ささやかな祝い事
「あら、どうしたんですか?」
千月が湯呑みを盆に乗せて部屋に入ると、先程まで書物を読んでいた牛鬼が縁側に腰掛けていた。
「少し休憩しようと思ってな」
千月は牛鬼の隣に座り、湯呑みを彼に差し出す。
「新緑の季節ですね」
そうだな、と牛鬼は頷き、茶をすする。
屋敷内や捩眼山の木々や植物に若い葉が生え、鮮やかな緑に包まれている。
そういえば、もう少し日が経てば端午の節句を迎えることを思い出す。屋敷に男の子供はいないが、千月は何故か牛頭丸と馬頭丸の二人組を思い浮かべた。
「今度柏餅作りますね」
「端午の節句か」
「ええ、牛頭と馬頭に何かしてあげたいんです。……子供扱いするなと言われるでしょうか?」
二人はすでに青年なのだ。本来なら男の子を対象とする祝い事であるため、成長した二人は快く思わないかもしれない。
しかし、牛鬼はそんな不安を打ち消すような優しい表情を向けてくれた。
「そんなことはない。むしろ喜んで柏餅を取り合うかもしれんぞ」
「ふふ……では、多めに作った方がいいかもしれませんね」
五月五日。
捩眼山の屋敷では、ささやかながらも端午の節句が行われた。
千月手作りの柏餅は牛頭丸と馬頭丸が我先にと手をつける。そして牛鬼の言ったとおり、予定数より多めに作っておいた柏餅は、あっという間になくなったのであった。
Web拍手掲載期間
2011/04/26〜2011/05/12