髪を結う


「見て見て牛頭丸、髪、結ってもらったんだー」

 嬉々として馬頭丸が牛頭丸のところにやって来た。少し遅れて千月が続く。
 どうしたんだと尋ねれば、いつもは自分で結っていた髪を今日は千月に結ってもらったという。牛頭丸に見せるためか、今は馬の骨はかぶっていない。

「それくらいで子供みたいにはしゃぐなよ馬鹿。いつもと同じ髪型じゃねーか」

「あ、うらやましいんだ?」

「別に」

「うらやましいくせにー」

「…………」

 興味なさそうに答えた牛頭丸だが、再度からかわれると黙り込み、馬頭丸の軽く頭を殴る。

「痛い! 牛頭丸のばかぁ!」

 助けを求めるように馬頭丸が千月にしがみついてきた。
 仲は良いのに、どうしてこういった小さな喧嘩が多いのだろう。千月は内心困りつつ、牛頭丸に殴られた部分をさすってあげる。

「馬頭丸、嬉しいのはわかりますが、相手をからかってはいけませんよ。牛頭丸も、すぐ手を出すのはやめましょうね」

 どっちもどっちだとたしなめていると、牛鬼がやって来た。馬頭丸が涙目で千月にしがみつき、牛頭丸が不機嫌そうな顔をしている。一目見て二人が喧嘩したのだと状況を把握した牛鬼は、苦笑を浮かべながら千月に話しかけた。

「また喧嘩したのか」

「ええ……私が馬頭の髪を結ってあげたのですが、それが元で……」

「違います。馬頭丸がからかったんです」

 なるほど、そういうことか。納得した牛鬼は、一つの提案を持ちかけた。

「千月、すまないが牛頭の髪も結ってはくれないか?」

 馬頭丸だけではいささか不公平だという牛鬼の考えは千月も同じで、

「はい。牛頭も結ってあげますから。ね?」

 だから機嫌を直してくださいと牛頭丸に言うと、今度は素直に頷いてくれた。

「さ、これにて喧嘩は終わり。仲直りです」

 牛鬼は牛頭丸の、千月は馬頭丸の背中をそっと押して、二人を仲直りするよう促した。


 今回の一件は上手くおさまったが、次はどちらが先に髪を結ってもらうかの小競り合いが起こったのは、また別の話。


Web拍手掲載期間
2011/05/12〜2011/06/30
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