第3話 第六階層


 モモンガ達が転移した場所は薄暗い石造りの通路だった。壁には松明の炎がゆらめき、通路の先には大きな格子戸がある。転移は成功だ。
 通路を歩けば、三人の足音が壁に反射して幾重にも響き渡る。格子戸に近づくにつれ鼻は匂いを感知した。強い青臭さと大地の匂い。まさしく深い森のそれだった。
 ゲームであれば嗅覚や味覚は削除されているため感知することはない。そのため、漂う匂いにここはゲームの世界ではないのだと改めて認識させられる。

 モモンガ達が格子戸に近寄ると自動的に開いた。通路を出た先は屋外となっており、建物の構造はまさにローマの円形闘技場そのものだ。周囲をぐるりと囲む観客席にはゴーレムが座っているが、動く気配はない。
 この場所につけられた名前は円形劇場(アンフィテアトルム)。俳優は侵入者、観客はゴーレム、貴賓席に座るのはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーだ。演劇内容は殺戮。かつて千五百人の大侵攻を受けた時以外では、どんなに強いプレイヤーもここで最期を遂げた。

「今は『夜』じゃな」

 アーデルハイトが空を見上げた。頭上は夜空が広がっている。アンフィテアトルム内の明るい白色の照明がなければ、星も見えたことだろう。
 ここは地下にあたるので、今見上げている空は作り物だ。自然にこだわるメンバーが、昼と夜が交互に訪れるようデータを割り振っているのだ。

「作り物の空とはいえ、この階層の空は見事なものじゃ。夜空を楽しみたいと思うが、今はその時ではないな」

「うむ。ここには双子がいるはずなんだが……」

 周囲を見回しても、目的の人物の姿はない。その時、貴賓席の方からの視線を感じてそちらへ顔を向けると、

「とあ!」

 短く発せられた声が響く。直後、一人の少女が貴賓席から飛び降りた。高さにして六階建てのビルに相当する場所からの衝撃はかなりのものだろう。それなのに少女は軽々と着地した。落下時の衝撃を魔法で軽減した様子もないので、単純な身体能力で衝撃を受け殺したのだ。
 すぐにモモンガ達の元へ駆け寄ってきたその少女の外見は十歳程度。明るい金髪は短めに揃えられ、浅黒い肌と長い耳、左右で異なる瞳を持つ。赤黒い竜王鱗をはりつけた軽装鎧に、白地を金糸で縁取ったベストと揃いの長ズボンを身にまとい、金色のドングリのネックレスが輝いている。武器として鞭を束ね、巨大な弓を背負っていた。

「ぶい!」

 両手でピースを作るその少女は、魔獣や幻獣を使役するビーストテイマー兼レンジャーのアウラ・ベラ・フィオーラ。ダークエルフであり、第六階層『ジャングル』を守護する階層守護者だ。

「いらっしゃいませ、モモンガ様、アーデルハイト様、それにテオドール。あたしの守護階層までようこそ!」

 モモンガは敵感知(センス・エネミー)で敵意を探るが、そういったものはアウラから感じられなかった。

「少し邪魔させてもらうぞ」

「何を言うんですか! モモンガ様とアーデルハイト様はナザリック地下大墳墓の主人。絶対の支配者です。その方々が何処かをお訪ねになって邪魔者扱いされるわけがないじゃないですか!」

 敬服というより親しみを感じられるアウラの態度に、モモンガとアーデルハイトは少しばかり安堵した。敬われることに慣れていない二人にとって、アウラの堅苦しくない快活さはありがたかった。

「そういうものか? ところでアウラだけか?」

「マーレの姿が見えんようじゃが……」

 第六階層守護者は双子である。つまりもう一人存在するのだが、双子の片割れの姿が見えない。

「マーレ、モモンガ様とアーデルハイト様が来てるんだよ! 早く来なさい、失礼でしょ!」

 アウラが睨みつけるのは貴賓室。その暗がりに、ぴょこぴょこ動く影を確認出来た。

「全く、あの子ったら弱虫なんだから……とっとと飛び降りなさいよ!」

「む、無理だよぉ……お姉ちゃん……」

 ナザリックの主人であるモモンガとアーデルハイトが来ているのに、従者が姿を見せないとは失礼にも程がある、とアウラが片割れを叱責する。

「モモンガ様、アーデルハイト様、あの子は臆病なんです。わざとこのような失礼な態度を取っているわけじゃないんです」

「無論、了解しているともアウラ。私はお前達の忠義を疑ったことなど一度もない」

 社会人は本音と建て前を使い分ける。嘘も方便だ。それでもアウラが安心したのがわかる。

「最高位者であるモモンガ様とアーデルハイト様が来ていらっしゃるのに、すぐに階層守護者が出迎えないことがどれだけ最低なことか、あなたもわかってるでしょう!」

「か……階段で降りるから……」

「至高の御方々をこれ以上待たせる気!?」

「わ、わかったよぉ……え、えい!」

 すぐに貴賓席からおりないとアウラの蹴りが飛んでくるだろう。臆病な片割れは意を決して貴賓席から飛び降りた。が、アウラとは違い、着地時よろめいてしまった。それでも落下ダメージは受けていないのだから、身体能力は決して低くはない。
 か弱い女の子がぽてぽて走っている。そんな表現が相応しいくらい、マーレの走り方はアウラに比べて頼りなかった。

「早くしないさいよ!」

「は、はは、はいぃ」

 遅れて現れたのはマーレ・ベロ・フィオーレ。藍色の竜王鎧の胴鎧に、深い森の葉のような丈の短いマントやねじくれた杖を装備している。基本的な恰好はアウラと似通っているが、マーレはミニスカートを着用し、銀色のドングリのネックレスを身につけている。

《モモンガさん、これって偶然なんでしょうか……》

 モモンガに、アーデルハイトからメッセージが送られた。

《NPCって、設定としてはいろいろ文章を書き込めますが、人格までは表現出来ませんでしたよね》

《ええ……私も驚いています》

 ユグドラシルでは基本的にNPCは棒立ちしている。表情も動かせないので、いくら設定として書き込んだとしても、それがゲームで人格として反映されることはなかった。

《これがぶくぶく茶釜さんが本当に望んだ、アウラとマーレなんでしょうね》

 双子を作成したのは、ぶくぶく茶釜という女性プレイヤー。彼女にはペロロンチーノという弟がいて、姉の言うことには絶対服従させていた。目の前にいる双子は、まさにぶくぶく茶釜とペロロンチーノ姉弟そのものだ。

「お、お待たせしました……モモンガ様、アーデルハイト様」

 びくびくとモモンガを窺がう、アウラとは配色が反対の上目遣いのオッドアイが、モモンガとアーデルハイトを交互に見つめる。

「二人とも元気そうだな」

「元気ですよ。最近侵入者が来ないので暇を持て余しています」

「ボ、ボクは会いたくないよぉ……怖いもの……」

 階層守護者にはあるまじき弱気の発言に、アウラはとうとう我慢ならず、モモンガ達に断りを入れるとマーレを連れて少し離れる。どうやらアウラの説教が始まったようだ。

 侵入者──
 かつてギルド《アインズ・ウール・ゴウン》は上位ギルドとして名を馳せ、同時に『悪』のロールプレイを重視する傾向にあったため、他のプレイヤーからはDQNギルドとして悪名高かった。そのため、ちょくちょくナザリックに侵入者が入ってくることは珍しいものではなく、そのたびにメンバーが返り討ちにするのが常であった。
 ある日、千五百人が一度に侵攻してきた時もあった。ここ第六階層も突破され、守護者として戦ったNPCのアウラとマーレは一度死んだはずである。その時の記憶はどうなっているのか気になったが、今更思い出させるのも藪をつつくようで良い気はしない。

 さて、そろそろアウラを止めてあげないとマーレがいたたまれない。モモンガは双子に声をかけた。

「アウラ、それぐらいにしてやったらどうだ?」

「しかしモモンガ様──」

「問題ないとも。階層守護者の地位にあるマーレが、私の前で臆する言葉を発することがまずいと思っていることもわかる。だが、いざ侵入者がこのナザリック地下大墳墓を攻めて来たら、勇気をもって死を恐れずに立ち向かってくれると信じている。すべき時にするのであれば、さほど叱る必要もなかろう」

 モモンガは双子のところまで歩み寄ると、いつの間にか正座になって説教を受けているマーレへ己の手を差し出した。立ち上がれという意味だ。

「マーレ、優しい姉に感謝すべきだぞ。あれだけ叱られているところを見せられれば、たとえ私が不快に思っていても許すしかないのだからな」

 マーレはモモンガの手を取って立ち上がって足についた砂塵を払い落とし、驚いた表情でモモンガを見上げた。
 アウラも慌てて声を上げる。

「え? いや、違う、違うんです! モモンガ様に対してそういう思いを抱いて、叱ったわけじゃないんです!」

「アウラ、構わないとも。たとえ真意がどこにあろうと、お前の優しい気持ちは充分に理解している。ただ、私はマーレの階層守護者の地位に、不安を抱いていないと知って欲しいのだ」

「え、あ、は、はい! ありがとうございます、モモンガ様」

「あ、ありがとうございます」

 モモンガが諭すように言い聞かせると、双子はきらきらした表情でモモンガを見つめる。

「支配者というよりも父親のようじゃな、モモンガ」

 アーデルハイトが茶化して笑うと、モモンガはますます困惑して言葉に詰まる。
 こんなに純粋な視線を向けられることに慣れていないモモンガは、照れ隠しで咳払いを一つ。

「ん、それよりアウラ。少し聞きたいのだが、侵入者が来ないと暇か?」

「あ、いえ……その、あの……」

「別に責めているわけではない。正直に教えてくれ」

「……はい、ちょっと暇ですね。この辺りで対等に戦える相手がいませんし」

 左右の人差し指をちょんちょんと突き合わせながらアウラが答えた。
 守護者であるアウラのレベルは100。それに匹敵する者は、このダンジョン内にはそうそういない。

「相手にマーレはどうだ?」

 モモンガが名前を挙げると、マーレがびくりと跳ね上がった。目が潤み、プルプル震えているのを見るに、完全に怯えている。臆病な片割れにアウラは大きくため息をつく。すると、甘い香りが漂ってきた。身体に絡みついてくるような匂いだ。モモンガは甘い匂いから離れようと一歩後退する。アーデルハイトもすぐさま後退しようとした時、身体が宙に浮いた。匂いの効果を察知したテオドールが、アーデルハイトを抱きかかえてアウラと距離を取ったのだ。

「あ、すみません!」

 しまったという表情に変わったアウラが、すぐに匂いを拡散させようとパタパタと手を振る。
 アウラの持っているビーストテイマー系のパッシブスキルの一つに、バフとデバフを同時発動させるものがある。それは吐き出す息によって空中を漂い、半径数mから数十m、スキルを使えばもっと遠距離であっても効果範囲に収める。
 ユグドラシルであればバフ、デバフの状態になると効果アイコンが視界内に現れるため発動していることに気がつくが、現在はその変化が一切表示されないのでかなり厄介だ。

「もう大丈夫ですよ。切っておきましたから」

「そうか」

「でも、モモンガ様はアンデッドですから、精神作用の効果はないんじゃないですか?」

 そこまで言って、アンデッドではないアーデルハイトとテオドールには影響あるかもと気づいたアウラは、しまったという表情になる。

「大丈夫か、アーデルハイト」

「ああ、儂は問題ない。ありがとうテオドール、降ろしてくれ」

 アーデルハイトは地面に降りると、再びモモンガ達のところへ歩み寄る。

「……アウラ、今のは私達は効果範囲に入っていたのか?」

「え」

 アウラが怯えたように首を縮め、隣のマーレも同じように首を縮めた。
 アンデッドには精神作用の効果は受けないが、人間種のアーデルハイトは多少なりとも影響を及ぼしてしまっていたかもしれない。そのことにアウラは怯えているのだ。

「そんなに怯えんでも良い。精神作用無効のアイテムを装備していなかった儂に非がある。じゃから怒る理由もない」

「アウラ、それほどかしこまるな。お前の本気でもないスキルに、私が影響を受けると思うのか? アーデルハイトが効果範囲内にいたのであれば、私も範囲内だったのだろう? それを単純に尋ねているだけだ」

「はい。えっと、範囲内でした」

 モモンガとアーデルハイトがなるべく優しい声音で話しかけると、ようやく安堵の色を見せたアウラが答えた。それほどまでにアウラから恐れられていたのだとモモンガは悟る。

「それで、どのような効果を与えるものだった?」

「さっきのは……確か恐怖です」

「なるほど」

 恐怖というものはモモンガには感じられなかった。ユグドラシルでは、同じギルドに所属する者やチームを組む者へのフレンドリーファイアは無効になる。今はそれが解除されている可能性が高いが、はっきり確認しておくべきだろう。

「昔はアウラの力は同じギ……組織に所属する者にはネガティブな効果は発揮されないと思ったんだがな」

「え……?」

 アウラはきょとんとした表情になる。隣のマーレも同じだ。
 モモンガは、そうではなかったか、と心の中で呟く。

「気のせいだったか?」

「効果範囲は自分で自在に変化させられますから、それと勘違いされたんじゃないでしょうか?」

 モモンガの言葉の意味を理解出来ないアウラは、そう言って苦笑する。
 やはりフレンドリーファイアは解禁されているらしい。マーレが影響を受けないのは、おそらく精神作用を無効にするアイテムを装備しているからだろう。
 アーデルハイトは自分で言ったように、無効化アイテムを装備していなかったから、あのまま範囲内に留まっていれば影響を受けていた。
 アンデッドのモモンガが装備しているゴッズアイテムには、精神作用への耐性効果を持つデータは組み込まれていない。モモンガが恐怖を感じなかったのは何故か。
 二つの憶測が成り立つ。基本的な能力値による抵抗。もしくは、アンデッドの特殊能力として、精神作用無効化が発揮されている。そのどちらかだ。

「他の効果を試してくれないか?」

 モモンガの真意を不思議に思ったアウラが首を傾げる。まるで子犬のような仕草に、モモンガは思わず手を伸ばし、アウラの頭を撫でた。サラサラとした金の髪。嫌がる素振りもしない。
 けれど、じっと見つめてくるマーレの視線が怖くなり、もう片方の手でマーレの頭も撫でた。こちらも触り心地が良い。

「……父親じゃな」

「ですね」

 モモンガと双子の様子を見ていたアーデルハイトとテオドールが小さく呟いた。ハッとしたモモンガは、すべきことを思い出して手を止めた。

「さて、頼む。現在いろいろと実験中でね。アウラの協力を仰ぎたいのだ」

 先程まで困惑した双子だったが、頭を撫でた影響なのだろう、手を離す頃には嬉しいような恥ずかしいような、まんざらでもない表情へと変わっていた。

「はい、わかりましたモモンガ様。お任せ下さい!」

「その前に──」

 モモンガはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを握り締め、意識を集中する。無数に宿る力の中で、モモンガが選んだのはスタッフにはめ込まれた宝石の一つ、ゴッズアーティファクト『月の宝石』に宿っている力。
 月光の狼の召喚(サモン・ムーン・ウルフ)──
 力を発動させると、空中からにじみ出るように三匹の狼が現れた。シベリアオオカミに似たその獣は、ほのかな銀色の光を放っている。
 召喚されたモンスターとの間に、モモンガは支配者と被支配者の関係を示す奇妙な繋がりを感じ取った。

「ムーン・ウルフ、ですか?」

 どうしてこんな弱いモンスターを召喚したのか、という疑問をアウラは抱く。
 ムーン・ウルフは移動速度が速く奇襲要員としてよく使われるが、レベル20程度の、モモンガ達からすれば弱いモンスターだ。だが、今回は弱いモンスターで充分なので、モモンガはそのまま話を進める。

「そうだ。私ごと吐息の効果範囲に入れて欲しい」

「いいんですか?」

「ああ、構わない。アーデルハイト、すまないがテオドールと共に少し離れていてくれ」

「承知した」

 モモンガの意図に気づいたアーデルハイトは、テオドールを連れて彼らから再度距離を取った。

 ゲームと完全に同じではない今、可能性として無視出来ない問題がある。アウラの能力が正しく機能していないという場合だ。それを避けるためには、第三者と同時に影響を受ける必要がある。アーデルハイトとテオドールに影響を受けさせるわけにもいかないため、ムーン・ウルフを召喚したのだ。
 しばらくアウラが息を何度も大きく吐き出すが、モモンガが何かしらの影響を受けた様子はなかった。途中、後ろを向いたり精神を弛緩させたりもしたが、やはり効果はない。範囲内のムーン・ウルフには影響があったので、アウラの力が発動していないわけではない。
 つまり、モモンガには精神作用効果は無効であった。

「モモンガ。どうじゃ?」

 離れた場所で様子を伺っていたアーデルハイトが話しかけると、モモンガが返答する。

「充分な結果だ。もうこちらに来て構わんぞ。……アウラ、礼を言う」

 アウラに向き直ったモモンガは、召喚したムーン・ウルフを帰還させる。

「モモンガ様があたし達の守護階層に来られたのは、今のが目的なんですか?」

「ん? ああ、そうか。いや違う。今日来たのは、訓練をしようと思ってな」

「訓練……? え、モモンガ様が!?」

 アウラはもちろん、マーレも目を見開いて驚愕の表情を見せた。最高位のマジック・キャスターであり、ナザリック地下大墳墓を支配し頂点に君臨する存在が訓練をするという。

「そうだ。アーデルハイト、お前もやってみたらどうだ?」

「おお、そうじゃな。儂も試しにやってみるとしよう」

 モモンガだけでなく、アーデルハイトも自分の力がどれほどなのかを知る必要があるだろう。彼の意図をすぐに察したアーデルハイトの返事を聞くと、モモンガはスタッフを地面に軽く叩きつけた。それを見たマーレがやや興奮した様子で口を開く。

「あ、あ、あの、そ、それが最高位の武器……モモンガ様しか触ることを許されない、伝説のアレですか?」

 伝説のアレとはどのような意味なんだろうか。モモンガとアーデルハイトは微妙な疑問を覚えたが、マーレの瞳の輝きを見れば、それが悪い意味ではないことは容易に察知出来る。

「そのとおりだ。これが、これこそが我々全員で作り上げた最高位のギルド武器、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンだ」

 スタッフは周囲の光を反射して、見事なまでに美しく輝いている。ただ一つ問題があるとすれば、禍々しい黒い揺らめきも放っているため、邪悪な雰囲気しかないことだ。

「スタッフの七匹の蛇がくわえる宝石は、それぞれがゴッズアーティファクトだ。シリーズアイテムであるため、全てを揃えることによってより強大な力が引き出されている。これらを全て集めるために、多大な努力と莫大な時間を費やさなければならない。実際、私達の間でもやめようという意見が出たことが数え切れないほどあった。どれほどドロップするモンスターを狩り続けたか……。さらに、このスタッフ本体に込められた力もゴッズを超越し、かのワールドアイテムに匹敵するレベルだ。特に凄いのはこの自動迎撃システ……」

 つい我を忘れて語ってしまった、とモモンガは咳払いをした。
 かつての仲間達と共に作り出しながら、外に持ち出すことがなかったため、自慢したくても出来なかった。けれど、今その対象──アウラとマーレがいることによって、つい一気に語ってしまったのだ。本音を言えばまだ自慢したいのだが、モモンガは何とか押さえ込む。
 横からくすくす笑う声が聞こえてきた。アーデルハイトだ。骨の身体でなければ、今頃羞恥で顔が真っ赤になっていただろう。

「まあ、なんだ、そんなわけだ」

「す、凄い……」

「凄いですよ、モモンガ様!」

 双子のキラキラとした目に、モモンガは思わずにやけそうになる。もちろん骨だけの顔に表情の変化はないが。

「そういうわけで、ここでスタッフの実験を行いたい。いろいろと準備をして欲しい」

「はい、かしこまりました。すぐに準備をしますね。それで……あたし達もそれを見て宜しいですか?」

「構わない。私しか持つことを許されない最高の武器の力を見るが良い」

 アウラが嬉しさのあまり飛び跳ねた。マーレも喜色が隠しきれておらず、長い耳がぴこぴこ動いている。

「良かったのう、モモンガ。ようやくそのスタッフの力を使うことが出来て」

 双子に聞こえないよう小さい声でアーデルハイトが話しかけると、モモンガが言葉に詰まってわずかに唸る。

「ぐ……か、からかうな、アーデルハイト」

 照れている。モモンガは完全に照れている。

「……それとアウラ、全階層守護者をここに呼んでいる。予定ではあと一時間もしないうちに集まる」

「え? なら歓迎の準備を……」

「いや、その必要はない。時間が来るまでここで待っていれば良い」

「そうですか……って、守護者全員? シャルティアも来るんですか!?」

 守護者全員が来ると聞いて、アウラはしょんぼりとした。マーレはそれほどでもないようで、姉の落ち込みっぷりを見つめるばかり。設定としてはアウラとシャルティアは仲が悪いとなっていたが、マーレは別ということなのだろう。

(一体どんなことになるやら……)

 モモンガは心の中で小さく呟いた。


2017/05/13

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