第26話 スチェンカ


 港を離れたアシパ達は樺太アイヌの家に立ち寄ることになった。
 アイヌは文化的に大きく三つに分けられる。千島アイヌ、北海道アイヌ、樺太アイヌだ。
 その中で樺太アイヌは南樺太の海岸や川沿いなどに定住し、漁猟を中心として生活している。住む家は季節によって変わり、夏の家は『サチセ』、冬の家は『トイチセ』と呼ばれている。
 今は雪が降り積もる冬であるため、アシパ達はこんもりとした小さな山のような『トイチセ』に招かれた。
 樺太は北海道よりもさらに北に位置し、この地に定住しているアイヌは過酷な自然環境に適応した独自の生活形態を生み出した。室内に置かれた道具や器など、北海道アイヌが使うものとは異なる部分も多い。

「私とヘンケのおうちへようこそ。私、エノノカって言うの」

 ヘンケというのは樺太アイヌの言葉で『おじいちゃん』である。
 アイヌの名前にはそれぞれ意味がある。エノノカというのはフレップ(コケモモ)という意味で、フレップをたくさん食べて全部吐き出したので付けられた名前だとエノノカ本人が説明した。

「名前は可愛いんだけど、もうちょっとマシな由来なかったわけぇ……?」

 きっと可愛らしい由来があるものだと思っていた白石は予想外の説明にがくりと脱力した。

「ねえ、あなた北海道アイヌなの? 名前は?」

「…………」

 初めて北海道アイヌと出会えて喜んでいるエノノカが話しかける。しかし、アシパは何も答えなかった。

「ごめんね、エノノカちゃん。ちょっといろいろあって」

 黙り込んでいるアシパを見て小さく首を傾げて不思議そうにするエノノカに、小夜子が遠慮がちに話しかけた。同じように白石も眉尻を下げ、家に招いてくれたことに対して申し訳なさそうにしている。
 そこでエノノカはフレップの塩漬けを差し出すことにした。悲しそうなアシパが少しでも気分を上げてくれたらと思ったわけだ。

「お、フレップの塩漬けか」

 まずはキロランケが食べ、次に尾形、白石、小夜子の順に味わった。塩漬けなのでしょっぱい味がしたあと、フレップの酸味と甘味が口の中に広がる。
 最後にアシパに差し出された。すぐに手を付けることはしなかったが、小夜子が促すとようやく口にした。北海道では味わったことのない初めての味に、二口目、三口目と何度もフレップを口に運ぶ。
 結局、この場にいる誰よりも一番多くのフレップの塩漬けを食べたアシパはひと息つくと、

「……ヒンナ」

 と言って小さく笑った。

「ヒンナ? どんな意味?」

 やっとアシパが喋ったことを嬉しく思ったエノノカは、初めて聞く言葉に目を輝かせて尋ねた。

「北海道アイヌが使う……感謝の言葉だ」

「へえ、そうなんだ。ヒンナ!」

 ずっと樺太で暮らしていたエノノカにとって、北海道アイヌの言葉が知ることが出来て楽しかった。にこりと笑ってみれば、アシパの表情が少し和らいだ。

 それからしばらくエノノカの家で体を休めたあと、キロランケがそろそろ出ようと告げた。
 初めて北海道アイヌと出会ったエノノカにとってはもう少し滞在してほしい気持ちはあるが、無理に引き留めるわけにはいかない。次の行先くらいは聞いておこうと思って尋ねると、キロランケは彼女にこう言った。

「北へ向かう」

 * * *

 エノノカのトイチセを出て彼女の祖父が操る犬ぞりで向かった先にはロシア人の村があった。そこでキロランケと尾形は情報収集のため別行動を取り、残された白石とアシパと小夜子は店に入ることにした。
 店内には数人の客の男がそれぞれ一人で酒を飲み、カウンターには店主とおぼしき男が食器を洗っている。
 三人は近くの席に座った。カウンターの奥にはさまざまな種類の瓶が並べられているところを見るに、ここは酒場のようだ。軽くお茶でもしようという白石の提案により入店したが、果たして酒以外の飲み物を提供してくれるだろうか。
 店主の男がテーブルにやって来て何かを喋った。ロシア語のようだが、生憎、今の面子でロシア語がわかる者はいない。三人は顔を見合わせたのち、小夜子は駄目元で異国の言語で店主に向けて口を開いた。

『紅茶はありますか?』

 店主はやや驚いた表情になるが、単語を頭の中で反芻してすぐに理解したのだろう。右手の指を三本立てて何かを尋ねてきた。その問いに小夜子もしばし反芻して頷くと、店主はカウンターへ戻って行った。

「えっ、小夜子ちゃん、何て言ったの?」

「紅茶はありますかって英語で聞いたんです」

 小夜子は医学校時代に英語やドイツ語も学んでいたことを明かすと、アシパと白石の目がきらきらと輝き出した。まさに尊敬すべき対象だと言うかのような熱意が込められている気がした。

「話せると言っても、簡単な内容しか話せませんが……」

「そんなことはない! 頭脳明晰だな、小夜子は!」

「才色兼備とはこのことだ!」

 アシパと白石が誉めそやして照れくさい気持ちになるが、本当に英語が通じているのかどうかが不安だった。紅茶ではなく酒が出てきたらどうしようかと内心不安であったが、それは杞憂に終わった。店主は紅茶を注いだ器を三人分運んで来てテーブルに置いた。

『ありがとうございます』

 感謝の言葉はロシア語で伝えると、店主の表情が柔らかいものになった。簡単な挨拶の言葉については事前にキロランケから教わっていたのだが、早速役に立ったことに小夜子は胸を撫で下ろす。
 店主がカウンターに戻ろうとした時、男が一人で店に入ってきた。彼は何かを注文すると、白石の後ろ側の席に座った。
 ずいぶんと体格が良く、これだけしっかりした体なら杉元の好敵手になれるかもしれない。杉元が生きていてくれれば──そこまで考えて、小夜子は思考を止めた。まだ彼が死んだと決まったわけではないのだから、そんなことを考えてはいけない。
 三人は暖かい紅茶を味わいつつ、今後のことについて話し合うことにした。

「今はまだ第七師団がいるだろうからさ。ほとぼりが冷めたら遺体がどうなったか探そうよ。あんまりくよくよしてたら体に良くないぜ」

「アチャが死んだのは一度乗り越えてたことだ……でも、アチャがアイヌを裏切ったことはどうやって乗り越えればいいのかわからない……」

 昔、父親が亡くなったと聞かされた時は悲しいながらも何とか乗り越えた。だが、アイヌを裏切っていたと知ったアシパは内心穏やかではなかった。大好きな父親がまさか同胞を裏切ったなんて信じられない。

「きっと何か事情があったんだろ? もしかしたら真相を知ってる人間がどこかにいるかもしれないぜ。アシパちゃんだけでも父ちゃんの味方になってあげなよ」

「……そうか……そうだな」

 戦闘面では頼りにならないが、精神的に弱っている時に支えとなってくれる白石の言葉に、アシパの沈んでいた気持ちが次第に前向きなものへと変わりつつあった。

「それから杉元のことだけどさぁ……あいつ、まだ生きてんじゃねえかなぁ? 根拠は全くないんだけど、俺はあんな野郎が簡単に死ぬとは思えないんだよ」

「白石さんもそう思いますか」

「頭を撃たれたわけだけど……医療経験者から見てどうなんだい、小夜子ちゃん?」

「今の日本で脳の外科手術が出来る医者はいないと思います。でも、家永さんならあるいは……」

 コタンで待機していたはずの家永が何らかの事情で第七師団に接触──もしくは捕えられたなら、杉元の手術を担当するかもしれない。刺青の囚人ではあるものの、医者として確かな腕を持つ家永カノなら手術を成功させるのではと考えている。

「ほら、小夜子ちゃんもこう言ってるんだ。杉元はきっと生きてるよ」

 不死身の杉元の異名で知られているあの男がそう簡単にやられるわけはない。絶対とはいえないが、彼が志し半ばで殺されるわけがないのだ。これは完全に白石の希望であったが小夜子も同意見だと頷いた。
 するとアシパは口角を上げ、青い目に確かな希望を宿しながら白石をまっすぐ見つめる。

「何言ってるんだ白石。杉元が死んでるわけないだろ。あいつは『不死身の杉元』だぞ。きっと生きてる」

 そう言ったアシパの表情にはすでに憂いはなく、未来を見据えていた。

 * * *

 この村では『スチェンカ』と呼ばれる男同士が殴り合う競技があるという。それに北海道から来た刺青の男が参加するという噂を聞いたとキロランケが言った。

「殴り合って何が楽しいんだろうねぇ」

「頭に筋肉しか詰まってないんだろ」

 肉体派ではない白石が乱暴だねと肩を竦めると、冷ややかな目をした尾形がふんと鼻で笑った。
 まあ刺青の男が来るというなら行く価値はあるだろう、とキロランケが白石と尾形を説得し、スチェンカが行われる場所へ向かうことにした。
 小夜子とアシパは宿で待っていようかと思っていたが、同行するようキロランケに言われた。南樺太にはロシア人の監獄が点在し、日露戦争で日本領になると閉鎖された。そこに収監されていた囚人達は監獄から逃げ出し、近くの村に身を隠しているという。のどかな田舎の村に見えるが、旅人──それもロシア人でも樺太の住民でもない女子供だけになれば厄介事に巻き込まれることは想像に難くない。

 スチェンカが行われている場所へ向かえば、丸太を組み上げた建物の中から歓声が聞こえてきた。キロランケが扉を開いて中に入れば、複数の男達が上半身裸になって殴り合い、同じような格好の男達が観衆として盛り上がっていた。
 正式名称は『スチェンカ・ナ・スチェンク』──『壁対壁』という意味である。半裸の男達が数名で並んで向かい合い、殴り合うロシアの伝統的な競技で、肉肉しい男達が並ぶ様を壁に例えたのだ。
 多くの男達の熱気に小夜子は唖然とした。振るうは己の拳のみ。強烈な一撃を受けた者は鼻から血を出したり、顔の一部が赤く腫れ上がったり、口から血を流したりとさまざまだ。
 呆然とした様子でスチェンカが行われている光景を見つめている小夜子とアシパに、キロランケは苦笑した。

「小夜子やアシパには刺激が強すぎたか?」

「……負傷者の治療が大変だわ」

「怪我人を気遣うとはさすが元医者だな、小夜子」

 確かにこれだけの大人数だと村の診療所はすぐに満員になるだろう。小夜子らしいとアシパは笑った。
 キロランケや尾形は刺青の囚人を捜してくると言い、小夜子達から離れた。女子供だけにならないよう白石がその場に残されたのだが、彼のことには見向きもせず、近くにいるロシア人が話しかけてきた。

『何だ、日本人か? スチェンカは初めてか?』

『女が来るなんて珍しいな。ほら、こっち来いよ』

 男達はロシア語を話しているため、小夜子やアシパには何を喋っているのかがわからない。彼らのうちの一人が話しかけてきたと思ったら小夜子の手を掴むと最前列へと引っ張り、小夜子が声を上げる間もなくアシパと白石から引き離された。
 助けを求めようとキロランケや尾形達を目で追った。刺青の囚人を捜しているため室内を見渡しており、小夜子にはすぐに気付かなかった。だが、小夜子の視界から尾形が消える直前、彼が気付いて小夜子へと視線を送る。

「百之助君!」

 小夜子はすぐに尾形の名前を呼ぶものの、周囲の歓声にかき消されてしまった。

「あ、あの……」

『あんた、スチェンカに興味があるのかい?』

 小夜子を最前列へ連れてきた男は嬉しそうに話しかけてきた。年の頃は二十代後半から三十代前半くらいだろうか。筋骨隆々の肉体で、色素の薄い顎髭は見た感じ柔らかそうだ。会場に満ちる熱気のせいで荒くれ者の雰囲気を纏わせてはいるが、純粋に男同士の決闘を楽しんでいるようにも見える。

『あんた美人だな、一目惚れしちまった。結婚してくれないか?』

 まるで少年のように目を輝かせた男が、ぐいと身を乗り出すようにして小夜子に迫る。だが、やはり言葉の意味がわからないので小夜子が困惑していると、男の背後に小銃を構えた人影が見えた。

「今すぐ頭をぶち抜かれたくなかったら小夜子から離れろ」

 尾形だ。三八式歩兵銃の銃口を男の後頭部に密着させ、いつもより低い声で言葉を発するその後ろにはキロランケもいる。

『お前の女か? ちょうどいい。スチェンカで勝負しねぇか?』

 男が尾形を挑発すると、男の近くにいた数人の男が集まってきた。どうやら男とは顔見知りのようだ。

「何だ尾形、スチェンカやりたいのか?」

 見ず知らずのロシア人に幼馴染みを横取りされそうになって頭に血が上っているな、とキロランケがニヤニヤ笑う。尾形は無表情を装ってはいるものの、その目は闘志を露わにしていた。

「おい白石、俺達も参戦するぞ」

「え!? 俺、殴り合うのはちょっと……」

 脱獄するのはお手の物でも肉弾戦は不得意だと白石が断ろうとするが、キロランケが服の衿を掴んで闘技場へと引っ張って行った。情けない声を出して逃れようとするが、無駄な抵抗となっている。

「キロランケニパ、大丈夫なのか?」

 肉弾戦が得意ではなさそうな尾形と白石を案じたアシパが声をかけると、キロランケは「まあ何とかしてみるさ」と答えた。そのあと小夜子のところに戻ってくると顔を近付け、小声で話しかけてきた。

「なあ小夜子。あのロシア人、お前に何て言ってたか教えてやろうか?」

 どうしてこの場面で男の言葉が出てくるのだろうかと不思議に思いながらも、こうやって言われると気になってしまう。小夜子は頷き、キロランケの言葉を待った。

「『結婚してくれないか』だとさ。尾形の奴、何ともなさそうに見えるがありゃキレてるぞ」

「そうなんですか……?」

「恋人を横取りされそうになって落ち着いていられる男なんているかよ」

 楽しそうにニヤニヤ笑いながら言うと、キロランケは尾形と白石のところへ戻っていった。
 ロシア語なので先程は何と言っているかわからなかったが、あの男はそんなことを言っていたのか。そのことに対して尾形が何故怒っているのかが理解出来ないでいたが、数秒してやっと意味がわかった。将来を誓い合った相手に他の人間が求婚する場面に出くわせば、あの物静かな尾形だって内心穏やかではないだろう。

(……あれ……?)

 小夜子はふと、先程のキロランケの言葉を思い返す。『恋人をロシア人に横取りされそうになっている男』は尾形のことを指している。そして、その『恋人』は小夜子だ──と明言はしていないが楽しそうな表情で確信した。キロランケは小夜子と尾形が恋人同士だと気付いている。
 また、尾形がロシア人に銃口を突きつけたのは、いわゆる『俺の女に手を出すな』という意味だったことに小夜子はようやく気付いた。尾形がそう言ってくれたことが嬉しくもあり、恥ずかしくもある。いけない、口元が緩みそうだ。

「どうしたんだ小夜子、顔が赤いぞ?」

「えっ? い……いえ、何でもないわ」

 気分でも悪いのかとアシパが心配そうに顔を覗き込んでくる。
 小夜子は表情が緩んでしまいそうになるのを必死で堪え、そろそろ試合が始まるからとアシパの意識をスチェンカへ向けた。

『用意! ──殴れ!』

 試合開始のかけ声の直後、スチェンカが始まった。尾形は小夜子を口説いた男と対決することになり、白石とキロランケはナンパ男の知り合い二人が相手となった。
 拳で殴ると相手も拳で殴り返し、相手が倒れるまで続けられるこの競技に観衆の男達が沸き立つ。歓声が轟き、殴り合いも熱を帯びていく。
 尾形が殴ると相手も殴り返してきた。軍隊で鍛えている肉体ではあるものの、拳の一撃の重みが足りないのか、尾形は次第に男の攻撃に押され始めてきた。

『ハハッ、もう降参か? じゃあ、あの女は俺のもんだな!』

 尾形は男の拳を喰らい、鼻血を流している。他にも頬など顔の数か所に出来た裂傷からは血が滲み出し、ふらりとよろめいた。
 思ったよりも根性ないんだなと男が煽って最後の一発を決めようと右手を振ろうとした瞬間、尾形の素早い一撃が男の顔面に直撃した。完全に油断していたため男はのけぞり、足を踏ん張ることが出来ないまま床に倒れ伏す。

「クソッ……」

 男には勝利したものの、これ以上足に力が入らない。尾形は悪態をつくとへたり込み、木の囲いに背中を預けた。すぐ隣には白石が鼻血を出して仰向けで倒れている。他に殴られた形跡もないので、どうやら最初の一撃で伸びたらしい。
 小夜子はすぐさま尾形のそばに移動し、囲い越しに話しかける。

「百之助君、大丈夫?」

「……ああ」

「キロランケさんに聞いたわ。あの人が私に求婚してきたから怒ったのね」

「チッ……余計なこと言いやがって……」

 男に銃口を突きつけた時、キロランケは明らかに楽しんでいた。単に若者の青臭さを目の当たりにしたせいか、それとも小夜子を横取りされそうになって冷静さを欠いた己を笑うためか。

「もう、そんなこと言わないの。私、嬉しかったんだから」

 普段物静かな尾形が他の男から小夜子を守ってくれたのだ。気恥ずかしい気持ちもあるが、それ以上に嬉しさで胸がいっぱいになった。
 尾形に手ぬぐいを差し出すと彼は無言で受け取り、顔や胸元に垂れた血をぬぐい取る。

「おりゃー! いっけぇぇぇキロランケニパ!」

 男達の歓声に負けじと発せられたアシパの声に顔を上げれば、キロランケは思いきり顔を殴られた。

 * * *

 結局、スチェンカで勝つことは出来ず、刺青の脱獄囚についての情報は得られなかった。

「はあ……惜しかったな、キロランケニパ」

「善戦していたんだけどねぇ」

 蒸気が満ちる小屋の中でアシパが溜息をつくと小夜子は苦笑した。
 スチェンカで負けたあと、アシパ達はバーニャというロシアの蒸し風呂に入ることになった。部屋の一角には煉瓦で組み上げた暖炉があり、たくさんの石が積まれている。そこで熱せられた石に水をかければ大量の蒸気が発生し、文字通り蒸し風呂となるのだ。
 室内には白樺の葉を束ねたヴェニクというものがある。体が温まってきたら水を張った桶につけ、肌を叩けば血行が促進される。また、ヴェニクの水を高温の石にかければ木の香りを楽しむことも出来る。
 先に男性陣がバーニャを堪能したあと、アシパと小夜子が入ることになったため、こうして二人でバーニャを楽しんでいる。

「ところでアシパちゃん、男の人のお風呂は覗いちゃ駄目よ」

「どうして?」

「お年頃の女の子なんだし、慎みは持たないと……」

 アシパの年齢を考えれば、そろそろ体が大人へと成長を始める頃だ。異性に対する恥じらいを持ってほしいと小夜子は考えていた。
 慎み、とアシパは不思議そうに口の中で何度か繰り返す。やがて彼女は大きく頷き、青い目をきらきらと輝かせた視線を小夜子へ向けた。

「わかったぞ小夜子! これからはこっそり見つからないように覗けばいいんだな!」

 小夜子の願いは、いとも簡単に打ち消されてしまった。
 この少女が異性への慎みを自覚するのはいつになることやら。


2022/05/05

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