっ放しのまま引き下がれるかよ」

 そう言うと天龍は、主砲、副砲、魚雷を空母ヲ級flagshipへ向けて発射した。
 搭載している武装を惜しむことなく一斉射撃に費やすとは、なんて天龍らしいのだろう。神条はそう思いながら苦笑した。

 天龍の全火力を受けた空母ヲ級flagshipは、回避行動をとる暇すらなく、一撃で海に沈んでいった。

「硝煙の匂いが最高だな」

 驚異だった空母ヲ級flagshipを沈めた天龍が、誇らしげに笑った。

「じゃあ、私はあっちを狙うわねぇ」

 姉に続き、妹は重巡リ級eliteへ向けて発射させる。

「あははは、絶対逃さないんだから」

 攻撃力では空母ヲ級に劣るものの、重巡リ級も夜戦では充分な驚異となる。しかし、そんなことをものともせず、龍田の発射した弾薬は重巡リ級eliteを仕留めた。

「提督、天龍ちゃんよりも上手だったでしょう?」

 最後の深海棲艦を倒した龍田が、振り返って神条に笑顔を向けた。

「え、ええ、そうね。龍田、強くなったわね」

 向けられた笑みがちょっとだけ黒いオーラを放っていたように感じた神条は、差し障りのない返事をした。

 * * *

 天龍と龍田、他の随伴艦達も頑張ってくれたが、MVPを獲得したのは夜戦で空母ヲ級flagshipを一撃で沈めた天龍だった。

「この俺が一番つえーんだから当然の結果だろ」

 母港に戻った天龍は満面の笑みでドックへ入っていった。いつもは戦線離脱させるなと文句を言うのだが、今回は自ら進んでドックに向かった。

「龍田はドックで休まなくていいの?」

「私は大丈夫よぉ。それよりも……」

 神条が龍田に話しかけると、にこにこ笑っていた龍田が神条にずいっと迫る。

「あの天龍ちゃんが素直にドックに行くなんて、提督は天龍ちゃんにどんなことを吹き込んだのかしら?」

「わ、私は何も」

「ほんとかしら〜? 天龍ちゃんったら最近、よく提督のところにいるし……なにしてるのぉ?」

「近い近いっ……装備のことで話してるだけよ!」

 壁に追い詰められた神条は冷や汗を流す。
 確かに最近よく天龍と話す機会が増えているが、主に装備のことについてだ。

 姉を慕うあまり、龍田は時折黒い一面を見せる。姉想いの妹といえば聞こえは良いが、それが暴走してしまうと恐ろしい。龍田はそんな性質を持っているので、天龍と接触する際、注意しないといけない。
 神条が心の中でそう肝に銘じていると、ドックから天龍の声が聞こえてきた。

「おい龍田! 提督を困らせるんじゃねぇぞ!」

 天龍はドックにいるので、神条と龍田の姿は見えないし、会話も聞こえていない。それなのに龍田に釘を刺してきた。直線的で短気な性格の天龍だが、妹の行動を見越した言葉に、やはり姉なのだと神条はしみじみ思った。

「うん、わかってる〜」

 龍田は、ドックの天龍に聞こえるように大きな声で返事をした。自分の行動を隠して何もないふうを装った龍田だったが、ドックがにわかに騒がしくなったことに首を傾げていると、

「やっぱ気になって仕方ねぇ!」

 傷だらけだった服や武装が綺麗になった天龍が、神条と龍田の元へ駆け寄ってきた。

「天龍、どうしたの?」

「バケツ使わせてもらったぜ、提督」

「それは別に構わないんだけど……」

「何か提督と龍田を二人きりにさせるのが心配になってな。提督、龍田に変なことされたりしなかったか?」

 変なこと。
 何もされていないし、言われてもいない(尋問され壁に追い詰められはしたが)ので、神条は首を横に振った。

「大丈夫よ、天龍」

「そっか、良かった……。龍田、もし提督に変なことしたら許さねぇぞ」

「は〜い。天龍ちゃんったら心配症なんだからぁ」

 先程までの黒いオーラはすっかり消え、龍田はにこりと天龍に笑顔を向けた。

「提督、またあとで会議な!」

「私も一緒に会議したいなぁ」

 天龍が会議の約束を取り付けると、すかさず龍田が会話に割り込んできた。これを断ってしまえばあとが怖い。神条は参加を許可する以外の手段が思いつかず、苦笑しながら頷いた。

「う、うん。龍田も一緒に」

 たくさんいる艦娘達の中で姉想いの妹は何人もいるが、龍田だけは未だ扱いに困る神条であった。


2014/06/09
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