第4話 魔法の行使
モモンガとアーデルハイトは魔法を放つため、闘技場の隅に立てられた藁人形に指を伸ばす。
モモンガの習得魔法は、単純なダメージを与える魔法より、即死などの副次効果を与える魔法に特化している。そのため、無生物には効き目が弱い。職業も死霊系統を選んでその類の魔法を強化してきた結果、単純なダメージ力は戦闘特化の魔法職には数段劣ってしまう。
一方、アーデルハイトは純粋な戦闘向きの魔法職だ。習得魔法は、単体・範囲共にバランス良く取っており、ブースト系の魔法も揃っている。全体を見て、どの行動を取りどの魔法を使えば無駄がないか。常に戦況を見据えて次の手を考える戦術が得意なため、ギルドの諸葛孔明と言われたぷにっと萌えからは「参謀役に向いている」と称賛されたほどだ。また、MP量も多く多彩な魔法を習得しているため、ウルベルトからは「ワールド・ディザスターになったらどうだ?」と言われたこともあった。
モモンガがアウラとマーレを実験に参加させた理由は二つある。
まず一つは、他の守護者が来る前に自らの力を見せ、自分と敵対することの愚かさを教えること。まだ幼い二人が裏切る気配はなく、むしろ尊敬する視線を向けるほどモモンガとアーデルハイトに従順だ。
それでもキャラクター設定にあらゆる状況への反応、行動について完璧に定められているわけではなく、隙間とでもいうべき部分があるかもしれない。忠誠心に関する設定を書き込まれた者は多くはない。となれば、命令に従うか従わないかは、それぞれの判断となる。従わないだけならまだしも、モモンガやアーデルハイトに実力がないとみなして反旗を翻すような性格だとどうするか──
そしてもう一つは、万が一魔法が発動しなかった場合に、アウラとマーレを相談役とすることだ。双子はスタッフの力を確かめに来たと思い込んでいる。であれば、マジックアイテムの力が発動することは実証済みなので、いくらでもごまかしはきくだろう。
《モモンガさん、とても慎重ですね》
アーデルハイトからメッセージが届く。
《守護者が反旗を翻すようなことにならないよう、常に石橋を叩いて渡る精神で行くつもりです。……自分はこんなに頭の回る人間だったんでしょうか……》
《……個人的な感想を言えば、モモンガさん、転移前より落ち着いているように感じられます。アンデッドそのものになったのであれば、その影響なのかもしれません》
やや神妙なトーンでアーデルハイトが答えた。
アンデッドの特性の一つに、精神効果無効がある。もしかすると、アンデッド化で以前より冷静に物事を見ることが出来、判断を下せるようになったのでは、とアーデルハイトが仮説を立てる。
《そう……なのかもしれませんね……》
確実なことが言えないので言葉を濁したモモンガは、気持ちを切り替えて藁人形を再び見据える。
ユグドラシルに存在する魔法の総数は、行使レベル第一位階から第十位階、それに超位を加えると六千を超える。これらが複数の系統にわかれて存在するのだが、その中でモモンガが使える魔法の数は七百十八で、アーデルハイトが六百二。通常のプレイヤーは三百なので、二人とも破格の数だ。
まずはフレンドリーファイアが解禁されているので、効果範囲がどのように現れるかを知らなければならない。そのため、効果対象が単体ではなく範囲を選択。次に標的が藁人形だということも考える。
ユグドラシルでは、浮かび上がるアイコンをクリックするだけで魔法は発動したが、今はそれが出ない。それでもモモンガは、どうすれば発動するのかを理解した。己の中にある力。意識をそれに向けた。
──わかる。魔法の効果範囲、発動後のリキャストタイムが、完璧にわかるのだ。
〈ファイヤーボール〉
藁人形へ向けた指の先で炎の球が膨れ上がり、打ち出された。モモンガの狙いどおりに藁人形に着弾すると、火球を形成していた炎は衝撃で弾け飛び、内部にため込んだ炎を一気にまき散らした。広がった炎が周辺の大地を含め、瞬時に嘗め尽くす。
「次はアーデルハイトだ」
モモンガが焼いた藁人形から少し離れたところに用意された別の藁人形に、アーデルハイトが手を伸ばす。意識を集中させ、アーデルハイトも単体魔法ではなく範囲魔法を選択。頭の中に浮かび上がったその魔法を、藁人形へと放つ。
〈ダイヤモンドダスト〉
アーデルハイトの手のひらの先から、白銀に煌めく細かい粒子と風が同時に放出された。前方に向けて放たれた冷気が、藁人形だけでなく周囲の大地や闘技場の壁すらも凍てつかせる。
「……アウラ、別の藁人形を準備せよ」
「あ、はい、ただいま!」
モモンガとアーデルハイトの魔法を食い入るように見つめていたアウラが我に返り、慌ててドラゴン・キンに藁人形を新しく用意させる。
〈ナパーム〉
藁人形から逸れてほんのわずか横に、突如周囲を包み込みながら火柱が吹き上がった。モモンガは一拍の呼吸を置き、残骸となった藁人形に魔法を放った。
〈ファイヤーボール〉
再び火球が炸裂すると、藁人形は完全に破壊された。
リキャストタイムも、ユグドラシルと同じだった。逆に、発動させるまでの流れは、範囲魔法の場合は魔法を選択し、範囲を示すカーソルを移動させないで済むぶん、ユグドラシルより早いかもしれない。
モモンガがアーデルハイトへ目配せし、魔法を放てと目で指示を出す。
「すまんが儂から離れてくれんか? 少しばかり範囲の広い魔法を使ってみたいのじゃ」
アーデルハイトの言葉にモモンガ達は了解し、彼女から離れて様子を伺う。アーデルハイト本人も、念のためモモンガ達と距離を取る。
「アーデルハイト様、どんな魔法を使うんでしょうか?」
「こ、広範囲で距離を取れってことは、も、もしかして、全方位の魔法かな……」
アウラとマーレが興味津々といった感じでアーデルハイトを注視する。
「ほう。マーレ、いい推理をしている」
「そ、そ、そうですか? あ、ありがとうございます」
モモンガの言葉に、マーレは嬉しそうに破顔した。
アーデルハイトの習得魔法の中でも広範囲に及ぶ強力な、尚且つ彼女自身を中心に発動する魔法といえばおそらく──
〈ジャックフロスト〉
アーデルハイトが魔法を発動した直後、彼女から放射状に霜が発生し、地面すらも凍っていく。やがて辿り着いた藁人形を瞬く間に氷が覆っていき、パキパキとひびが入り、最後は粉々に砕け散った。
魔法発動者であるアーデルハイトの周囲30mは凍土と化したのを見た双子は、あんぐりと口を開ける。そんな二人を見たアーデルハイトは、苦笑いを浮かべてモモンガ達のところへ駆け寄る。
「あー、悪い。少し力んでしもうたようじゃ。普段はこの半分程度なんじゃが」
「ふ……魔法が使えてはしゃいでいるようだな」
以前ユグドラシルで見かけたジャックフロストの効果範囲は、これほどまでに広くなかった。それが広がったということは、アーデルハイトの言うとおり魔法が使えることに充実感を得たからだろう。モモンガも同じ高揚感を覚えたので彼女の気持ちがわかる。
「モモンガ様、藁人形をもっと準備した方が宜しいでしょうか?」
「いや、それには及ばない。もっと別の実験を行いたいからな」
モモンガはアウラやアーデルハイトに断りを入れると、メッセージの魔法を使う。
連絡する相手は、まずはGM。次にアーデルハイト以外のギルドメンバー。しかしそのどちらにもメッセージは繋がらなかった。あらかじめ予想は出来ていたとはいえ、失望は大きい。
今度はセバスへ魔法を飛ばすと繋がった。
『これはモモンガ様』
落ち着き払ったセバスの年相応の声が聞こえてきた。
『周辺の様子はどうだ?』
『はい。周辺は草原になっており、知性を持つ存在の確認は出来ておりません』
『草原? ……沼地ではないのか?』
『はい、確かに草原です』
かつてのナザリック地下大墳墓は、ツヴェークと呼ばれる蛙人間に似たモンスターが住む大湿地の奥にあった。周辺には薄い霧が立ち込め、毒の沼地が点在する中にぽつんと存在したはずであったが。
ナザリック自体が、不明な場所にまるごと転移してしまったのだろうか。
『では、空に何か浮かんでいたり、メッセージが流れていたりということはないか?』
『いえ、そのようなことはございません。第六階層の夜空と同じものが広がっております』
『夜空だと? ……他に周辺に気になるようなものは?』
『特別なものはございません。ナザリック地下大墳墓を除き、人工的な建造物すら見受けられません』
『……そうか……』
何を言えば良いのだろう。モモンガは頭を抱えることしか出来なかった。
セバスは沈黙した。モモンガからの指示を待っていることがわかる。左手首のバンドに視線をやれば、他の守護者が来るまであと二十分ほど。であれば、ここで命令することはただ一つ。
『あと二十分で戻ってこい。戻ったら、アンフィテアトルムまで来ること。守護者全員を集めているので、そこでお前が見たものを説明してもらう』
『かしこまりました』
『では、それまで出来る限り情報を収集せよ』
セバスの了解の意を聞くと彼との通信を解除し、次にアーデルハイトへ繋げる。
《アーデルハイトさん、セバスによると、やっぱりナザリックごと何処かに転移してしまったようです》
《そうですか……》
《外は草原に変わって、夜空があるそうです》
《え、夜空が!?》
草原に転移したことよりも、夜空があるということにアーデルハイトが反応した。
《うわぁ、本物の夜空見てみたいなぁ! この階層の夜空もいいですけど、天然の星空は格別なんでしょうね!》
テンションと比例して、アーデルハイト本人の長い耳がぴょこっと動いた。そういえば、彼女もブルー・プラネットも自然が好きで、よく自然について会話する二人を目にしたことをモモンガは思い出した。
《モモンガさん、今度外に出てみましょうよ!》
《そうですね。何だか威厳出しすぎてちょっと気疲れしたので、息抜きに外出してみましょうか》
外出の約束を交わした二人は、期待を込めた双子の視線に気づいた。スタッフの力を確かめると言った以上、その力の解放を見せてやる必要がある。モモンガはスタッフを握りしめるが、何を発動させようか迷っていると、スタッフに込められた無数の力が自らを使えと語りかけてくるような感覚がした。
そんな中選んだのは火の宝玉。
〈サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル〉
蛇のくわえる宝石の一つに、力の揺らめきが起こる。モモンガがスタッフを掲げると、その先に巨大な光球が生まれ、それを中心に桁外れな炎の渦が巻き起こる。渦は次第に大きくなり、直径4m、高さ6mまで膨らんだ。同時に、紅蓮の煉獄が周囲に熱風を巻き起こす。
モモンガの視界の隅で、二体のドラゴン・キンが自身の巨体でアウラとマーレを、テオドールもアーデルハイトを熱風から庇っている。
アンデッドであるモモンガは炎が弱点なのだが、そこは絶対耐性を有しているので影響ない。
やがて炎の竜巻は人の姿を取る。
プライマル・ファイヤーエレメンタルは、元素精霊の限りなく最上位に近い存在で、80レベル後半という強さのモンスターだ。召喚したため、ムーン・ウルフの時と同じ結びつきを感じた。
「うわぁ……」
アウラが感嘆の声を漏らした。召喚魔法では決して呼び出すことの出来ない最上位クラスの精霊を前に、おもちゃを与えられた子供のような表情を見せた。
「戦ってみるか?」
「え?」
「え? え!?」
モモンガが何の気なしに呟いた言葉に、アウラは無邪気な子供の笑みを、マーレは歪んだ表情を浮かべる。
「いいんですか、モモンガ様?」
「構わんよ。別に倒されたところで問題はないからな」
スタッフの力では一日一体しか召喚出来ない。また明日になれば新たに召喚出来る程度の存在なので、これが倒されても特に問題はない。
「あ、あの、ボク、しなくちゃいけないこと思い出したから……」
「マーレ!」
こっそり逃げようとするマーレを、アウラががっしりと捕まえる。逃がす気はさらさらないという態度の表れだった。アウラはにっこりと笑顔でマーレを引きずり、連れていかれるマーレは恐怖で凍りついている。
「まあ、二人ともほどほどに頑張れ。怪我をしてもしょうがないからな」
「はーい」
「は……はぃ……」
陽気なアウラの声のあと、消え入るような暗いマーレの声も聞こえた。
モモンガはプライマル・ファイヤーエレメンタルに双子を攻撃するよう命令を出すと、他に調べたいことがあるので思案を巡らせる。
魔法とアイテムの起動確認は済んだ。次は持ち物だ。特に重要なのはスクロール、スタッフ、ワンドといったアイテム。どれも魔法が込められており、スクロールは使い捨ての巻物、スタッフとワンドは決められたチャージ回数だけ魔法を発動させることが出来る。
「アーデルハイトさん、今度はアイテムについて確認しようと思います。アーデルハイトさんも、アイテムはかなり持っていましたよね」
「はい。アイテムボックスを整理するのが日課になるくらい、たくさんありました」
モモンガもアーデルハイトも、かなりの数のアイテムを保有していた。だが、消費アイテムはもったいないの精神が働き、なかなか使えない性格のため、二人ともアイテムボックスがあふれかえるほどの数を有していた。一言で表せば貧乏性である。
ユグドラシルでアイテムボックスに入っていたアイテムは、転移した今、何処にあるのだろう。
「アイテムどうなっちゃったんでしょうか……まるごとなくなっていたら結構ショックです」
「……もしかしたら、魔法と同じかもしれません」
「魔法と?」
「はい。魔法も、効果や範囲のことを考えながら使うと、ユグドラシルと同じように使えました。だったら、アイテムもアイテムボックスのことを意識すればいいんじゃないでしょうか」
モモンガの憶測に、アーデルハイトは納得した。
早速、二人はアイテムボックスを開く時のことを思い出しながら中空に手を伸ばす。すると手首から先が湖面に沈むように何かの中に入り込む。他者から見れば、彼らの腕が途中から空間に消えたように見えているだろう。
そのまま窓を開けるように横に大きくスライドさせれば空間に窓のようなものが開き、いくつものアイテムが整列していた。まさにユグドラシルのアイテムボックスだ。
手を動かしてアイテム画面とでもいうべきものを、スクロールさせる。消費アイテム、武器、防具、装飾品、宝石、ポーションなどが、しっかりと存在していることに二人は安心した。
「……何とも不思議な光景です」
アーデルハイトのそばに控えていたテオドールが呟いた。アイテムボックスを開いている本人以外には、手の先がなくなって見えているのだから当然だ。
「そうかもしれんな。じゃがなテオドール、これも今後のことを考えたら、とても重要なことなのじゃ。儂らの助けになるアイテムがあるのじゃからな」
「さようでございましたか」
そういえば、とアーデルハイトはアイテムボックスを探り、二つの指輪を取り出した。
「その指輪はどのような品なのですか?」
「精神作用を無効化する指輪じゃ。他にも同程度の効果を持つアイテムはあったと思うが、指輪だと邪魔にならんじゃろう。テオドールもつけておくと良い」
効果をテオドールに説明したアーデルハイトは、左手の小指に指輪を装着する。これがあれば、アウラがうっかり吐息を漏らしたりしても作用しない。
ちなみに右手の小指には、毒や麻痺などの状態異常を無効化する指輪を着けている。
「ありがたく頂戴致します」
テオドールは跪いて深々と頭を下げて指輪を受け取り、アーデルハイトと同じように左手の小指に装着した。別に跪かなくてもいいのにとアーデルハイトは内心呟くが、主人から賜る品なのだからそこは蔑ろには出来ないのだろうと苦笑した。
モモンガは、精霊と戦っている双子を視界におさめつつ、今まで得た情報をまとめ上げる。
今まで会ってきたNPCはプログラムではなく、意志を持つ存在になった。
この世界はユグドラシルと似ているが、ゲームではなく異世界へと変わった可能性がある。
これからの自分達の身の振り方は、上位者として威厳をもって行動するしかない。
今後の行動方針は情報収集に努め、油断なく慎重に進めていく他ない。
そして──ここが仮に異世界だとして、自分達は元の世界に戻るよう努力すべきか、という疑問がモモンガの中で生まれた。
もし友達が、両親が、恋人がいたら、今頃死に物狂いで戻る方法を探っている。だが、モモンガにはそういう存在はいない。会社に行き、仕事をして、帰宅して寝る。今までなら帰宅後ユグドラシルに入って仲間がいつでも戻れるよう準備をしていたが、それもない。
ただ、一人だけ一緒にここにいる。
《……アーデルハイトさんは、もし現実世界に戻れる手段があれば、戻りたいですか?》
アウラとマーレの戦いを見つめていたアーデルハイトにメッセージを送る。突然で失礼だと思いつつも、聞かずにはいられなかった。
「……本心を言えば、あまり戻りたいとは思っていません」
アーデルハイトが戻りたくないという返答にモモンガは驚いた。
そして、メッセージではなく直接言葉に出している。それほどまでに、戻りたくないというのが本心なのだとわかる。
「……何故戻りたくないか、理由をお聞きしても……?」
「……ほとんどのギルドメンバーには明かしていませんが、私の実家、わりと裕福なんです。両親も絵に描いたような人格者で、貧しい人達へのほどこしを惜しまない……そんな両親でした」
言葉の最後のトーンが下がったことに気づいたモモンガは、まずいことを聞いてしまったと後悔した。
「貧困層から知識を奪い、蔑ろにしている富裕層は間違っているというのが、両親の考えでした。ごく一部の裕福な人間が私腹を肥やすのではなく、力のない人達を援助していくべきだ、と」
現実世界は深刻な環境汚染が激化し、酸素マスクをつけないと外に出られないほど汚染されているのだ。行政が破綻した結果、国家は崩壊。巨大企業が国家の代わりとして機能している。
かつて義務教育はどんな家庭の子供も無料で受けられた時代があったが、今はその制度は廃止となり、小学校に通うだけでも莫大な費用がかかる。そのため、小学校を卒業しただけでも貧困層では勝ち組ともいえるだろう。
「そんな両親の考えを邪魔に思った一部の富裕層が計画したテロに巻き込まれて、両親は亡くなりました」
「……そんな……すみません、聞いてしまって」
「あ、いえ、モモンガさんは悪くありません。私が勝手に話してるだけで」
そんなに落ち込まないでとアーデルハイトが苦笑いを浮かべる。
「富裕層の多くが、自分達さえ快適であれば下の存在はどうなろうと構わないという考えを持っているんでしょうね。でも、それは間違っています。国を支えるのは国民であり、国民のいない国は国ではありません。国のトップに立つ者はいくつもの特権を持ちますが、それは国を背負う責任があるからで、何も自分の好き勝手にしていいというものでは……」
思わず熱弁してしまった持論に、アーデルハイトは我に返って言葉を切る。モモンガだけでなく、テオドールも口をぽかんと開けてこちらを見つめてくる。
「あっ、ご、ごめんなさい……つい……」
「いえいえ、しっかりした考えを持っているようで感心しました」
「アーデルハイト様……従者としてとても誇りに思います。あなたが私の主人で本当に良かった」
モモンガ以上にテオドールが感銘を受けて跪き、深々と頭を垂れた。アーデルハイトは、そんなことはしなくていいとテオドールを立ち上がらせる。
ギルドメンバーのごく一部にしか出自を明かしていないというのは、確実にウルベルトが恨みを抱く対象となるからだろうとモモンガは考える。ウルベルトは貧困層出身で、富裕層出身のたっち・みーを何かにつけて毛嫌いしていた。それに対しアーデルハイトには恨む様子もなかったことから、ウルベルトには出自を明かしていなかったのだと思う。
「だ、だから……えっと、元の世界は夜空や自然がないから、私はここがいいんです。それに、自分の作ったテオドールを見捨てられませんし」
自分のせいで重くなった空気を払拭しようとアーデルハイトが笑顔で他の理由を言えば、モモンガからようやく明るい声が発せられた。
「確かに、アーデルハイトさんは自然が好きですもんね」
だからあとで外出しましょうと目を輝かせて語りかけてくるアーデルハイトに、モモンガは再度約束を交わした。
「……アーデルハイト様……! ああ、私の創造主たるアーデルハイト様……!!」
自分を見捨てられないと言ったアーデルハイトの言葉に感激したテオドールが、またしても跪いて忠誠を誓う。
だが、戻れるなら戻れる方法を探した方が良いだろう。選択肢は多いに越したことはないのだから。
2017/05/19
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