日曜夜のあのドラマ


 毎週日曜夜八時からはテレビドラマが放送される。それは日本の歴史を題材とする時代劇で、今年は平清盛が主人公だ。物語の舞台は平安時代。近年は戦国時代を取り上げることの多かった番組だが、今作はそれよりもはるかに昔の時代である。
 馬頭丸は、テレビ番組の雑誌のページをめくった。

「わー、今年は平清盛だって」

「ふーん……って、お前そんなもの何処で拾ってきたんだよ」

 適当に相槌を打って流そうとした牛頭丸だが、思わずいつものように突っ込みを入れてしまう。
 馬頭丸曰く、雑誌は山の麓に落ちていたらしい。おおかた、山の近くまで来た人間が忘れていったか、捨て置いたものと思われる。まあ、捩目山に近寄る人間なんて、地元の伝承を知らない外部の人間か、伝承を信じていない愚か者のどちらかだろう。
 そんな人間のことなどこれ以上考えたくない牛頭丸は思案を振り切ると、テレビ雑誌を覗き込む。
 平清盛。平氏の人間で、最期は病死した平安時代末期の武将であり、政治家でもある。
 雑誌の紹介文には、清盛役は映画などで活躍している若いながらも実力派俳優だと記載されている。しかし、人間の世情に疎い牛頭丸にとってはそんなものはさしたる興味もなく、すぐに雑誌から視線をはずした。

「平安時代って、牛鬼様が生まれた時代だよね?」

「当たり前だろ」

「この平清盛って人のこと、何か知ってるかも。ちょっと聞いてみよー」

 ドラマの紹介ページを開いた状態で雑誌を持つと、馬頭丸は牛鬼の私室へ向かった。
 思い立ったが吉日。良くも悪くも行動力がある奴だ、と少々呆れつつ、牛頭丸は相棒のあとを追った。


 * * *


「お二人とも、どちらに行かれるのですか?」

 千月が声をかければ、牛頭丸と馬頭丸は立ち止まる。家事の最中であったが、馬頭丸が雑誌を持っているのに気づいて声をかければ、とあるドラマの紹介ページを見せてきた。

「平清盛?」

「牛鬼様が生まれた時代だから、ちょっと知りたくて」

 平清盛が活躍したのは平安時代末期。確かに牛鬼が生まれたのも平安時代。

「まあ、そうだったんですね。平安時代ですか……私の生まれた時代でもあります」

 昔を懐かしむように言えば、牛頭丸が頷いた。

「千月様は牛鬼様ともお年が近くていらっしゃいましたね。では、この人間のことについて何かご存知で?」

「だいたいのことは知ってはいますが……梅若はいろいろな書物を読みますし、やはり梅若に聞いた方がよろしいかと」

 牛鬼と同じく、千月も千年も生きてきたので、歴史に名を残した人物についてはあらかた知っている。けれど、数多くの書物を読んできた牛鬼の方がきっと詳しいのではないか。そう考えた千月は、牛頭丸と馬頭丸に牛鬼のところへ行くようにと勧めたのだ。

「はーい」

「では、失礼します」

 馬頭丸は元気に返事を、牛頭丸は丁寧にお辞儀をして、二人は牛鬼の私室へ向かった。


「……何故、あのような雑誌を持っていたのでしょうか……?」

 二人と別れてからしばらく経って、ふとそんな疑問が浮かび上がる。この捩目山の屋敷にはテレビがないので必要ない物だし、本家へ赴く用事以外に彼らが山から下りることもない。
 まあ、あれこれ考えても仕方のないことだ。二人が戻ってきたら聞けば良い。そう気持ちを切り替えた千月は家事を再開することにした。


Web拍手掲載期間
2012/03/17〜2013/05/01
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -