Trick or Treat!
「トリック・オア・トリート!」
「……は…?」
馬頭丸の意気揚々とした声に、牛頭丸は意味がわからず眉をひそめた。
「『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』って意味だよ」
「何だそれ」
「ハロウィンですよ。簡単に言えば、西洋のお盆みたいなものです」
牛頭丸が怪訝な顔をしていると千月がひょっこり顔を覗かせた。
「一年の終わりが十月三十一日で、この日の夜は死者の霊が家族を訪ねたりするんです。これから身を守るために仮面を被り、魔除けの焚き火を焚いたりするらしいですよ」
「トリック・オア・トリートって言われてお菓子をくれないと、悪戯してもいいんだぞー」
きっと馬頭丸はリクオあたりに話を聞いたのだろう。仮面といっても、馬頭丸は馬の頭蓋骨を被った普段の格好と何ら変わりない。ただお菓子が貰えるということで西洋の風習を真似ているのだろう。
「馬頭丸は相変わらず馬鹿だな。仮面っていっても、いつもと同じ格好じゃん。少しは工夫しろよ」
「ふん、いいもんねー。ねえねえ、千月様、お菓子ちょーだい」
牛頭丸からすんなりとお菓子を貰えるとは思っていなかったのだろう。馬頭丸は特に拗ねる様子はなく、千月の元へ駆け寄った。
「ふふ、そう言うと思ってお菓子を作っておきました。牛頭丸もどうぞ」
梅若も呼んでみんなで食べましょう。そう言って、千月はにこにこしながら牛鬼のところに向かった。
その後ろを、ご機嫌な馬頭丸と、無表情を装いながらも嬉しそうに口元が緩む牛頭丸が続いた。
2011/10/31