第7話 証拠隠滅


 杉元一行と土方一行、お互い休戦して手を組んで食事を終えたあと、分かれて調査を行うことにした。
 月島軍曹の遺体確認の調査に向かったのは、杉元、アシパ、牛山の組と、白石、キロランケ、永倉の組。
 そして贋物の刺青人皮の調査で江渡貝邸に残ったのは、土方、家永、尾形、小夜子の四人だ。

「人間剥製に残された皮と贋物の刺青人皮に共通点があるはずだ。きっとこの家に手がかりが残されている」

 土方がそう確信すると、四人は手分けして邸内に並ぶ剥製などを次々に見て回る。

「人体でもさすがに剥製にされるとわからないわねぇ……」

 小夜子が剥製にされた人間の皮膚に触れて感触を確かめてみる。だが、医者と剥製屋では必要な知識が異なるので役に立てそうにないなと小さく溜息をついた時、窓ガラスに瓶が投げ込まれた。床に落ちた衝撃で瓶は割れ、瞬時に炎が室内に広がる。

「っ!?」

 投げ込まれたのは火炎瓶だった。燃え上がる炎から逃れようと反射的に剥製から離れたが小夜子の右手を炎がかすめ、火傷が出来た。
 木造家屋なので瞬く間に燃え広がり、部屋全体が炎に包まれる。その勢いに気圧された小夜子は足がすくんでしまい、煙を吸い込んで咳き込んだ。

「小夜子!」

 ガラスが割れた音に気付いた尾形が駆け付けた。室内は炎に包まれ、小夜子が煙で咳き込み、呼びかけても反応が返ってこない。尾形はすぐさま室内に入り、小夜子の手を引いて部屋から連れ出した。

「おい、大丈夫か?」

「げほ……っ……ありが、と……」

「待て家永、外へ出るな! 撃たれるぞ!」

 火災が起こったことにより家永が急いで外に出ようと玄関へ向かうが、すぐさま尾形が呼び止めて窓際に立ち、外の様子を伺う。

「今、外にチラッと軍服が見えた。数名に囲まれているようだ」

「贋物製造に繋がる証拠を消しに来たか」

 尾形と土方はすぐにでも発砲出来るように銃を構え、玄関前で手短に現状のすり合わせを行う。

「鶴見中尉の手下がこの家を消しに来たということは、月島軍曹が生きて炭鉱を脱出したと考えるべきか」

「窓は鉄格子がある。外の連中にとっても突入するならば玄関以外はない。俺が外の連中を玄関まで追い込む」

 まずは尾形が外を囲む兵士を玄関へ誘導させ、それを土方が倒す方法が確実だろう。
 手短に作戦を立てると尾形は兵士を追い込むため、すぐに二階へ向かった。一階にいては戦闘に巻き込まれると判断し、小夜子も二階へ連れて行く。

 二階の部屋に向かうと尾形はすぐに窓際に立ち、狙撃するためガラスを割る。視野が広く、相手を発見しやすい高い位置を陣取るのは銃撃戦の原則だ。
 外にいる兵士を玄関の前に誘導するため発砲すると、想定通り兵士達は急いで玄関のひさしの下へ駆け込んだ。その直後、階下からは土方の銃の発砲音が聞こえてくる。
 二階から狙撃されないよう玄関のひさしの下に身を隠せば屋内から銃撃を受け、その銃撃から逃れようとひさしから出ようとすれば二階から狙われる。
 兵士達の間に焦りが生じ、辛抱出来なくなった一人がひさしの下から出た。彼を撃とうとした尾形だが、外から放たれた銃弾がこめかみをかすめる。

「チッ……」

 尾形が他の窓から外を伺うと、離れた建物の陰に小銃を持った兵士が数人見えた。

「結構来てるな」

 小夜子も外の様子を伺うため、頭を低くして尾形とは反対側の窓を覗いてみたが誰もいない。この建物の周りにいた兵士は全員玄関前に誘導されたようだ。

「百之助君、こっちは誰もいないわ」

 とりあえずはあの離れた建物の陰にいる兵士達が問題だな、と尾形が新しい弾薬を取り出そうと弾薬盒に手を伸ばした時、木造の廊下を踏みしめる音が尾形の耳に届いた。
 身を隠さなければと瞬時に判断し、窓際にいる小夜子にこちらへ来るよう合図を送るが、彼女は気付かない。呼びかけては近寄る相手にこの部屋に人間がいると教えることになるため、急いで小夜子の手を引いた。人差し指を口元に立てて開けっ放しのドアの陰に身を隠せば、彼女はすぐに理解して何も言わずに尾形の後ろに移動してかがむ。
 ギシ、と足音が部屋の前で止まった。一人の兵士が小銃を構えて室内を見るが誰もいない。せいぜい鶴の剥製が置かれているくらいだ。
 ──誰もいないのか。
 人の気配を探るため意識を集中させようとした時、脇腹に痛みが生じた。視線をそちらに向ければ、第七師団を抜け出した尾形百之助がドアの陰から飛び出して左脇腹に銃剣を突き刺していることに、驚愕と動揺を隠しきれなかった。
 しかし、一介の兵士といえど陸軍最強と謳われる第七師団だ。黙って殺されるほどおとなしくはない。兵士はすぐさま尾形を小銃の床尾(しょうび)で殴り、床に倒れた尾形に跨って彼の顔を殴りつける。

「百之助君!」

 小夜子は尾形を助けようと床に転がった彼の小銃を握り、兵士の頭めがけて振り下ろす──が、武道や格闘で体を鍛えているわけでもない小夜子では腕力が足らず、兵士を昏倒させるには至らなかった。

「女……!?」

 頭を殴られて苛立った兵士は小銃を思いきり振って小夜子を弾き飛ばす。

「っ……」

 壁に打ち付けられた衝撃で小夜子は気を失い、ぐたりとなる。
 女がいたのか。いや、それよりもまずは尾形だ。脱走兵となったこいつを先に始末しなければいけない。
 兵士は尾形に跨ったまま、握り締めた小銃を尾形の顔に振り下ろす。

「死ね! コウモリ野郎が!」

 殴られながらも尾形が薄く笑っていると、杉元が階下から駆けつけて兵士を小銃の床尾で殴り倒した。やはり力のある男に殴られては兵士はひとたまりもなく、気絶してぐたりとなる。
 杉元は入口付付近に倒れている小夜子にすぐ気付き、彼女の元に向かう。

「大丈夫か、小夜子さん!?」

 おそらく兵士の一撃を受け、壁にぶつかった衝撃で意識を失ったのだろう。かんざしが取れてしまい、いつも結い上げている黒髪がほどけて緩んでいる。
 呼びかけると小さく呻き声をあげたので命に別状はなさそうだ。安堵して再び尾形を見やる。

「何だよ、お礼を言って欲しいのか?」

 口の端を吊り上げて見上げる尾形に、しかし杉元はそんなつもりではないと答える。

「お前が好きで助けたわけじゃねぇよ、コウモリ野郎」

 今は土方陣営に与しているが、元は第七師団だ。そうでなくても初対面で殺し合った間柄で、性格も気に入らない。一時的に手を組んでいる状態なので助けただけだ。そんな意味を込めて杉元が言い返せば、尾形は笑みを消して口の中にたまった血をペッと吐き出す。
 尾形は気に食わない男だが、小夜子の幼馴染みであり親しい相手なので彼に任せても問題ないだろう。杉元はそう判断し、「小夜子さんは任せたぞ」と言って部屋を出ていった。

 尾形は血をぬぐい、倒れている小夜子のところへ歩み寄る。子供の頃、彼女に贈ったかんざしが近くに転がっているので拾い上げた。
 まさか今でも持っていたなんて。
 小夜子の家は裕福なので、親にねだれば華美な装飾品を買うことだって出来ただろう。医者になれたのなら自分で好みのかんざしも買えただろう。それなのに、子供の頃の自分が作ったいささか不格好なかんざしを使っていることに尾形は笑んだ。先程、杉元に向けたような皮肉めいた笑みではなく、穏やかさが感じられるものだ。
 破損していないか確認したが、傷もなく折れてもいなかったので安心した。

「小夜子──」

 小夜子がゆるりと頭を動かすと、普段髪で隠れている部分がちらりと見えて尾形はわずかに目を見開いた。しかし、今はこの建物から逃げ出さなくては。
 尾形はかんざしを懐に入れ、小夜子の体を揺らして起こす。

「小夜子、起きろ」

 そう呼びかけながら尾形は再び窓際に立つ。離れた場所に隠れている兵士が持つ小銃の銃身を撃って兵士を牽制すれば、彼らは建物の陰に引っ込んだ。外に逃げるなら今のうちだ。
 再び尾形が呼びかけると小夜子が意識を取り戻した。起き上がると髪がはらりと肩にかかり、胸元や背中へ流れたことにより、髪がほどけていることに気付く。

「あ……かんざし……」

 兵士に弾き飛ばされて意識を失った時、かんざしが取れてほどけてしまったのか。すぐに辺りを見回してかんざしを探すが見当たらない。

「下におりるぞ」

「でも、かんざしが」

「いいから早く来い。ここから逃げるぞ」

 かんざしよりも今は命が最優先だ。ひとまずかんざしは諦めて尾形のあとに続いて階段をおりると、杉元と土方が階段のすぐ近くにいた。

「逃げるなら今しかない、急げ!」

 尾形と小夜子は、一階にいた杉元や土方と共に燃え盛る江渡貝邸から逃げ出した。
 贋物の刺青人皮の判別方法が見つからなければ、直接のっぺら坊に会いに行くしかないだろう。そう結論を導き出した杉元達は二手に別れて逃げることにした。大勢で行動すると目立つためである。

「私と家永は永倉達を捜して合流する。お前達は先に月形へ向かえ」

 白石、永倉、キロランケは月島の捜索からまだ戻ってきていないため、第七師団の襲撃で江渡貝邸が焼け落ちたとは知らない。家永を乗せた馬の手綱を引いた土方は、月形の樺戸監獄で待ち合わせようと杉元に告げると街へ向かった。

 * * *

 杉元、アシパ、小夜子、尾形、牛山は街から離れて森の中を進むことにした。他の人間と接触すれば目撃証言をつたって追跡される可能性があるからだ。
 まず先に川へ向かい、火傷を負った小夜子の右手を冷やすことにした。火傷を負って少し時間が経っているため気休めにしかならないが、何もしないよりは良いだろう。手の甲が赤くなってはいるものの、患部はあまり大きくなく、水疱も出来ていない。

「大丈夫か? 小夜子」

「平気よ、アシパちゃん」

 アシパが隣で心配そうに顔を覗き込んできたので、小夜子は笑顔を見せて安心させてやる。
 水を拭き取るとアシパは熊の油を取り出して患部に塗布する。熊の油は、切り傷、火傷、あかぎれ、霜焼けはもちろん、皮膚の乾燥などにも効く万能薬で、アシパは常備している。
 最後に患部にガーゼをかぶせて包帯を巻きつければ完了だ。
 それからは川沿いをアシパが先導し、杉元、牛山、小夜子が続き、最後尾は尾形が周囲を警戒しつつ進んでいく。
 途中でヤマシギを発見した。アイヌの言葉で『トゥレタ チ』といい、山菜を採りに行く夏──女の季節になるとヤマシギがこの土地にやって来る。
 ヤマシギは体を揺らし、細長い嘴を地面に突き刺して掘るような動きを見せた。餌となる虫を探しているのだ。長い嘴がアイヌの使うオオウバユリの根を掘る道具『トゥレタニ』に似ていることから『ウバユリを掘る鳥』と呼ばれている。

「ヤマシギは脳味噌が美味いんだ」

 五人は身をかがめてヤマシギを観察するかのように見つめる。その中でアシパただ一人が目を輝かせ、口の端からよだれを垂らしていた。
 あの鳥を食料にするのかと尾形が小銃を構えたが、すぐにアシパに止められた。

「おい尾形、やめておけ」

「何でだよ、食うんだろ?」

「一羽に当てられたとしても他のが逃げてしまう。ヤマシギは蛇行して飛ぶので、その銃の弾じゃ当てるのは難しいぞ」

 アイヌはヤマシギの習性を利用した罠を使って獲る。枝でヤマシギが通りたくなる通路を作ってくくり罠をいくつも仕掛けるのだ。その罠なら何羽も獲ることが出来るのだとアシパが説明すると、尾形はふんと鼻を鳴らして小銃をおろした。

「散弾銃があれば良かったね」

 尾形は感情を表に出さないのでわかりにくいが負けず嫌いなところがある。自他共に認める狙撃手だが、小銃での猟は困難だと言われて癇に障ったなと思った小夜子が苦笑すると、尾形は何も言わず顔をそむけた。


 翌日、アシパが仕掛けたくくり罠にヤマシギが二羽かかった。大きさは鳩程度なので五人で食べるには量が少ない。それでも貴重な食料なので食べることになり、まずは羽をむしり始める。

「杉元も羽むしるの手伝え」

「たくさん罠を仕掛けたのに二羽だけだからご機嫌斜めだな」

 ブチブチとヤマシギの羽をむしるアシパに牛山が苦笑いを浮かべる。
 火傷の手当てをした小夜子はアシパに座って待つように言われた。羽をむしるくらいは手伝えると申し出たのだが、怪我をしている時は休んでいろとアシパが一喝して却下した。眉を吊り上げてはいるが、彼女なりに心配しているのだろう。
 牛山と並んで羽をむしる作業を眺めていると、尾形が三羽のヤマシギを捕らえて戻ってきた。

「今朝またいなくなったと思ったら……散弾じゃないのによく撃ち落してこれたもんだ」

「凄いわね、百之助君!」

 牛山と小夜子が感心すると、髪を撫でつけた尾形は胸を張ってふんと大きく鼻を鳴らした。

「腹立つなこいつ」

「アシパさんに無理だって言われたからムキになっちゃってさ……ハンッ」

「杉元は銃が下手くそだから妬ましいな」

「っ……別に!」

 勝ち誇る尾形に牛山と杉元が苛立ちを見せ、アシパは面白そうに笑う。
 つい先日まで敵同士だった人間と食事をして共闘し、手を組んでいるなんて誰が信じるだろう。小夜子は何とも奇妙な関係だなとぼんやり感じつつ、ヤマシギを捌く手伝いをしようとしたら再びアシパに何もするなと怒られた。

 木の枝で簡易的な囲炉裏を作り、水を入れた丸鍋を火にかけて沸騰させる。その間、アシパ主導でヤマシギを綺麗に捌くと、脳味噌を匙で掬って牛山に差し出した。

「チンポ先生、ヤマシギの脳味噌です」

 不敗の異名を持つ牛山でも、さすがに食べたことのない食材を前にすると表情が強張った。隣の杉元を見れば、目を輝かせて脳味噌をジュルジュルと啜っている。

「脳味噌は嫌いか?」

「食ってもいいものなのかい? それ……」

 未知の食材に牛山が困惑していると、アシパは杉元に同意を求める。当初は杉元もリスの脳味噌を食べることに乗り気ではなかったが、今は違う。

「杉元ぉ? ヒンナだよな?」

「ヒンナヒンナ!」

 狩猟で獲れた獲物の味をすり込まれた杉元は、指先についた脳味噌をチュパチュパと舐め取った。
 ほら杉元もこう言っていることだし、と期待の眼差しで見つめられてしまい、牛山は逃げ場を失った。覚悟を決めて少量を人差し指に乗せておそるおそる口に運ぶ。特ににおいはなく、例えるならば白子のようで深い味わいだろうか。
 次にアシパは小夜子に差し出そうとしたのだが、

「小夜子、やめておけ」

 隣で事の成り行きを静かに眺めていた尾形がいらないと断ってしまったので食べることが出来なかった。
 和人であるため、小夜子もアシパに出会うまで動物の脳味噌を食べたことはなかった。そのため、食べ慣れていない食材に抵抗がなかったと言えば嘘になるが、アイヌの文化や風習を自分でも体験して理解を深めたいという一心で脳味噌を口にした。今ではアシパと同じように脳味噌を抵抗なく食べられるようになっている。
 尾形は単純に食べたことがないので拒否したのだろう。

「百之助君も一回食べてみたらどう? 好みの味わいかもしれないわよ?」

「いらん」

 取り付く島もなく突っぱねられた。

 それからヤマシギは内臓ごとイタタニの上でチタタにすることになった。
 チタタとはアイヌ語で『我々が刻むもの』という意味で、交代しながら叩くため『我々』といわれる。
 新鮮な肉や内臓を叩く際に使うのは、イタタニと呼ばれる肉切り用まな板だ。板目のまな板は叩くうちに木の繊維が細かく切れて肉に混ざるため、材質が堅くにおいの少ないナラなどを輪切りにしたものが用いられる。
 アシパに教わって牛山が肉や内臓を叩いたのち、小夜子に交代して叩く。
 最後に尾形へと順番が回ってきたが、彼は何も言わずに叩いていく。無言で山刀と銃剣で叩き続けていると、そばで見張っていた杉元が相棒に報告した。

「アシパさん! 尾形がチタタプって言ってません!」

「尾形ぁ? どうしたぁ?」

 もはや特技ともいえる変顔でアシパが尾形に詰め寄るが、それでも尾形は無言を貫き通した。

 肉や内臓が細かくなめらかになったことを確認すると、アシパはチタタを一口大に丸めて煮え立つ鍋に投入した。もちろんプクサを入れることも忘れない。
 しばらく煮込めば、ヤマシギのチタタのオハウが完成した。いただきますと言うと杉元、牛山、小夜子は温かい汁物に顔を綻ばせ、尾形はいつもと変わらぬ表情で汁をすする。
 対立している陣営の人間でも、食事の席ともなればその関係は意味をなさない。空腹を満たすには敵対関係すら凌駕してしまうことを感じながら、アシパは食への感謝を口にした。

「そうだ。アイヌの神話にはヤマシギのカムイが出てくるお話がある」

 肉団子となったチタタを味わったアシパが、ふと顔を上げた。

「クマゲラのカムイとの恋のお話、題して『ヤマシギの恋占い』だ」

「恋のお話? 聞かせて……?」

 ヤマシギに関する話をしようとアシパが言うと、杉元は乙女のように瞳を潤ませ、小夜子はいつものように雑記帳と鉛筆を取り出して書き留め始めた。

 ノーノチキ
 小さな私の恋人に逢いたくて山に行きました
 大きなギョウジャニンニクの畑があったので

 ノーノチキ
 私の好きな人に逢えるのなら
 皮が剥けずに根もついたまま引き抜けるはず

 ノーノチキ
 そう言って私が引き抜いたら
 千切れて新しい葉っぱしか抜けなかった
 腹が立ったので空高く放り投げて
 また山へ向かいました

 ノーノチキ
 今度はオオウバユリの畑があったので
 小さな私の恋人に逢えるなら
 ちぎれないで引き抜けるはずと
 そう言いながらも引き抜くと
 上手く抜けました

 ノーノチキ
 私は嬉しくなっていると
 山で舟を彫っていた小さな私の恋人が
 微笑みを浮かべながら私を見つめていたので
 手に手をとって出かけました


 アシパが話してくれた内容は、ヤマシギの女の子が恋仲のクマゲラの男の子に逢いたくて山に行く話であった。
 ギョウジャニンニクがたくさん生えているところに来たヤマシギは、『簡単に引っこ抜けたら彼に逢える』という願掛けをした。しかし、ギョウジャニンニクは葉だけがちぎれて根が抜けなかったため、腹を立ててその葉を放り投げた。
 さらに山を登るとウバユリが生えているところに出た。同じ願掛けをして引き抜けば、すっぽり根ごと抜けたので喜んだ。すると彼がにこにこしながら見つめていたことに気付き、二人は手に手を取って仲睦まじく出かけた──という内容だ。

 恋人に逢えるか逢えないかを占う話に、杉元と牛山はときめいて顔を見合わせた。小夜子も可愛らしい内容の話を微笑ましく思いながら書き留める。
 それから五人は鍋の中のオハウを全てたいらげた。


2020/03/28

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