第九話 総会前日


 総会前日。
 捩眼山から本家へは遠い。総会に遅れないようにするため、牛鬼は余裕をもって総会前日に到着するように心がけている。
 今回は牛鬼だけでなく、千月と牛頭丸、馬頭丸も同行することになった。朧車で本家に到着すると、牛鬼は千月を連れてまっすぐ屋敷内へ入っていった。婚姻関係となったことをぬらりひょんに報告するためだ。
 部屋に通されると、ぬらりひょんはお茶をすすりながら饅頭を食べていた。

「総大将、ただいま到着致しました」

 牛鬼が挨拶したのち、千月もお辞儀をする。

「おう、入れ」

 いつもの好々爺とした顔ではなく、怒りを含めたような、緊迫した雰囲気で二人を迎えた。牛鬼と千月は、ぬらりひょんの正面に二人並んで座る。

「まったく……とんでもないことをしてくれおって」

「申し訳ありません」

 ぬらりひょんが腕を組んで牛鬼を睨みつける。最も信頼する部下が、跡取りの孫に刃を向けたのだから無理もない。おまけに、無罪と判決を下したリクオは甘すぎる、とも吐き捨てる。

「その件ですが、牛頭丸と馬頭丸を本家あずかりにさせていただきたいと思っております」

 さすがに処罰なしというのも示しがつかない。そのため、跡目候補で腹心の部下である牛頭丸と馬頭丸を本家に仕えさせるという。

「恐れ入りますが総大将、リクオ様は梅若を信頼しておられます。総大将もリクオ様を信じてはいただけないでしょうか?」

 差し出がましいと思いつつ、遠慮がちに千月が口添えすると、ぬらりひょんは言葉に詰まる。

「……千月がそこまで言うなら」

 リクオには牛鬼に甘いと言ったが、自分は千月につくづく甘いな、とぬらりひょんは内心苦笑した。

「ま、わしも今回の騒動を利用したみたいなわけだし……」

「ありがとうございます」

「利用、とは……?」

 牛鬼はぬらりひょんと千月を交互に見ると、ぬらりひょんより説明があった。
 千月が梅若丸だった頃の牛鬼に出会った話はもちろん、彼を想いを寄せていたこと。牛鬼が千月を覚えているとぬらりひょんは気付いていたこと。どうせなら今回の騒動に乗じて直接牛鬼に会いに行けと千月に提案したこと。
 全てを聞き終えた牛鬼は、ふうとため息をついた。

「総大将にはかないませんな……」

 牛鬼に説明を行ったぬらりひょんに対し、千月は内心胸を撫で下ろした。謀反を知ったぬらりひょんが裏切り者として牛鬼を本気で処罰するつもりだったのなら、捩眼山に向かわせてはもらえなかったと思う。それを許したのだから、牛鬼を信じていたところがあったのだろう。

「それで、二人揃って来たということは上手くいったんじゃな」

「はい。近いうちに祝言をあげようかと」

 いや長かったと感慨深げに茶をすするぬらりひょんだったが、牛鬼の言葉を聞いてむせてしまった。

「なっ……」

 早すぎる。再会して数日しか経っていないのに、いきなり祝言とは。しかし、ぬらりひょんも珱姫との祝言はいきなりだったのを思い出した。人のことを言える立場ではない。咳払いをして心を落ち着かせると頷いた。

「そうか……わかった。皆にも知らせておく」

 ぬらりひょんに報告を終えると、牛鬼と千月は退室した。

 明日はとうとう総会だ。
 ひとまず、今夜はゆっくり休むことにした。


2011/05/11
2023/07/06 一部修正

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